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星の愛し子  作者: 瑛香
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第2話・・・嵐到来

 彼女はまるで旅行中もしくは家出中といった感じだった。少なくとも、初対面の誰かの家に行くには荷物が多すぎる。カートタイプのかばんにおおきなボストンバック、そして貴重品用かかわいいポシェットまで提げていた。


「あ、あの、リキです。」


 開口一番、彼女はそう名乗った。どうやら、メールの意味はこういうことだったようだ。状況はいまだよくわからないが、ナオキに行けといわれて来たならばやはり客であろう。ドアを開け放したまま長話をするのもどうかと思うし、部屋へあげることにした。


 リビングに通してお茶を出すと彼女は会釈して手を伸ばした。

「で、リキさんだっけ。ナオキに言われてきたの?」

「はい。私の正式名称はRIKI01|<<リキゼロワン>>と申しまして、ナオキとリオナに作られたアンドロイドです。貴方を守るためここへ向かうようナオキに指示を受けました。」


 あたしの質問に彼女は微笑んですらすらと答えた。

・・・ちょっとまて、アンドロイドで守る?さっぱり話が見えないぞ・・・・

頭中にはてなマークがいっぱいになる。あたしが首をかしげてるとリキもといRIKI01は微笑んだままさらに説明を続けた。


「最近の研究により、研究所から星の愛し子には一人で能力を発揮するタイプと、特定の人間がいることにより能力を発揮するタイプがいることが発見、発表がありました。その特定の人間を補助者と呼んでおり、貴方がナオキの補助者であると認定が下りました。そしてちょうど2日前にナオキは研究所内で最年少の主任研究員で明後日昇格することが決まり、最年少の主席研究員になることになりました。それを阻止する為に内示発表後さまざまな妨害がナオキに向けて行われましたが、ことごとく失敗しています。更にナオキの計算によりますと、ライバルが貴方に危害を加える可能性が87%以上という結果になりましたので私が参りました。」

「つまり、ナオキの昇進を妬む人がいてあたしを出しに辞退させようとしているってこと?」


 なにやらややこしいことがナオキに降りかかっているみたいだ。連絡が取れなかった理由もこれ関連のようだね。


「そういうことになりますね。」


 剣呑な話をしつつ笑顔で彼女はお茶を美味しそうに飲んでいた。

あまり事態は深刻じゃないみたいね。とりあえず、補助者ってのがなんなのか発表があったのならネットあたりに情報がでているだろうから調べてみることにする。


「ちょとまっててね、調べてくる。」


 起動しっぱなしだったパソコンへ移動し検索を開始する。


「星の愛し子、補助者、検索っと」


 しばらく待つとパソコンの画面にネットから集めた情報をまとめたものが出てきた。この機能は特別であたしのパソコンにしかついてない。普通検索すると関連するページがずらっと出てきて巡回して情報を集めるものだが、学生のあたしは検索することも多いしちんたら巡回するのも面倒なので自動で巡回して集めた情報から必要そうなもの、重要そうなものを抽出し要約を表示する機能を組み込んである。もちろん組み込んだのはナオキだけどね。


 補助者・・・星の愛し子は特定の脳波をもち、IQがずば抜けているもの、発想が柔軟であるものなどが認定されるが、通常時には発現せず特定条件時のみこの状態を生み出せるものがいる。この特定条件とは特定の人物と一緒にいる、もしくは特定の人物の為になることである、など他の人間を必要とすることである。この特定の人物を補助者と命名すると18日付けで研究所よりは票が会った。これまでに認定された星の愛し子内にもこの特定条件者が確認されており、現在発表がある該当者として研究所発表の中で特に有名な人物では機械制御部門でさまざまな功績を残している研究所主任研究員のナオキ・ヤスハラが上げられる。


 なるほどね。ナオキの名前が思いっきり公表されてるわけだ。あとはナオキに妨害って言ってたな。


「ナオキ・ヤスハラ、事件、検索」



 ナオキ・ヤスハラに関する事件・・・該当データは存在しませんでした。


 該当なしか。事件じゃなく事故とかかな・・・。

「ナオキ・ヤスハラ、事故、検索」


 ナオキ・ヤスハラに関する事故・・・該当データは存在しませんでした。


 これも該当なし。ほかに調べることも思いつかなかったのであたしはリビングに戻り彼女との話を再開した。


「おまたせ。補助者については分かったけど、ナオキへの妨害についてはめぼしい情報はなかった

よ。妨害について教えてくれる?」


 お茶を飲み終わったのかどこか壁の一点を見つめていたリキへ質問を投げかけた。お茶を飲んでいるときには感じなかったが、こうしてみると確かにどことなく”アンドロイドらしさ”みたいなものが感じられる気もする。


「はい。内示が研究所内で発表された1時間後からナオキのラボのみに頻発する停電が現在まで発生しています。あ、ちょうど今も停電していますね。」


 再び微笑みながら彼女は答えた。

「ちょ、なんで今も停電してるなんて分かるのよ!?」


 最後に付け加えられた部分に驚く。おまえはいま研究所にいないだろう・・・・

「私、研究所のナオキのラボのマザーと呼ばれるスーパーコンピュータに常に接続されているんです。ただしアクセスできるのはマザーが稼動してるときだけですけれど。」

なるほど、てことはアクセス出来なかったから停電って判断なのかしら?

「今も停電していますが、マザー自体は稼動していますよ。UPSと呼ばれる無停電装置が設置されていますので停電後48時間はマザーは電源供給がなくても稼動できるんです。」


 まるであたしの疑問を見通したかのように説明を続けた。なるほどね。UPSとやらが稼動しているから停電と判断したわけだ。


「ラボは停電していますが、各種作業はマザーが稼動しているので可能です。そこでお願いがあるのですが、一緒にラボへ行って頂けないでしょうか?お守りするように言われておりますがその為の機能強化がまだ完了していないのです。ラボへ行けば残りの作業はできますので一緒に来ていただければ機能強化が出来るのです。木の葉を隠すなら森といいますしね。」


 そこまで言って彼女はあたしをじっと見つめた。

「いいけどあたし一般人だから研究所に入れないけどどうするの?」


 そうなのだ。国家機密のプロジェクトを大量に抱えている研究所なので一般人は建物どころか敷地内へ入ることすらできない。彼女の望みをかなえてあげたくても無理な相談である。

「それは大丈夫です。補助者と認定されたので貴方は研究所への入所資格はお持ちですよ。書類も受け取ってまいりましたので問題はありませ・・・」


 ―――ドンドンドンドンドン


 彼女がしゃべり終わる前に玄関からかなり強いノックが聞こえてくる。今日は来訪者の多い日だ。

あたしは確認するため玄関へ向かおうとすると彼女は心なしか青い顔をしてあたしを押し倒した。


「伏せてっ!!」


 彼女が叫び終わるかどうかというときに大音響の破壊音と共に玄関に埃が充満した。


・・・まさか、爆破した?


 あまりの状況についていけずぼんやりとそんなことを考えているとどかどかと複数の足音が聞こえてきた。これって不法侵入ってやつですかね。あたしもしかしてピンチなの?


「リキ、これって・・・げほげほ・・・・」

「しっ。静かに」


 埃にむせながらリキに話しかけるとあたしに覆いかぶさっていた彼女は口に指をあてて注意してきた。・・・やっぱりピンチなのかも。


「緊急事態発生。研究所へ移動します。」


 先ほどまでとうって変わって機械的な声で彼女はつぶやき、あたしの手をとりベランダへ向かった。どうやらベランダから避難する気のようだ。でもここは7階。どうやって避難するんだろう?


 「脱出します。つかまっていて下さい。」


 そういって彼女はあたしを担ぎあげた。アンドロイドというだけあって細い腕で豪快に荷物かなにかのように肩に担ぐ。そしてベランダの手すりに手をかけた。


「ちょ、ちょっとまって飛び降りる気?ここ7階だよ?」

「問題ありません。私のサスペンション機能の強度であれば15階程度から貴方を担いで飛び降りることが可能です。損害予想は3%です。」


 驚いて悲鳴をあげるあたしに彼女は冷静に返事をし・・・・・ダイブした。



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