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9章 私のわがまま聞いてください 1

「消滅させるって何?」

 言いながらエリヤははっと思いつく。

 銃は、製造できる知識を持つ者を全て殺さなければ、必ず新たな銃が造られてしまう。


「まさか、虐殺って」

 グレイブが術式銃を、この時代から消滅させるために行なったことなのか。

 その時、炎が風に煽られる音が聞こえた。

 振り向けば、建物の屋根を越えて立ち上がる、炎が見えた。


「おい、エリヤ!」

 そのとたん、エリヤは走り出していた。


 死なないで、殺さないで。

 それだけを念じながらエリヤは駆け続けた。


 たぶん、こうして多人数で追い込まれてしまったからだ、と思うのだ。

 グレイブは戦うべき相手が多すぎて、そして術式銃を持つ人間のあまりの多さに、全員を殺すことで過ぎた力を封じようとした。

 魔力を持つ者が、不必要に恐れられないように。

 けれどそれは自分をも殺す道。

 おそらく強い魔法を使ったせいで、グレイブの力も隠しておけなくなったのだ。

 だから――グレイブは自ら死罪を選んだのかもしれない。


 たどり着いたその場所で、エリヤは息を飲んだ。

 端々に倒れる人の姿。

 その中心に立ち尽くしているように見える、グレイブがいる。


「グレイブ!」

 名前を呼びながら駆け寄れば、振り返った彼は顔をしかめた。

 その表情におびえそうになりながら、エリヤは言いつのる。


「ねぇグレイブ、お願いだから殺さないで!」

 半分泣き声になりながら、エリヤはグレイブのコートを掴んだ。


「ジェイスから聞いたわ。グレイブが何をしようとしてるかって。だけどこのまま銃技師を殺し続けたら、あなたは虐殺した罪を背負って死ななくちゃならなくなる!」


「……未来では、そうなっているということか?」

 淡々としたグレイブの言葉に、エリヤは唇を噛み。ややあってうなずいた。


「そうよ……。あなたは未来で、虐殺事件の大罪人として処刑されちゃうのよ」


「そうか」

 グレイブは、エリヤの言葉にうなずいた。


「そうかって……! それだけ!? だって死んじゃうのよ? あの王様にあなた自分を処刑させるつもりなの!?」


「彼は王だ。必要があれば処刑の決断も下す必要がある。それは解っておいでだろう」


「ばかっ!」

 エリヤは思わず怒鳴った。


「どうして死んじゃうのよ! お願いだから死なないで! 父さんみたいに死にたくないのに死んじゃう人だっているのに、なんでグレイブは死ぬ道しか探そうとしないのよ! ……私が探すから。死ななくてもいい、そして魔法をみんなが怖がらなくなる方法を探すから……」

 涙が目に浮かび、思わずグレイブのコートに顔を押しつける。


「エリヤ……?」

 グレイブが、とまどうように名前を呼ぶ。

 エリヤは嗚咽をこらえながら、そのままどうか「わかった」と言って欲しいと念じていたが……。


「そうはさせないわ」

 声と共に降り注ぐ、軌跡を描く稲妻。

 その場にしゃがみこんだエリヤを、グレイブが前に立って庇う。

 稲妻の残滓が空中で火花を散らし、グレイブの魔力の壁に跳ね返った。


 グレイブはまっすぐに前を向いていた。

 脇道から飛び出してきたルヴェと、沢山の銃を持つ男達の方を睨みながら。


「あなたも邪魔なのよエリヤ。あたしたち以外に、銃を作れる人間がいちゃ困るのよ。それにしても」

 ルヴェはせせら笑う。


「あんたが魔力持ちだとは思わなかったわグレイブ。私の暴走を止めた時だって、殴りつけて失神させたくらいなのに」


「その方が手っ取り早いからだ」

 平然と答えるグレイブに、ルヴェは眉をひそめる。


「ほんっと動じなさすぎて嫌になるわ。あたしがここにいることに、何か感想とかないの?」


「それよりその危険物を製造したのはお前かルヴェ。二度目は見逃せない。大人しく捕まれ」

 ルヴェの苛立ちなど気にもせず、グレイブは淡々と要求を述べる。


「ふん、どうせ歴史は変わらないわ、グレイブ・ディーエ。私が今ここで殺さなくったって、あなたはいずれこの街で開発された魔力を持つ銃と、その技術を会得した技師達を皆殺しにして、処刑されるのよ。そして大犯罪者として歴史に刻まれる。百年先までもね」

 エリヤは思わずグレイブの顔を見上げた。


 一人だけでなく、他の人間にまで自分が死ぬ運命だと宣告されて、傷つかない人がいるだろうか。

 銃を構えながらルヴェとのやりとりを聞いていた者達は、既に聞き知っていたのか、グレイブが怯えることを期待して笑っている。

 しかしグレイブは、毅然として言い切った。


「それがどうした」

 その言葉に、エリヤはグレイブの覚悟を知った気がした。


「どうしたって……」

 さすがのルヴェも戸惑う。

 それを綺麗に無視して、グレイブはエリヤに問いかけてきた。


「エリヤ、お前が百年前の人間だというなら、魔力を持つ者はまだ差別されているのか?」

 妹を守るため、自分を虐げた世界を変える役に立ったのか。それだけを願っているグレイブに、嘘は言えなかった。


「誰も、誰も差別されてないよ。むしろちょっとでも魔力がないと笑われるくらい」

 悔しい思いをしても、あの時代に魔力の有無で殺される人はいなかった。

 それを聞いたグレイブは決然とうなずく。


「俺の目的が果たされる保証があるなら尚更だ。お前達を抹消する」


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