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願いは金に輝く時の影に  作者: 奏多
番外編
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番外編 5

「さ、散歩に行ってきます!」

 エリヤが言うと、グラスを磨いていたフィーンが首をかしげた。


「最近毎日だね」

 今までがひきこもり状態だっただけに、ここ三日同じ時間に出かけていれば変に思って当然だろう。

 けれど、どう説明していいかわからずどこか後ろめたいエリヤは、不審に思われたかと心臓がひときわ跳ね上がる。


「え、えと。毎日家の中にばかり居てもしかたないと思って」

「まぁ出かけた方が健康的だよね」

 同意してくれたフィーンだったが、


「でもグレイブがどこへ行ってるのか気にしてたよ。どこへ行ってるのか聞かれたら、何て言ったらいい?」

「う……」


 グレイブに聞かれたら。当初の予定では、付き合い始めた人がいるのだとウソをつく予定だった。

 が、


(そんなこと言えないぃ……)

 どんな男だと聞かれて、耳にじゃらじゃらとピアスしてますなんて言ったら、どんな反応が返ってくるかわかったものではない。


 正直エリヤとて、ローグについては勤め先ぐらいしか知らない。そしてどちらかを口に出したとたん、フィーンじゃなくてもあれこれ聞かれてしまうだろうし、言えないとなれば不審な男が……と思ってしまうに違いない。

 ウソの関係である以上、エリヤは絶対に言葉に詰まる。

 しかしやめておけと言われたり、行くのを止められるのも困るのだ。


「あの、まだ歩き回りはじめたばっかりで、地名が違うところも多くて……。今日はもうちょっと西の方とか行ってみようかなって。何か聞かれたら、そう言って置いてください」

 逃げるようにして外へ駆け出しながら、エリヤは言った。


 それが、更に怪しさを増す行動とは気付かずに。



「なぁんか隠してるね」

 客席の陰に隠れていた、ルヴェが立ち上がる。

 フィーンがため息をついた。


「いつから隠れてたんだい、ルヴェ?」

「エリヤが来るちょっと前。おこんないでよ姉さん。だってグレイブがエリヤの様子を見てろっていうからさ」


 たった三日。

 エリヤが昼間外ですごしたぐらいで、グレイブはルヴェに行き先を調べるように言いつけてきたのだ。


(なんだこの過保護っぷり)

 と思うものの、ルヴェとしてはグレイブに逆らえない。だから大人しく監視活動をしていたのだが。


「エリヤが隠れて行くような場所って、どこかしらね」

 エリヤは引っ込み思案だ。

 でなければ見知らぬ土地にいるとはいえ、それなりに慣れ、周囲の理解が得られる状況になった後しばらく経っているというのに、グレイブに大人しく従って外へ出ずにすごすなど、考えられない。


 あと考えられるのは、自分がけしかけたように、本当に外へ出かけた時に何らかの出会いがあったという可能性だが。


「まさか……ね」

 つぶやきながら店を出て行こうとするルヴェに、フィーンが言う。


「後を付けるのかい? あまり感心しないよ。相手は女の子なのに」

 引き留めようとするフィーンの声に、ルヴェは手をひらひら振って言う。


「近くで立ち聞きとか、そんなことしないし。問題なかったらグレイブには詳細なんて話さないってば~。女心を傷つけるようなことはしないわっ」

「こら、また女言葉使って!」

「怒っちゃいや~ん」

 エリヤ同様、言い逃げして店から出たルヴェは、駆け足でエリヤの姿を探す。


 焦って目的地へ行く必要はないのか、はてまた本当に散歩なのか、エリヤはゆっくりとした足取りで道を歩いていた。

 正直、ルヴェは本当にエリヤは散歩をしているだけかと思い始めていた。

 しかし数分後、エリヤの横に並んで歩き始めた人物に、目を見開く。


 赤毛の青年には見覚えがあった。ルヴェが銃製造者を集めてグレイブを殺そうと計画していた時、会合場所に出入りしていたものの、事件の時には参加していなかった男だ。

 ルヴェは顔を見られないよう帽子を目深に被る。

 髪を切って衣服を変えているとはいえ、顔は記憶に残っているはずだ。用心すべきだと思った。


 そうして壁に隠れるようにして追いながら、ルヴェは眉をひそめる。

 なんでエリヤがあの男と係わっているのか。組み合わせ的に、町で声を掛けられたとは考えにくい。エリヤも何か小声で話してはいるが、甘い雰囲気など皆無だ。

 男の方も笑顔など見せていない。


 そうすると、やはり『銃』に関係していることかと思う。が、確か事件の日にいなかったあの男は、術式銃を持っていないはずだ。そしてエリヤも、銃を持って出た様子はない。


 一体何をするつもりなのか。


 二人は、やがて水路の脇にある壁のくずれた家や、屋根を補修した家が多い地区へと入っていく。やはり付き合っている男女が行くような場所には思えない。

 が、おもむろに建物の一つに入って行く姿を見て、ルヴェは真っ青になる。


「ちょっ、あの子なにしてんのよ!?」

 あんなあっさりと、男と二人で建物の中に入るとは何事か。

 100年前でも100年後でも、この基準だけは変わらないと思っていたし、恋するエリヤならば絶対しないと思っていたルヴェは慌てて追いかける。


 が、エリヤと男は建物の中の部屋に入ってしまった後だった。

 木戸の前で、ルヴェはわたついた。


「ど、どうすんのどうすんのあたし!?」

 どうすると思っても、今ここで部屋の中に突入してエリヤを連れ出すべきなのかどうか。

 迷っているうちに、状況はさらに変化した。


「なにしてんのよ、バカー!」


 怒号が聞こえ、ルヴェは急いでその部屋の窓に駆け寄った。

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