ポエジー(やさしい大地に抱かれて死になさい、他一点)
■せみ
彼が土から這い出すと
夏の陽射しが目を焼いた
新しい世界にぱっと出て
初めて知る光
たまらず目をつむる
背中が痛いくらい羽を広げ
殻から飛び出した
まだ覚束ない羽ばたき
モミの木にぶつかって
くるくる飛び回る
空はどこまでも青かった
街の中に迷い込み
子供たちにつかまった
両羽をもぎ取って
遠くへ投げ捨てる
涙に滲んだ夕日を見たのは
とあるベランダの
コンクリートの上だった
部屋から漏れた明かりが
彼を照らし出し
それを見出した少女は
彼をそっと摘み上げ
やさしく包んだ
薄れ行く意識の中で
土に似た温もりを感じた
■やさしい大地に抱かれて死になさい
やさしい大地に抱かれて死になさい
あなたが力尽きそうになったとき
石で建造された
その街を這い出して
この大地まで来なさい
街の人たちは
死んだあなたを
もはや必要としないだろうが
ここにある
命あるものの全てが
そして大地が
あなたの帰りを待っている
もし帰ってきたならば
大地があなたを包み込み
あなたは宇宙を形成する
偉大なる環の一点となる
あなたの体は
あらゆる生き物に与えられ
そのものの
血となり
肉となり
骨となり
あらゆる生命を循環する
つまりは命の環を
だから
大地はあなたの帰りを待っている
だから
やさしい大地に抱かれて死になさい
小説を書く傍ら、拙い詩も書いています。
ときどき、このように紹介させていただこうかと思っています。




