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願いは金に輝く時の影に  作者: 奏多
番外編
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番外編 3


 声の主は、エリヤの背後に付き従ったまま、指示し続けた。

 100年前の土地勘などないエリヤは、十回ほど角を曲がったところで、もうどこに向かっているのかわからなくなる。

 ただひたすら、どんどん建物の間が狭まり、細くなっていく道を歩かされた。


 やがて、さやさやと水の流れる音が聞こえてきた。

 狭い建物の隙間を縫うような道が、突然開ける。

 湿った石畳みと苔の匂いに満たされた、少し広い場所。低い塀の上に作られた堀に、水が流れる一画だった。

 それを生活用水にしているのか、水を汲んで洗濯をする人や、野菜を洗っている人の姿がある。けれど誰もが皆、接ぎのあたった服や、色あせた服を着ていた。


 たぶんここは、裕福ではない人達が固まって暮らしている場所なんだろうとエリヤは思う。

 100年後でもそういった場所はある。どんなに王都全体を改装しようとも、人が集まるうちに自然と振り分けられてしまうのだ。

 持つ者と持たざる者とに。

 そして人は、自分と似た人の側にいると安心する生き物である。同じような境遇の人々がこうして肩をよせあって、細々と生きているのだろう。


 彼らを遠巻きに見る場所を歩き、やがて崖のように立ち並ぶ集合住宅の一つ、壁の煉瓦があちこち崩れた建物の、一階へと進まされる。

 立ち止まったエリヤの後ろから男の腕が伸びて、すすけたような木の扉を叩いた。

 次にエリヤが肩を掴まれて後ろへ下がらされた瞬間、扉が勢いよく開いた。

 そして飛び出してきたのは、


「いえーい、俺いっちばーん!」

「お前足蹴っただろ蹴っただろ!」

 小さな男の子二人だった。

 彼らはひとしきり言い合った後、くるりと振り向いてエリヤを指さした。


「あー、ローグの兄ちゃん女連れ込みー!」

「連れ込んでる-!」

「つ、つれこみ!?」

 その単語に目を丸くしたエリヤだったが、


「うるせぇなぁ。ほら、俺が帰ってきたんだからとっとと行け。邪魔だガキども」

 背後のローグと呼ばれた男は、子どもに毒づきながらも、持ち歩いていたのだろう、紙に包んだ飴を二人に投げてやっていた。


「まいどありー! 女の事は黙っててやんよ!」

「また留守番必要ならよんでよー!」

 飴を受け取った子ども二人は、満面の笑顔で走り去ってしまう。

 彼らが去った後、一気に音がなくなって恐ろしく静かに感じた。まるで嵐の後のようだ。


 様々な物に呆然としていたエリヤは、鉄の感触が離れたことに気づき、振り返る。

 そして見上げた人の顔に、首を傾げた。

 ずっとエリヤの後ろにいたのは、どこか見覚えのある青年だった。

 けれど何度も会った人手はないのだろう。それに赤い髪や顔立ちでは思い出せない。けれど耳に何個も付けた金のリングピアスを見た瞬間「あ」と思わず口にした。


「銃の……職人さん?」

 確かグレイブに連れられて、鉄の街へ行った時。銃をいくつか見せてもらった店にいた、職人らしい青年だ。

 エリヤにそう言われて、ローグはかすかに顔をしかめる。


「とりあえず中に入れ」

 今度は銃口ではなく、手で背中を押された。


 男の家に入る云々以前に、恐喝犯の家に入ること自体がためらわれたが、エリヤは手ぶらで、ローグが武器を持っているのだ。

 エリヤは諦めて、大人しく従うことにした。


 入ってみると、意外に広かった。居間と奥に別な部屋などへの入り口が見えるあたり、家族四人ぐらいで暮らせるほどの空間がある。

 居間にあたる玄関から入ってすぐの部屋は、簡素なテーブルと椅子が三脚。あとは飾り棚などもなく、食器棚があるおかげで、生活感うっすら残る程度だ。


 ゴミが積み重なっていないところを見ると、男一人暮らしならばきれい好きだと想像して……エリヤはやくたいもない推測をそこで止める。

 問題は部屋の使い方なんかではない。このローグという男が、なぜエリヤを連れてきたのかだ。


 入ってすぐの場所で立ち止まったエリヤは、ローグが扉を閉める音を聞きながらゆっくりと問う。


「……で、わたしに何をさせたいの?」

「まずはそこに座れ」

 言われて指を差されたが、エリヤはどうにもためらわれる。


 座った姿勢だと逃げ出しにくい。そもそもこの男が、どんな要求をしてくるのかわからないのだ。

 先ほどの子ども達の言ったような意味だとは、エリヤも思わない。恐らく銃にまつわる依頼だ。

 気をはりつめて座らないエリヤを見て、ローグは小さくため息をつきつつも、自分だけ椅子に座ってしまった。


「まぁ、脅して連れてきたのは悪かったが……、公安庁の奴に見つからず、さっさとあの場からずらかりたかったんだよ。撃つつもりはない」


「でも、公安庁には知られたくない後ろ暗い話なんじゃないの?」

 エリヤが問えば、ローグは「そう悪い話じゃない」と言い出す。


「夢みたいな話だ。話しても一笑に伏される可能性だってあるだろう。けど、俺はあのルヴェってガキが未来から来たことを知ってるし、お前が魔法の銃で見たことのない魔法を使うのも知ってる」

 エリヤは自然と身構え、足を一歩後ろに引く。

 この男は、あの事件の時に公安庁に捕まらなかったルヴェの仲間だ。


「わたしに、銃を造れとでも言うの?」

 銃製造を要求されたら、逃げなければならない。そしてグレイブに報告するのだ。

 けれど……と考えながら、エリヤは周囲に視線を走らせる。


 扉はエリヤの背後だ。けれどローグがどれほど銃を使えるのかがわからない。それにエリヤを扉側に立たせたまま放置しているのだ。もしかしたらエリヤが反転して逃げるまでの間に、足ぐらい打ち抜く力量があるのか。

 緊張に口を引き結んだエリヤに、しかしローグは首を横に振る。


「魔法を撃てる銃が作れるなら、魔法を打ち消す銃は作れないのか?」

「……は?」

 思わず聞き返したエリヤに、ローグは親切にもかみ砕いて言ってくれた。


「魔法をどうにかして銃で撃つ方法があるなら、その魔法を打ち消す術ってのを作って、銃で撃つことはできないのか?」

 エリヤにも言っている意味は分かった。

 分かったが、よもやそんなことを聞かれるとは思わなかったのだ。


「おい、言葉分かるか?」

「わ、わかるけど。えーと。それは何に使う目的で?」

 ぱっと思いつくのは、術式銃で撃たれた際、その魔法を打ち消すような使用法だ。

 けれどそれはとても難しい。魔法を逸らしたり効果を減らすのならまだしも、本気で術自体を打ち消すのは不可能だ。できるとしたら、敵が銃を撃つ前に術式銃自体を破壊することだが、それは銃使用者の腕にかかっている。


「違う。魔力持ちが暴走した時に使うんだよ」

「はぁっ!?」

 魔力持ちが暴走した時に、魔法を打ち消すというのか? 驚きのあまりエリヤの口が滑ってしまった。


「え、そんな良いこと考えついたってのに、どうして人脅して連れくるって発想になるの!?」

「はっきり言うなお前……」

「う、つい口が!」


「だから銃のことを依頼するってのに、長々と立ち話するわけにいかないだろが。しかも普通に頼んでるうちに、人目につきたくねぇ」

 あきれたように言ったローグは、がしがしと自分の赤毛をかきまわす。


「で、どうなんだ。暴走を止める銃ってのは作れんのかよ?」

「いや……。銃ではちょっと」


 暴走を抑える術式というのが必要になるのではないか、とエリヤは思う。

 それを撃ち出したところで、術式印に魔力を送った瞬間、その魔力に対して術式が作動する。ということは、引き金ひいても、かすっ、と空気が漏れておしまいになる可能性が高い。

 だから言ってみた。


「あの、アヴィセントコートってね。監獄って言われてるけど、実は魔力持ちで迫害された人を保護してる場所で……」

「一生檻のなかにいろってか?」


「うぅ」

 それもそうだ、とエリヤも思い出す。アルスメイヤの魔力下で安定はするものの、あそこはあくまで監視場所なのだ。


「でも魔力の暴走を止めるって……」

 どっちにしろ、銃でなんて無理だ。100年後だって銃で魔力暴走を抑えるなんて聞いたことがない。みんな制御リングを……。


「そうだ、制御リング!」

 ぽんと手を叩いて叫ぶと、ローグが立ち上がる。


「な、なんかあるのかよ!?」

 彼の期待するようなまなざしに、エリヤは得意げに語った。


「未来でもね、特に子どもは魔力が不安定なんだけど、そういう子には制御リングをあげるの。魔力の放出はしにくくなっちゃうんだけど使えない訳じゃないし」


「それがあれば、魔力の暴走はしないのか!?」

「うん、まずなくなると思う。未来ではそんな事件、ずっと昔の出来事としか思ってなかったもん」


「じゃあそれでいい、作ってくれ!」

 嬉しそうに言ったローグに、エリヤは笑顔で首を横に振った。


「作ったことない」

「は?」


「私、魔力が暴走させるほどないから、必要なかったの」

 むしろ増幅できないか試行錯誤して挫折した歴史はある。

 その時のことを思い出し、エリヤはふっとため息をついたのだった。

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