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魔剣の独白

 薄くなった暗闇の中、それはギョロリと目を剥いた。


 猫科の猛獣を思わせる細い瞳孔が周りを見渡す。

 相変わらずの有象無象が周りに転がっていたが、見飽きた風景なのですぐさま視線を外して、この暗闇を部屋の外に追い出した原因を探る。


 いた。


 開かれた扉から室内に入り込んできたのは老いたアルケニー。その手に引かれるのは物珍しさに周りを見渡す幼女で、二本の手と二本の足が生えている。その背後には見事な全身鎧を着こんだ騎士。

 女子供は元より眼中にない。

 バイザーを上げた騎士の兜から覗くのは虚ろな髑髏だった。しかしその動きは滑らかで、普通のスケルトンナイトにありがちな硬さが微塵もない。

 何よりも、如何にもな外見の割には武器を持ってなかった。


 凄く面白そうだった。


 この武器庫に押し込まれてはや百年。先代の持ち主が滅びた後、たまに手に取ってくる身の程知らずで遊ぶ以外は何も起こらず、退屈で退屈で死にそうだったのだ。



 そいつは柄の部分に目の生えた漆黒の魔剣だった。幼女の胴体より太い魔力鎖に雁字搦めになりながら、武器庫の天井にぶら下がっている。

 目玉が瞬きもせずに武器庫に入り込んだ三人をガン見するが気が付いた様子はない。


 ――こっちを見ろ。


 禍々しい気配が目玉から漂うがこちらを振り向く気配がない、その内気がついてないのは幼女だけだと魔剣は気付いた、無視されているのだ。


 全身鎧の髑髏はその動きからして騎士の匂いがする。

 動きの癖が三代目の持ち主に似ていた。騎士道だの愛する家族のためにと綺麗事ばかり口にするいけ好かない人族だ、力が必要だとほざいて自分を手に取ったまではいいが、結局は自らの家族を皆殺しにした挙句に自分の首を掻っ切ってしまった。

 精神修行の足りない甘ったれであったが、腕は確かだった。


 この武器庫には自分だけでなく、生半可な使い手では振り回されたあげくに破滅するような魔剣がゴロゴロとしている。生憎と自分は年増好みでもロリコンでもないが、入り込んだ三人がいずれかの魔剣に注目されているのは間違いない。


 そうそう、自分が注目しているのは髑髏の騎士だった――どうやって気を引いたものかと魔剣は考える。


 うーん。


 騎士という生き物はどんなに誘惑してもなかなか靡かない石頭の代名詞である。前述の三代目も結局は家族という線から攻めてようやく自分を手に取ったのだ。ましてやアンデッドである、骨々である。生前と同じメンタリティを持っているとは限らないし、肉欲に訴えるにしてもそもそもの肉が一片たりとも見当たらない。


 その後ろにいるアルケニーに目を移す。一見上品な老婦人に見えるが、隙のない身のこなしからかなりの古強者だと見た――どう見ても剣士ではないし、付け入る隙もあまりなさそうだった。


 一番後ろにいるのは一見ただの子供だ。魔族ほど外見が頼りにならない種族もいないが、人界魔界両方有数の魔剣である自分の気配に全く気付いてない時点でたかが知れてる。左右を眺める様子は好奇心に駆られてというよりはどこか冷静に観察するような怜悧さが垣間見えるが、所詮それだけである。


 なるほど、二人はその子供を守っているのだな、と三人の力量から魔剣は確信した。

 確かに小さくて人形のように綺麗な、そそるような外見の子供である。幼いながらも怜悧そうなのもまた良い、ハラワタを引きずり出したらどんな声で啼いてくれるのかとついつい想像してしまう。


 将を射んとせば先ず馬を射よ、である。


 一行が真下に来た頃を見計らって魔剣はガタガタと体を揺らしてみた。流石に何重にも絡みついた魔力鎖を引きちぎるのは無理だがこのくらいはできる。

 ジャラジャラ、鎖の音に気付いたらしい幼女を頭上を見上げた。

 ちょっとイタズラを思いついた――巨大な目玉を血走らせながらグリグリと回し、アメジストを彷彿とさせる綺麗な瞳に向けてピタリと止める。


 瞬殺であった、ブルブルと体を震わした幼女は涙目になり、たちまち太ももの間から黄色い液体がつつーと伝い落ちた。


 わーはっはっ、ばっちぃのぅ。魔剣は自慢気に鎖の音で勝利のファンファーレを鳴らす。


「ベリル様……?」


 主の異常に気付いたらしい二人が真上を見上げ、アルケニーが呆れたように嘆息した。

 その手が閃く。

 ブスッ。

 刺さっていた、目玉に、裁縫針が。

 あじゃぱー!いてえええええええ!

 ジャラジャラジャラジャラ、悲鳴の代わりに鎖を鳴らしながら魔剣は悶絶した。


ソウルイーター(魂喰らい)ですね、ベリル様になんて事を」

「ばーば、ご、ごめんなさい」


 顔を真っ赤にして謝る幼女、怜悧そうな態度もどこへやらの涙目である。


「しょうがありませんよ、あれはこの武器庫でもとびっきりに凶悪な魔剣です、ベリル様にはまだ早すぎましたね」


 さあ着替えに参りましょうね、と老婆は幼女の手を引いて武器庫を出て行った。


 け、計画通りだ、ソウルイーターは今だ痛みでヒリヒリとする目玉を髑髏の騎士に向ける。



 プイッ。



 アッサリと、二つの虚ろな空洞はソウルイーターから外れた。

 あれ?

 肩透かしを食らった気分で魔剣はスケルトンナイトの背姿を追う。


 ええええええ、幾ら元騎士だからと言って何でそれ選ぶの!?

 スケルトンだろ!?アンデッドだろ!?だったら時代は魔剣じゃん!

 それって聖剣だろ!しかも頑丈なだけで他に取り柄がない奴!

 こっちにしなよ!切れ味いいよ!楽しいよ!殺せば殺すほど魔力増えるよ!

 早くしろ!間に合わなくなっても知らんぞ!

 お願いだから連れて行ってよ、何でもするからさあ!

 うおおおおおおおおおおおおい!


 声なき声を上げながらガタガタガタと震えるソウルイーターを無視するように、ドーンと扉の閉まる音。


 武器庫を背にしたスケルトンは検分するように剣を鞘から抜き、目の前に掲げる。


 剣の身に刻まれた文字は「我が全ては麗しき主君のために」。


 セイブザクイーンと銘の入ったそれを再び鞘に納め、髑髏の騎士は全く未練のない足取りで武器庫を離れたのである。


 ぐすん。

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