番外編 2
「そうは言っても、どこ行けば……」
フィーンの店から追い出されたエリヤは、ルヴェが忘れずにおしつけてきた帽子を頭にのせ、あてもなく歩き出した。
ルヴェの言う通りに、男友達をつくるとか、そういうことは全く考えていない。
というかそんな簡単に目論見通りにいくわけがないのだ。
そもそも、エリヤにとっての男子というのは、学校で出来ないエリヤをはやしたて、喧嘩する相手だった。
蔑まれた記憶は、思い出せばそれなりに胸に痛い。
けれども戻り方もわからない、そしてもはや戻る気がエリヤにない以上、遠い過去の出来事のように感じられるようになってきていた。
100年も前にやってきたばかりの時は恐ろしくて戸惑うばかりだったが、こうして慣れてくると、とんでもない転機ではあったがエリヤにとっても良かったのではないかと思える。
それもこれも、グレイブのおかげだ。が、かといってその好意に甘えすぎるのもいけないと思う。
ゆったりとぬるま湯につかってるうちに、グレイブに嫌われたりしたら……。
「そうよ、むしろこのまま仕事をさがしに行くべきじゃない?」
100年前の従業員募集というのがどんな物かはわからない。
が、人間の考えつく範囲の形態のはず。きっと募集雑誌などはなくても、店に張り紙くらいあるだろう。
そう考えたエリヤは、あちこちの店をめぐることにした。
エリヤに銃作製以外にできることといえば、せいぜいウェイトレスや売り子ぐらいなものだろう。だから飲食店や雑貨屋、食料品店などをみつけると、まずは扉や壁に張り紙がないかを見て、中へ入る。
店主がいる会計台の近くにも張り紙がないのを見ると、とりあえず声をかけ、従業員を募集していないかを聞いてみた。
が……。
「すまんね、今はまにあってるんだ」
「ちょっと仕入れ値が最近あがっててね。雇う余裕がなくて」
「こないだ雇い入れたばかりなんだよ」
13件断られたところで、エリヤはぐったりとして、公園のベンチに座り込んだ。
なにせ自分の暮らしてきた時代ではない。
変な事を口走って、第一印象から避けられないように気を張っていたら、精神的に疲れ切ってしまった。
「うう、仕事見つけるのも上手くできないなんて……」
疲れているせいか、落ち込み方もより深くなりつつある。
でも、これくらいで諦めてはいけない。
よしと立ち上がったところで、腕を掴まれた。
「……え!?」
いつの間にか背後に人がいて、背中にはよく知った鉄の感触がした。
銃をつきつけられている。
気付いたエリヤは、眉をひそめた。
恨みの末、エリヤを殺そうというのだろうか。そんなことをする人間については、ある集団ならば心当たりがある。魔法の銃を造ろうとしていた者達だ。しかし先の事件でことごとくが捕まり、アヴィセントコートに収容されたり、普通の牢に入った者もいる。
では、その家族がどこかで協力したエリヤのことを知り、仕返しをしようとしているのか。
しかし、銃を持つ相手は一向にエリヤを殺そうとはしない。
では、グレイブと同じ家に住んでいるから、グレイブを誘い出すための人質にしようというのか……。
考えを重ねるエリヤに、銃を持つ相手が言った。
「お前に、依頼がある」
依頼? とエリヤは瞬きする。
脅されながら依頼されるということは、きっとろくでもない願い事に違いない。
同時にエリヤは首をかしげていた。その声に、聞き覚えがあったのだ。
そんなエリヤに、どこかで聞いた声の主は言った。
「詳しく話せる場所へ行く。まずはそのまままっすぐ歩け」