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願いは金に輝く時の影に  作者: 奏多
番外編
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番外編 8

 翌日、ローグの家へやってきたエリヤは、まず子供達の追い出しにかかった。


「はーいお子様は退場してね~」

 ローグが仕事している日、彼の家は子供の遊び場になっている。

 その子供達は「お留守番」と言っているが、件のローグの師匠の孫も混ざっているので、ローグが断り難くて「好きにしろ」と言っているらしい。


 一応、独り身のローグを心配して、師匠が娘を通して食べ物などを届けたりする役目も担っているようだ。

 現在は落書きで再び作業をやりなおすのが辛すぎるので、ローグにも留守番をさせないようにさせてはいる。

 しかし今日はローグがいない。そのためエリヤが子供達を誘導しなくてはいけないのだが、10歳前後の子供というのは半端に言葉を聞き知った上、これまた微妙に意味を理解して使っているために厄介このうえない。


「なんだよ、これからローグといちゃいちゃすんのか?」

「い、いちゃっ!?」

「お前ローグのコレなんだろー?」


「こ、これっ?」

 小指を立ててみせる角刈り頭の子供に、エリヤは絶句する。


 対するエリヤは、今までの十数年。特に両親が亡くなった後はほとんど遊びもせず、銃をいじって生きてきた。おかげでこういった会話に、ほとんど耐性がない。

 顔を赤くするエリヤを見て、ますます子供達がはやしたてる。


「赤くなってんぞーこいつ」

「やっぱデキてんだろ」


「……くっ」

 悔しくても、真実を口にすることはできない。ぐぬぬと唸っていたエリヤは、苦し紛れに言い訳をひねりだした。


「私はローグに勉強教えてやってんのよ!」

 しかし子供にそんな言葉は通じない。はやし立てておもしろいと思う方へ流れるものだ。


「そんなこと言っちゃってさ~」

「大人ってふけつー」

 そこでついにエリヤがキレた。


「発想が不潔なのは、お前達だー!」

 とうとう爆発したところで、子供達は「きゃー」と歓声を上げながら部屋から逃げていく。完全に鬼ごっこの鬼あつかいだ。


「ええい待ちなさいっ、その誤解をといていきなさーい!」

 頭に血がのぼったエリヤは、子供達をおいかける。

 しかしあまり足の速くないエリヤは、小回りのきく子供達をなかなか捕まえられない。そうこうしているうちに、家の外に逃げられてしまう。


 本当なら、それで目的を達成できたことになるのだが、恥ずかしさで頭が混乱中のエリヤはそのことを思い出せなかった。

 外までなんとかおいかけようとした時、少し先を行く茶の髪を首元でくくった少年が、別な人間によって捕まえられる。


「うわっ」

「こら、また余計な悪さしてきたのね!」

 怒った女性の方も、同じ色合いの髪を結い上げている。

 鼻の形や全体的な造作が似通って見えるところからして、臙脂色の前掛けをしているその女性は、母親なのだろう。

 頬に薄いそばかすが頬に浮いているものの、明るく華やかな雰囲気をまとった女性だ。


「うちのディンがごめんなさいね。また生意気言ったら遠慮無く叱ってやって下さいな」

 にこやかに言われ、エリヤは戸惑う。


「ええとあの、どうもすみません」

 なんとなく謝ってしまった。なにせあそこは、別にエリヤの家ではない。ただ家主の依頼を遂行するために、家主の許可をもらった行動をしていただけだ。


「あんたが謝ってどうすんの」

 女性はかっかっかっと笑う。


「え?」

 また変な方向に話が飛んでいこうとしている気配がした。


「ちょ、ちょっと待って下さい。私べつに、ローグとそんな関係じゃ……」

「またまたそんなこと言って。あのローグがこんなに何度も同じ女の子を連れてきたのって始めてなのよ? まぁこれで」

 完全に勘違いしたまま、女性はそこでふっと息をつく。


「ローグのこと、安心して放っておけるかしらね。実は父さん……ローグの師匠なんてやってるんだけどもね、父さんが独り身の間は師匠が面倒見てやるもんだって言って、あたしにお目付役させてたのね。だけど大の大人でしょう? あたしが張り付くのも可哀想だから、子供達にそれとなく様子見させてたんだけど……そのまま遊び場にしちゃって」

案外ローグって面倒見がいいのよね、とつづける彼女にエリヤはうなずいた。師匠の孫を救うために、自分に協力を仰ぐような人だ。見た目通りにすべてを拒否してぐれているわけじゃないのは、エリヤにもわかる。

しかし次の言葉は予想外だった。


「でも、あなたみたいなしっかりしてそうな人が側にいてくれるなら、もう大丈夫かしら」

「わ、わたしは用事が終わったらもうそうそう関わらないだろうし」

 関わり続ける理由もないのにここに出入りしていたら、本当にグレイブにいろいろとバレてしまう。ローグがルヴェがやらかした時に参加していたあげく、逃げた人間だとバレるのは困るのだ。


「そんなさみしいこと言わないで? よろしくね。ああそう、わたしはミシェリアっていうのよ。また話すこともあるだろうから、名前をおしえて?」

「え? 名前って、ううぅ……」

そんな押しの強いミシェリアに対抗できるわけもなく、エリヤは名前をはかされてしまったのだった。


 ただ、これでエリヤにもわかった。

 彼女が問題の人で、彼女と同じ茶色い髪をくくった子がローグの案じる相手だと。

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