8章 貴方の秘密を教えて下さい 6
迫る炎を前に、淡々と告げたグレイブの瞳が金に色を変える。
瞬間、風と共に湧き上がる魔力が、炎を弾き、そのまま男へ襲いかかった。
「ひぃっ!」
吹き飛ばされた男は壁にたたきつけられ、床に倒れて動かなくなった。
敵がいなくなったことを関知したように、風が金の煌めきに姿を変えて空気に溶けて消えていく。
「魔法……」
術式も術式銃も使わずに撃ち出された、魔法だ。
エリヤは恐怖も忘れて、自分を見下ろすグレイブをじっと見上げた。
「今のは、魔法で、だからグレイブって……魔力持ち?」
エリヤの呟きに、グレイブは「そうだ」と静かに答えた。
意外だった。
魔力を持つ人間を虐殺した人なのだ。憎んではいても、自身が魔力持ちだったとは、想像もしなかった。
一方で納得する部分もあった。
魔力の暴走を抑える一番手っ取り早い方法は殺すことだ。
だからグレイブ・ディーエは、魔力持ちの人々を殺したのだと思われていたはずだ。
けれど実際は、グレイブは魔力持ちの人々を離宮に匿っている。本人を生かしたまま、暴走を止めるのはとても難しい。だがグレイブが魔力を――しかも術式を使わずとも力を鮮やかに制御できる人間ならば、それが実行できるのだ。
思考が一段落ついたところで、体から力が抜けてしまう。
グレイブの腕からずり落ちるようにその場に座り込んだエリヤは、当面の危機が去った安堵にほっと息をついたが、
「それで、どうしてお前はここにいる?」
淡々とした中に混じる、わずかな苛立ち。
気付いたエリヤは、はっと身を固くした。
そうだ。自分はここへ逃げて来たのだ。追求されるのが怖くて。
思わずうつむいてしまったエリヤだったが、響いた銃声に再び体の中を緊張が駆け抜けた。
悲鳴が上がる。
それは今、エリヤとグレイブがいる戸口から見える、建物の陰からだ。
見知らぬ男が倒れ、それを踏み越えるようにしてジェイスが現われた。
「だめですよ副長官。ひとりで走って行ったと聞いて驚きました。何かあっては俺たちが困る」
「すまん、恩に着る」
ジェイスの軽い口調に、グレイブが重々しく応じた。
「ついでにエリヤを保護しておいてくれ。どうも俺の関係者だと思ってか、エリヤが捕まっていたようだ。俺は残った犯人達をかたづける」
「了解。頼まれました副長官」
ジェイスの答えを聞くと、グレイブはさっさとその場を立ち去っていく。
エリヤはほっとしつつも寂しくなる。
同時に、そんな自分の気持ちに戸惑う。追求されては困るのに、なぜグレイブに行ってほしくないと思うのか。でも捕まって殺されかけた所だったのだ。助かったとはいえ、怖さはまだ残っている。
不安になって当然だろうと自分に言い聞かせる。
けれどそうして納得した後も、目はグレイブに釘付けになっていた。
ふいに、グレイブが足を止めて振り返る。
自分の視線に気付いたのかと、エリヤがどきりとした。
「そこで待っていろ。聞かせたいこともある」
「え……」
問う間もなく、グレイブは建物の向こうへと歩み去ってしまう。
呼び止めようと動きかけた右手を、エリヤは自分の左手でおさえた。
聞かせたいのは、グレイブが魔法を使えることについてだろう。今までエリヤに知らせずにいたのは、おそらくこの時代の状況からして仕方のないことだったのだろう。
でもその理由を話そうといってくれた、グレイブの気持ちが嬉しい。
心の中でそっと喜びを噛みしめていたエリヤは、腕をつかまれて現実に立ち戻る。
「で? 捕まっていたのは本当のようだが、一体何があった? 副長官殿は優しい解釈をしたようだがな。君は魔法を撃つ銃を使えるってことは、奴らの仲間だったのが、仲間割れしたのか?」
腕を掴んだジェイスの言葉に、エリヤは息を飲む。
「な、仲間じゃないわ。急に捕まって……。それより! グレイブは魔力持ちってどういうこと?」
「まぁ、見てしまったら気にはなるだろうな」
ジェイスはふっと息をつく。
それから数秒、間を開けて言った。
「そうだな。君が今まで黙りこくっている「あの銃をどうして使えるのか」っていう理由と引き替えになら教えてやってもいい」
エリヤは思案した。
自分の秘密は、話せばきっと信じてもらえない。銃を使えるとわかった以上、どちらにせよエリヤはアヴィセント・コートに幽閉されてしまうだろうから。
ならばここで暴露してしまっても、もういいだろう。
それでエリヤの『荒唐無稽な話』をジェイスが思い出して、グレイブを助けるきっかけになるかもしれない。
何より、グレイブが魔力を使えるのに副長官などしている理由を知れば、彼が虐殺をするきっかけや理由がわかるかもしれない。
エリヤはうなずいた。
「副長官殿が辺りを見回って戻ってくるまで、まだ時間がある。最初から話そう」
そしてジェイスは語った。
グレイブが歩んできた今までの人生について。