番外編 4
エリヤの生活していた100年後の世界では、魔力が在ることが普通。それに関する仕事に就くためには、魔力の大小が問題になる時代だ。
当然、技術者などになるためや、戦争時などは魔力を増幅する方法が模索されたことはある。
エリヤも、その手の怪しい本を読みあさった。
根性論を語るものから、オカルトな方法まで、とにかくうさんくさかったが、それでもエリヤは試したのだ。
けれどさっぱり増幅ができない。むしろ『必ず暴発』させるような術式も混じっていて、こそこそと家の裏の林で実験の際に、木を燃やしてしまいそうになったことも多々あった。
唯一成功したと思えたものはあったが、一ヶ月もの間準備を重ねて、地面や木から魔力を集めたあげく、火を灯してみても蝋燭の火が一本分から二本分に増えただけだった。
多大なる無駄な労力を費やした果てに、エリヤは魔力増幅を挫折したのだ。
おそらく、魔力を暴走させないとすれば、その逆をすればいいのだろうが……。
「思い出せないわぁ~」
あの暴走をさせた術式はどうだったのか。
それとも、発動の方向性を変えてやることによって、魔力を余所に流して暴発を防げばいいのか。
「できない……のか?」
ローグの表情に、不安の陰りができた。
ローグは真剣に暴走をどうにかしたいと考えているのだ。おそらくそれは、グレイブの近くにいるエリヤに接触するという、危険を冒してでも叶えたい願い。
なにより暴走を抑えることができれば、魔力持ちが恐れられる要因は激減する。
それは、グレイブの理想に近づく方法の一つではないだろうか。
だからエリヤは、努力してみたいと思った。
「できないというか……わたしそっちの専門じゃないし、知識も足りないからできるかわからない。だから研究してみないことには……」
「それでもいい!」
ローグが椅子から立ち上がり、テーブルに手をついて身を乗り出してきた。
「それでもいいから、やってみてくれ! どうせお前かあのカマ野郎にしか頼めないんだ!」
頼む、と頭を下げられてエリヤは慌てる。
「ちょ、まだ成功するかどうかもわからないし、頑張っても出来ないかもしれないからね? それだけはわかってよ?」
「わかってる、やってみて駄目だったら俺も諦める」
「あと、わたしあまり魔力がないのよ。だから作った物が本当に効果があるのか、あなたが試して。もちろん、上手くいかなければ怪我もするだろうけど……」
「いいだろう。望むところだ」
ローグは揺るがなかった。
エリヤはうなずき、とにかく今日は一度帰してくれと申し出た。
「いろいろ準備もあるし、このまま帰らなかったらグレイブに殺されかねないもの」
外泊などしたら、父親気分のグレイブが何をするかわからない。ローグを抹殺されてしまっても困る。
「あとは何か、ここまで毎日通う理由か……」
散歩といって、朝から夕方まで不在にしたら、すぐに疑われる。余所で仕事をとウソをつきたいが、公安官のグレイブ相手にそんなウソが通るわけがない。
悩んだエリヤに、ローグがあっさりと言った。
「なら、つき合ってるってことにしとけ」
「は? 誰と?」
「俺とに決まってるだろうが」
「えっ、でも……」
男の人とつきあうなど、エリヤの人生始まって以来の出来事だ。
思わずうろたえたエリヤを、ローグが冷たい目で見下ろしてくる。
「お前バカか? 本気でつきあうとか考えてるのかよ。フリだフリ! だいたいそれ以上に良い案でもあるのかよ」
ひどい言われようながらも、エリヤの方とてそれ以上の案は出てこなかったので、黙るしかない。
その上、脳裏をよぎったのはルヴェの言葉だ。
――――誰か他の男とつきあってる振りをするのよ。
意図せず、ルヴェの言う通りの状況を作り出せたのかもしれない。
そう考えたエリヤは、ローグの案を飲むことにした。