時津風部屋・イン・ザ・スカイ
通勤、通学中の暇つぶしにどうぞ
ここに一人の凹んだ野郎がいる。
原因はなんでもいい――例えば仕事で大きな失敗をやらかしたとか、嫌な上司に怒られたとか、はたまた小学校の頃の黒歴史ノートを朗読されたとか、え?中学生で書いてたの?プークスクスと書いてて嫌になるが実は過去に大虐殺をかました事があって懺悔がうわあああああとかでもいい。
本拠地に帰還した後にゲロった事実。
潜伏中に野郎が殺った数は、自己申請で665人だった。
それを多いか少ないかとするには見解の分かれる所だろう。
地球なる星ならば立派もご立派、大量虐殺者の仲間入りである。数だけならばさすがにどっかの大統領やら将軍やら実は原住民をやりまくって今に至るまでネガティブキャンペーンが細々と続いているコロンブスには負けるが、その手で自ら――と前提を加えれば漏れ無く史上最悪のシリアルキラーの但し書きが揺らぐ事はない。
しかしそれが数千年にも渡って、魔界中に広がった勇者一族の血族だとすればどうだろうか。
そいつらは普段こそどこかの少年商人のように本家の手先となって働く罪なき羊であるが、双龍紋持ちの刻命石が割れる度に、えげつないシステムが一匹の羊を選んで生皮剥いで数年で魔王をもぶっ倒せるくらいの狼に仕立て上げるのだ。一匹見かけたら百匹は伊達ではない。
集団洗脳プログラムでないのが不幸中の幸いだろう――そうだったら魔界は間違いなく征服されている。
ともあれ、魔界に星々の如く煌く勇者候補、665人である。
不謹慎だが少ない、とベリルは思った。
数千年もかけて魔界に根を張っているのに3桁に留まっている事自体が、システムを組み上げた二代目魔王の理性の証拠だろう。
今更言うまでもないが、勇者の手口とは基本だまし討ちである――それを騙りも騙ったりろっぴゃくろくじゅうご。しかも数年内だというから恐れ入る、一体何組のひと山いくらをまとめて葬ったのだろうか。
真っ白に燃え尽きて当然だった――六文銭を集めれば地獄の渡し人が溺死する事だろう。
野郎は困ったように微笑んでいて、それ以上を語らなかった。ベッドの端に座り込んでこちらを見上げている。
が、この半年で肌を合わせていない時間の方が少ないのだ、凹んでいる事ぐらいお見通しである。
では質問。
女としてはどうするか、である。
彼女じゃないしと言ってその場を離れる、実によい、他人の不幸は蜜の味である。
甘えんなと尻を蹴っ飛ばす、それもよい。豚の悲鳴はさぞかし甘美に響くだろう。
しかしこれが自分をこの世で一番大切にするが、一旦振られるとおそらく世界ごと火だるまになって塵芥と化す核爆弾級の地雷だと話が変わってくる。
唐突だが――おっぱいは良い物である、揉んでよし、吸ってよし、頬に押し付ければ七難八苦が棚に上がり、挟めばこの世の桃源郷。
これが手のひらに収まるきるでもなく、かと言って風船のように下品に膨れている訳でもなく、先端がツンと上向いた美乳ならなおさら申し分はない。感度も柔軟度も年季こそ浅いものの使い込み具合はサキュバスが白旗を挙げるくらいの逸品である。
それを野郎に押し付けて頭を優しく抱きしめてやる。まるで赤子に対するように、慈しむような口づけを額に降らしながらも、園児にするようにいい子いい子してやる。
これで勃たない野郎は赤子か園児かそれ以下のナマモノであるので、隙を逃さず身を沈める。ウブな少年少女なら前後に逸れたり折れたりするだろうが、煙の代わりに汁が出るほどの百戦錬磨は伊達ではない。どこかの絶倫ゴルフ王も真っ青の、余韻の吐息すら残すホールインワン。真綿で締めるように力を入れるのも自由自在。ありし日を遠い目で回想する余裕すら既にない、車は急に止まれない。
いい子いい子しながらも唇に舌を入れ、両足や体内も含んだ全身で野郎を抱きしめながら何度も絞り取る。
俗にこれを、可愛がりの刑と言う。
必ず殺すと書いて必殺。
魔王は再起動した。
※
余談ではあるが、これが「ベリル=メル=タッカートを救う会」の話題に挙がった後の被害状況は以下の通りである。
親友が唇の端から垂らした紅茶で汚したドレスが一着、カーペット一枚。
「ヤンチャしてた頃よりも出た」と述懐するほど絞り取られた天狗の旦那の命中弾、プライスレス。
人界から選抜で派遣されて念願叶ってようやく魔王カップルお付きのメイドとなったが、毎日エロ本片手に裏モノのAVでも眺めている方が健全だと言えるような日常に、一週間耐え抜いてついに赤面したままぶっ倒れたフローラの末路については、実に魔王の所業と表するにふさわしい。
紹介されたお相手は世界征服軍なるものでも中堅どころの人狼――人族と魔族の姿を併せ持つのが実に良い人選。人族と魔族のつがいこそ今まで数あれど、人界の純粋培養貴族と魔界の貴族のカップルは二組目である。今はただ、ご両人の幸せを祈ろう。
誰も覚えちゃいないだろうが――当て馬として登場させたまではいいものの、いつの間にか出番と共に存在がフェードアウトしてしまったとある名も無き寝ない魔族の哀れな一途。手段は言わずもがなで、一途を砕いたのはどっかの女郎蜘蛛の曾孫さん。盤面の裏を匍匐前進した勇者ほどではないが、盤面の2000階を正攻法で突破したド根性がお眼鏡に叶ったらしい。旦那、ゲットだぜ。
実は城下町の魔導具屋の元締めで、お茶会の時にマッハで塔を登ってくる双子は何の意味かと首を傾げ、双子の護衛をしているフェンリルが大きく開けた口からは退屈そうなあくびが一つ。十年後にとある魔導具学の世界有数の若き権威が被害に遭うとは流石の魔導コンピューターにも計算できなかったに違いない。てか、子供に聞かせるなよ。
そんなこんなで、例の如く吸った揉んだのわずか一週間後――
最終戦争が勃発した。
続きは出す…!出すが…まだその時と場所の指定まではしていない