番外編 7
今回ちょっと短いです
珈琲の香りがふわりと鼻をくすぐる。
かたりとカップを卓に置いてくれた公安官は、おそらくこの妙に緊張する空気を緩和させようと飲み物を用意してくれたのだろう。
ルヴェはそう察した。
なにせ今まで、使い走り同然のルヴェに、こんな丁寧な対応をしてくれたことなどなかったのだから。
逆に言えば、グレイブの側にいる人間がそうまでしたくなるほど、ルヴェの置かれた状況が『気の毒』なのに違いない。
一生懸命仕事外じゃないかと思われるエリヤの監視をし、
(グレイブに言わせれば知識流出防止の為の、やむをえない策だそうな)
女の子のプライべートを報告しているのだ。
(グレイブは私事でも犯罪に関係しかねないならば、把握する必要があると主張した)
それなのに、話せば話すほど、グレイブの周囲に冷気が漂ってきている気がした。しかもルヴェのことを、仇のようににらみつけてくる。
勘弁してよぉ……とルヴェは内心ため息をつく。
話の内容が話の内容だけに、二人はいま公安庁のグレイブの執務室にいる。
だから珈琲を持ってきてくれた公安官がいなくなると、完全に二人きりなのだ。
この重苦しいやら寒いやらの空気の中、にらみつけられながら報告するなど、居心地悪いことこの上ない。
けれどルヴェは耐えた。
話しきるまで耐えた。
ほっと息をついていると、グレイブが思った以上に静かな声音で尋ねてきた。
「それで……相手の男は、定職には就いてるのか」
「……は?」
ルヴェは一瞬、自分の耳を疑った。
なぜローグの定職が問題になるのだろう。考え、ルヴェは話した。
「鉄の街で、銃技師をして働いてる……よ?」
グレイブは「そうか手に職はあるのか。しかし銃技師……」とぶつぶつ呟き始める。
この間の事件に関連しかねないから、銃技師を警戒しているのだろうか?
ややあって、そんなルヴェの推測を、完全に覆す問いが投げかけられた。
「性格的にはどうなんだ」
「せいかくっ!?」
なんで必要!?
「えっとグレイブ……なんか……」
娘の結婚相手を気にしてる父親みたいな……と言いかけ、ルヴェは不安になってきた。
思えば他の男とつきあってるフリをすれば? とけしかけたのは自分だ。それはグレイブが、自分でそう思い込んでいるからだと思ったからだ。
きっとそれなりの状況におかれれば、グレイブとてあの過保護っぷりの本当の理由を自覚するかと思ったのだが。
(本当にグレイブってば、父親代わりのつもりじゃないでしょうね?)
それならば、エリヤを止めてくる必要がある。さすがに煽った責任はとらなければマズイ。
だからルヴェは賭けに出ることにした。
「や、でもやっぱり、自分の目で確かめた方が良くない? ホラ性格なんて、接する人間毎に印象なんて変わっちゃうもんだし? やっぱりグレイブ自身が納得できないと嫌なんじゃない?」
それで危険な状況だとグレイブが思えば止めるだろう。
グレイブ自身から止められたなら、エリヤも従うはずだ。
もしくは、過保護が想像通りの原因から発するものだとしたら、グレイブの方が対応を変化させるに違いない。
どちらにせよ、エリヤにとって悪い事にはならない。
だからどうかエリヤの様子を見に行くと言ってほしい。
じっと言葉を待つルヴェに、やがてグレイブは嘆息まじりに告げた。
「……明後日、案内を頼もう」




