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星の愛し子  作者: 瑛香
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第4話・・・白い部屋

 窓のない正方形の真っ白い壁に囲まれた部屋。空気の出入りする隙間はあるようだが、時間の経過とともにすこし息苦しく感じてくる。空気が薄いのか、心の問題か・・・・


 気がついたときには研究室ではない場所へ運ばれていた。地面を這うケーブルどころか、物と言えるものは壁と今あたしが座っている椅子以外存在しない。いや、もしかしたら存在するのかもしれない。暴れてもびくともしない椅子の上に拘束されたあたしには背後は見えないから。

 あれからどれくらい時間が経過しているのだろうか?

 窓もなく自分の感覚以外には時間というものを感じられない為気がついてからのおおよその時間しか分からない。ましてやこの異常事態の中では自分の感覚ですら時間の経過など信じられたものではない。


「・・・ナオキ、大丈夫かなぁ・・・」


 気を失う寸前に聞いた、あのリオナという女性の言葉を思い出す。


 ―――ねえ、不公平だと思わない?RIKI01はあたしも作ったのよ。でもあたしは一切評価されていないの。―――


 きっと、すべては彼女が起こしたことなのだろう。ナオキの昇進を快く思っていなかったのはその偉業を共に成し遂げたパートナー。手柄を一人占めしたと恨んでの行動ならば、あたしよりナオキに危険が及ぶ可能性のほうが高い。

 

 リキは・・・ナオキに言われて家に来たと言っていたけど、味方なのかしら?


 睡眠薬の後遺症かまるで頭にフィルターがかかっているように思考がまとまらない。ぼんやりしたまま、とりとめなく頭を働かせ続ける。白いこの部屋でなにもせずにいたら気がくるってしまいそうだから―――


 リキはナオキの味方?リオナの味方?それとも中立なのかしら・・・・でも・・・リオナの元へあたしを連れて行ったのだからやっぱりリオナの味方かしら。たしか心はリオナが作ったと言っていた気もするし・・・


 答えの出ない問答を続ける。答えを出すにはヒントが少なすぎて推理することすら出来ないまま。答えを出すよりも、自分の中にある無意識の理解を認識へと昇華することのほうが目的に近い。


 そういえば、何かをするために研究所へ行く必要があると言っていた気がするけど・・・なんだったっけ・・・


 答えのないまま思いつくまま疑問を並べていく。答えなど求めていないから。


 それにしても静かな部屋だな・・・あたしの呼吸くらいしか聞こえてこないや。白くて防音で窓がないなんて、まるで気が狂えといわんばかりの部屋ね。


 ―――目が覚めたかしら?あなたの為に特別に個室を用意させて頂いたわ。お気に召していただけたかしら。


 どこからか女の声が響いてきた。どこかにスピーカーが設置されているのだろう。


 ―――ご存知かもしれないけれど、その部屋は特別な部屋で精神病患者などを隔離する部屋なの。特に心の病、なんて生易しい症状じゃなく錯乱症状を起こしているような患者専用よ。どんなに叫んでも外には音は一切漏れず、また外の音も一切そこへは届かない。時間もわからないし、日付もわからない。


 こちらが反応を返すのを待つことなくスピーカーからの声は話し続ける。


 ―――錯乱していなくても誰とも接さずに隔離しておくと3日から一週間ほどで発狂してしまう部屋でもあるのよ。あなたは何日持つかしらねぇ。楽しみだわ。あはははははは。


 ―――カチッ・・・


 スピーカーの声から笑い声が響くなかかすかに金属音が響いた。それと同時に硬く拘束されていた手首と足首が開放された。さっそくあたしは椅子から立ち上がる。今まで見ることが出来なかった背後を振り返ると、やはり扉も窓も見当たらないが代わりに湯気のたったコーヒーらしきものとパンが置かれていた。どうやら餓死させる予定はないらしい。


 先ほどの声は誰だろうか、研究室で会ったあの女の声に似ていた気がする。


 コーヒーとパンを胃に全て収め終わると再び周囲を見渡し、壁へと近づく。


 ―――コンッ


 壁を軽くノックすると軽い音がした。壁が薄いのだろうか?今度は壁へ耳をあてて再びノックする。


 ―――コンッッ――――


 やはり軽い音がする。が、二重構造になっており一枚が薄く間に防音材が入っているのか、防音は張ったりで周りに誰も居ない為音がしないのかはわからなかった。


 これがナオキだったら、区別がついたりするのかね・・・?


 相変わらず窓も無く、人の気配もない静かな部屋である。携帯も時計も持っていないのでラボで気を失ってからどれくらい時間が経っているのかはわからない。


 とりあえず、体力温存よね。

 

 あたしは床に横になる。予想以上に冷たく硬い床だが、思いのほか疲れているいまのあたしにとっては何の障害にもならなさそうだ。


 そしてあたしは眠りについた。

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