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願いは金に輝く時の影に  作者: 奏多
本編

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8章 貴方の秘密を教えて下さい 1

 まず、グレイブはその場の処理を行なわなければならなかった。

 離宮を守る衛兵達が集まり、グレイブは彼らに指示を与えるのに忙しくなる。


 エリヤはその中の一人に付き添われ、手袋をポケットに仕舞い、濡れた布で手を冷やしていた。

 手袋自体はさして煤けたりもしなかったのだが、熱と衝撃を全て防ぎきれるものではなかったらしく、軽い火傷をしたようだった。

 エリヤにとってはグレイブを守った勲章であり、秘密がバレてしまった証。


 ぼんやりと赤くなった手を見つめている間に、グレイブに呼ばれて駆けつけたらしい公安官達が離宮の中へ大挙してやってきた。

 その中の一人が、エリヤを家まで送ってくれると申し出てくれた。

 エリヤがここにいても邪魔になるだけだ。

 うなずき、歩き出す前にグレイブを探して振り返った。

 沢山の黒緋のコートを着た部下に囲まれたグレイブは、エリヤの視線に気付く余裕はなさそうだった。


 そうして大人しく家に戻り、一礼して去る壮年の公安官を見送りながら、エリヤはふと思った。

 もしかして心配してくれたから送ってくれる人を手配したのではなく、エリヤが逃げないよう、きちんと家に戻るのを確認させたのではないか、と。

 その考えは、エリヤの胸に痛みをもたらす。

 嘘をついていたエリヤを、もう信用してもらえないかもしれない。その想像は酷く苦しく、エリヤはグレイブの部屋に入ってケープを脱ぐと、ソファに腰掛けたままぼんやりと手を見つめ続けていた。


 しばらくして部屋の扉がノックされる。

 やってきたのはフィーンだ。


「朝、急に飛び出して行ったから心配してたけど……何かあったのかい?」

 ぼんやりしたままその言葉を聞いていると、フィーンはエリヤの顔をのぞき込んでくる。

 そうだグレイブが狙われたことを話しておかなければ、とエリヤは思った。あんな狙われ方をしたのだ。グレイブの家であるここもいつ狙撃されるかもしれない。


「あの、グレイブが狙われて、怪我しそうになって」

 フィーンもまたグレイブを恩人だと思っている。だから驚き、安否について尋ねられると思ったのだが、


「エリヤは? 君は大丈夫? 怪我はないみたいだけど、恐かっただろう」

 フィーンは心配そうな表情になると、エリヤを抱きしめてくれた。

 いつも守ってくれるグレイブとは違う、柔らかな感触。

 もう亡くなった母親や、育ててくれた祖母の抱きしめてくれる腕を思い出し、エリヤは思わず泣きそうになった。

 泣いてすがって、フィーンになにもかも打ち明けたくなる。

 でもそれはできない。

 言えばフィーンにまで変な目で見られるのが恐かった。蔑視されるのは、もとの時代でもう懲り懲りだった。

 唇を噛みしめて黙っていると、やがてフィーンが諦めてくれた。


「君はルヴェと一緒だね。頑固なところも」

 そう言って、フィーンはミルクティーを用意してくれた後は、エリヤを一人にしてくれた。

 せっかくの好意だ。冷めるまま放置するのは本当に恩知らずだろうと、エリヤはミルクティーに口をつけながらルヴェについて思い出す。


「そうだルヴェ……」

 ルヴェもまた、エリヤと同じ未来から来た人間だ。

 フィーンの口ぶりからすると、どうやら姉に全てを話しているわけでもないらしい。


「あたしと同じ、なんだ」

 きっとルヴェも、突飛なことを言って姉のフィーンに嫌われたくなかったのだろう。

 ルヴェならばエリヤの気持ちをわかってくれるだろうか、と考えた。


 話したい。

 ゆっくりとミルクティーを飲み干ししたエリヤは、ルヴェを探しに行こうとソファから立ち上がりかけた。

 が、部屋の扉が予告無く開く。


 現れたのはグレイブだ。

 いつも見ているはずの無表情な顔が、ひどく恐ろしく見える。

 グレイブはソファの近く、書き物机の椅子に座る。が、黙ったままだ。

 きっとエリヤが約束通り話すのを待っているのだろう。そう思ったエリヤは、恐くて震える声で、ぽつりぽつりと話した。


「あたしは、たぶん未来から来たんです……」

 あの日、エリヤが外の様子を見て驚愕した理由。

 そして新聞の日付を見て知った、過去へ移動した事実。

 最初は自分でも受け入れられず、嘘であってほしいと思ったこと。

 けれどエリヤが知っていた王都とは違う町の様子にあきらめ、次に頭がおかしいと思われて放り出されるのが恐くて、言い出せなかった事を。


「あの銃。あれは、あたしの暮らしていた時代にある銃なんです」

 銃のことに話しが及ぶと、じっと目を閉じていたグレイブがエリヤを見る。


「信じられないでしょうけど、一〇〇年後には扱いづらかった魔力を、ああやって術式印を組み込んだ物を使って制御して、生活に利用してるんです」

 そうして馬車からは馬が必要なくなり、火をおこすのも魔力を利用して行なわれるようになった。昔のままなのは、常に魔力を使っていられない灯りなど、わずかな代物だけだ。


「それでも、銃はあまり持っている人はいません。あくまで武器ですから。あたしは……そういった銃を造る技師の卵だったんです」

 だから銃を持っていた。銃の扱いも心得ていた。鉄の街の狙撃で、音に気付いたのはそのためだ。

 グレイブはため息混じりに言った。


「お前は、明らかに使用法をわかっていて、使った様子だった。だから記憶を失ったというのは嘘で、犯人の仲間だと分かって捕まるのが恐くて言い出せなかったのかと思っていた」

 そしてゆるく首を横に振る。


「しかし一〇〇年後か……」

 そのまましばらく沈黙してしまう。

 口には出さないが、信じがたいと思っているに違いなかった。さすがに未来から来たと言われてもすぐには受け入れられないのだろう。

 けれどエリヤの真実はこれだけだ。信じて欲しい。そう願うしかなかった。


「少し考えさせてくれ」

 やがてグレイブはそう言って立ち上がった。


「あのっ!」

 ここまで話したのだ。

 もしかしたらエリヤは頭のオカシイ人間だと思われて、もう話を聞かないと決めてしまったら、二度とこんなことを言う機会はなくなる。

 だから伝えておきたかった。


「アヴィセント・コートは、一〇〇年後には閉鎖されて、庭も公園や墓地になってます。誰も、幽閉されたりしてません」

 グレイブは少し目を見張ってエリヤを見て、それから部屋を出て行った。

 一人残されたエリヤは、脱力してソファの背にもたれかかる。


「全部、言っちゃった……」

 信じてもらえる確率は低い。むしろ巨大犯罪組織か狂った学者かなんかに銃の製作を手伝わされていたとでも言えば、すぐに信用してもらえたかもしれない。

 けれど真面目なグレイブは、必ずありもしない犯罪組織や学者を探そうとするだろう。そんな徒労をグレイブにさせるわけにはいかない。なにより嘘だったと分かれば、より深くエリヤに不信感を抱く。


 彼に嫌われるのは嫌だった。

 それなら、エリヤのことを妄想が過ぎる人間だと思ってくれた方がまだマシだ。

 唯一良かったのは、アヴィセント・コートのことを話せたことだ。

 笑い話としてでもいい、アルスメイヤに伝われば少しは喜んでくれるかもしれない。その様子を見て、きっとグレイブも心がなごむはずだ。


「でもアヴィセント・コートは……」

 エリヤはグレイブに言えないままだった。

 あなたがいつか虐殺を行なってしまうなどとは。

 その結果、アヴィセント・コートが必要なくなるのだという事も。

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