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願いは金に輝く時の影に  作者: 奏多
番外編
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番外編9

 グレイブがそこを訪れる時間ができたのは、彼の言ったとおり、二日後のことだった。

 連れてきたルヴェは……予想通りに行かない事態に、逃げ出したい気分だった。


 まず目的の建物に近づいた時、聞こえたのは爆発音だった。

 ルヴェとグレイブは慌てて駆けつけた。何か事件が起こったのだと思ったからだ。


 しかし途中で、とある一室の窓が開く。ぶわりと出て行く煙。その煙をさらに追い出そうと仰ぎながら窓に顔を出したのは、エリヤだ。


「うぅ、また失敗~」

 がっくりとうなだれたエリヤは窓枠に突っ伏す。


 思わずグレイブと共に近くの建物の影にかくれたルヴェは、首をかしげた。煙が出るような何をしているというのだろう。そう考えたところで、はっと思い出す。

 そういえば術式をなにやら大量に書いていた。まさかその術式を試しているのか?


 そこまで考えて、ルヴェはぞっとした。

 術の実験をしているのなら、グレイブに見られてはマズイ。父親気分で相手を観察するのとは、別な話になってしまう。

 だからとっさに嘘をつこうとした。


「な、なんか料理焦がしちゃったのかしら? あは」

 慌てたせいで女言葉まで飛び出してしまう。しかしグレイブはルヴェの言葉を聞いてもいない。

 じっと厳しい表情でエリヤの方をみている。


 釣られるように視線をもどせば、

「うわ……」

 件のローグも窓から顔を出した。こちらは爆心地に近かったのか、顔が煤けている。



「おいエリヤ先生よ。失敗10回目だぜ。本当にできんのかよ?」

 ローグもぐったりと窓枠にもたれながら、エリヤに苦情を言っていた。


「あきらめたら終わりよ。そう、開発には失敗がつきもの……」

 ぶつぶつと呟くエリヤは、はっと顔をあげて言った。


「ちょっとローグ、まだ材料残ってる?」

「あ? あんたがやたら大量に注文するから、まだ一山あるが」

「次の術式が浮かんだわ」

「……うげ」

 ローグがげんなりした表情になる。


「まだやんのかよ……」

「開発への道は遠く険しいものなのよ。男が途中でくじけてどうすんの! そもそも魔力制御の術式を依頼してきたのはあんたじゃないの」



 エリヤの言葉に、ルヴェは目を見開いた。


「……魔力制御?」

 魔力制御というと、ルヴェは暴走を抑えるために身に付ける器具を思い出す。まさかあれを自力で作ろうというのか。


 盲点だった、とルヴェは思う。よほどショックなことがない限り、ルヴェは暴走させることはまずない。そして術式銃を広めるため、魔力持ちの不満を助長させたかったルヴェは、彼らの不幸の原因である「暴走」を止めようなどと思ったことはなかったのだ。


 確かに魔力制御ができる物があれば、魔力暴走事件は収まるだろう。

 ただ、魔力発動とは術式が違いすぎるので、さすがのルヴェも術式はわからない。一時身に付けていたことはあるのだが。

 そこまで考えたところで、悲鳴とも怒号ともつかない叫びに、ルヴェは我に返る。



「ちょーー! なにその怪我!」

「あぁ、なんか割れた音もしたから、破片で切ったんだろ」

「怪我だけじゃないでしょ、火傷まで! 水、水!」

 エリヤは慌てて部屋の奥へと走っていってしまう。その頃には煙も晴れ、部屋の中もある程度は様子が見えた。どうやら水を汲んできたエリヤが布を濡らし、ローグの腕にあてている。


「そんな慌てなくてもいいってのによ……?」

 若干呆れ気味だったローグが、目を丸くした。

 ルヴェも驚いた。


 ローグの手当をしながら、エリヤが急に泣き出したからだ。

 つ、と頬を流れる涙を、エリヤは空いている自分の手でぐいぐい拭う。それでもとぎれない涙に、ローグが狼狽した。


「おま、なんでこんな軽い怪我ぐらいで泣くんだよ……」

 こすって目を赤くしたエリヤを見て、ローグは視線を彷徨わせた。

 エリヤの方は抑えた涙声で、答える。


「だってあたしがさせたことで、怪我したんじゃない。そういうのは、嫌なのよ」

 変かもしれないけど、と前置きしてエリヤは続ける。


「なんだかもやもやするのよ。自分じゃできないことが。ずっと魔力が少ないってコンプレックスがあったから。その上人に怪我させるなんて、悔しいじゃないの」

 するとローグはため息をついた。


「だったら脅されてその絵だかを書かされてるってことにするか? そうすりゃ、発動させるのがどうこうって、わざわざそんなめんどくさいこと考えなくて済むだろ」

「それはなんか卑怯で嫌。あたしも自分の目的があって話に乗ったんだから」

「……めんどくさい奴だな」

「いいの。自分の中ではある程度折り合いついてるんだってば。泣いたのはちょっと疲れてるからよ! だって、魔力制御できるものが作れたら、グレイブの願いが叶いやすくなるんだから」



 ルヴェは思わず横を見る。今の言葉を聞いてどう思ったのか。

 グレイブはそんなエリヤの姿をじっと見つめていた。特に怒っている様子でもなく、喜んでいる様子でもなく。いつもの無表情だ。


(なんかリアクションしてくれないかしら……)

 ルヴェは戸惑う。

 もしこれで怒っているのなら、嫉妬のせいなのか、エリヤが勝手なことをしていることについてなのか確かめればいい。喜んでいる場合も同様に、その原因を探ればいいのだ。

 何を考えているのかわからない。


 困ってしまったルヴェの前で、グレイブはぽつりと呟いた。

「魔力制御……か」


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