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願いは金に輝く時の影に  作者: 奏多
番外編
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番外編 1

お気に入り登録、そしてご感想ありがとうございました。

有り難くもリクエストをいただきましたので、番外編をちょろちょろと載せていこうと思います。

詳細など、活動報告をご参照下さい。

 しゅるしゅると、ほどかれていくのは白い布。

 その下から現われたのは、見慣れたエリヤの手だ。

 あちこちに火傷の痕が残っている上、右の手のひらに一筋、真新しい傷までできている。

 でももう痛みはない。傷も完治はしているようだ。


「うん、いいみたいだね……でも、もう少ししておく?」

 包帯をほどいてくれたフィーンも、経過は良好と判断してくれた。が、まとめた包帯を店のカウンターに置きながら、彼女が確認したのは、エリヤの保護者に対する遠慮があったからだろう。


「いいです。なにかと動きにくいし、もう痛くないですし」

「でも、グレイブが納得するかどうか」

「なんとか説得します!」

 ソファに座っていたエリヤは、力を込めてぐっと手を握りしめた。


「だってあの様子じゃ、いつまで経っても『良し』って言ってくれないでしょう?」

「まぁ、確かにね……」

 フィーンも心当たりがあるようで、一瞬遠い目になる。


 そもそも、包帯のまき直しすら、当初はグレイブが他の人に任せもしなかったのだ。あげく、勝手にエリヤが包帯をとると怒られる。

 一週間近く経って、ようやく看病に飽きてくれたのか、フィーンに様子を見てやってくれとたのむようになったばかりなのだ。


「それに、このままじゃ働けもしないじゃないですか」

「え? 働きに出るのかい?」

 エリヤの言葉に、フィーンが目を丸くする。

 意外かとエリヤは首をかしげた。


「だってグレイブさんはここに住んでもいいとは言ってくれますけど、衣食住全て頼ってる状態で……。さすがに本当の親子でもなんでもないのに、仕事もしないで、このままってわけには」

 いかないでしょう?

 そう言いかけたところで、エリヤの言葉は遮られた。


「必要ない」

 二階の部屋から降りてきたのだろう。

 グレイブがコートを着た姿で、いつのまにか店の中にいた。

 一緒についてきたのか、ルヴェもいる。


「あ、あれ? 仕事中なんじゃ……」

 時間的にはまだ夕方前だ。


「近くを通りがかったのでな。様子を見ていこうと」

 グレイブはつかつかと、エリヤに近づいた。そして言う。


「お前は命の恩人なんだ。余計なことは気にするな」

「でも、三ヶ月後は? 一年後は? ずっとってのはちょっと……なんか寄生してるみたいで、嫌じゃないですか?」

 エリヤは嫌だ。

 しかしグレイブはあっさりと肯定した。


「寄生でもなんでもすればいい」

 そう言ってグレイブはコートの裾を握りしめたエリヤの手を、外させる。そのまま自分の手に握り込んだ。


「お前は沢山の人を救ったんだ。まだこの世界にも慣れてないだろう? 不満なら、少しずつ外へ出かけるようにしたらいい」

 それで話は終わりだとばかりに、グレイブは部屋から出ていってしまう。

 エリヤはむぅと唇を尖らせた。


「知らない世界だから、なおさらどこ行ったらいいのかわからないじゃない」

 知り合いはごく少数。

 王都も一〇〇年後の地理しかわからない。

 なのにどこへ出かけろというのか。知り合いに会いにいくといっても、おおよそ皆、公安官庁に固まっている。他に宛があるといったら、グレイブの妹アルスメイヤぐらいだ。アヴィセントコートへ、エリヤ単独で訪問できるわけがない。


「そもそも、別に外に出たいからってわけじゃないのに」

 とにかく嫌なのだ、グレイブに全てまかせきりで、本当に子どものように扱われるのが。


「まぁ保護者が言うのだから、もう少し甘えておきなよ」

 フィーンは困った様に笑うと、物をとりにいったのか、店の奥へひっこんでしまう。


「甘えろっていったって……なんか違うのよ」

 上手く言えないけれども、エリヤのしたい『甘え』はそれではないのだ。


「ふーん?」

 エリヤの独り言に、ルヴェが反応する。


「そんなに仕事したいわけ? エリヤがそんなに仕事の虫だったとはねぇ」

 しみじみとからかう口調に、エリヤはすねた。


「そんな。仕事の虫とかってわけじゃなくて。それにあたし仕事ってしたことないし」

 なにせエリヤは学生だったのだ。

 そして補講続きでは、短時間の仕事もできなかった。


「じゃ、なんでそんなに仕事したいの?」

 今度は普通に尋ねてきたので、エリヤも素直に答える。


「なんかルヴェだって仕事してるじゃない。このまま家にいて何もしてないのってあたしだけだし、子どもじゃないんだし……」

 そこまで聞いたところで、ルヴェは何か思い当たったようだ。


「ああ、あんたのそのもやもや、だいたい何なのかわかったわ」

 ルヴェはふふんとバカにしたように笑う。

 少しむっとしたが、それ以上に理由を知りたかった。なのでエリヤは尋ねた。


「教えてほしいんだけど」

「引き替えに、言葉遣い間違う度に叩くなって、グレイブにいっといて?」

 フィーンに頼まれて、言葉の矯正について教育的指導をされているらしい。


「それぐらいなら」

 エリヤがうなずくと、ルヴェは可愛らしく微笑んで告げた。


「あんたが、グレイブと対等な立場になりたいから、でしょ?」

「対等?」

 別に上下があるわけでもないのに、そんな事を願うだろうかと、エリヤは首をかしげる。


「ばかねぇエリヤ。一人の対等な人間だって認めてもらわないと、意識してもらえないじゃない……恋愛対象として、さ」

「え……?」

「娘のままでいたくないんでしょ? 一人の女だって認めてほしいんじゃない?」

 ルヴェの言葉に、エリヤは胸をつかれた。

 そうか、と。グレイブが好きだから、子ども扱いされたくないのだ。そしてルヴェさえも仕事をしている現状で、エリヤ一人が仕事もしていないのは、まさに庇護されている状態そのものだったから、嫌だったのだ。

 なるほど、ルヴェの言う事は納得できる。


「わかった?」

 ルヴェに確認されて、エリヤはうなずく。

 するとルヴェは苦笑う。


「恋してるのは否定しないのね」

「あ、うわっ……」

 エリヤは自分の顔を覆って呻いた。

 つい自分の考えでいっぱいになって、否定するとか隠すとか、そういうことを全て忘れ去っていた。


「あんた素直すぎるわー。だから別な案を教えてあげるわ」

 ルヴェがくすくすと笑いながら言う。


「え、他に方法があるの?」

 バレたのなら、もう開き直るしかない。

 そう思って顔をあげると、ルヴェはニマニマとしながら告げた。


「誰か他の男とつきあってる振りをするのよ。ま、男友達くらいでも、見せてやればグレイブも対応変わるんじゃない? ってことで、がんばってひろってきなさい」

 そうしたら、エリヤだって女性なのだと意識するだろう。


 ルヴェにはそう言って、エリヤを外へ買い物に出るよう促したのだった。

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