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7章 貴方の上司とお会いします 1

読んで下さってる皆様、

お気に入りに入れて下さった皆様、ありがとうございます!!

 目覚めて最初に思いだしたのは、昨日銃を撃ったことだった。

 少し手が震えるように感じる。


「大丈夫、こんどはちゃんとやれたもの」

 殺す方法しか知らなかった、子供のままじゃない。


 グレイブが追いかけている犯人は、エリヤ達と同じ時代の人間に違いない、と襟やは確信を深めはじめていた。

 犯人の持つ術式銃は複数だった。他にも持っている人間がいるというのだから、間違いなく技師としての知識がある人物だ。

 そして……いくらなんでも、術式銃を開発したばかりのこの時代に、あれほどの種類のものをつくることなどできないはずだ。

 であれば、どこかで学んだ者。

 エリヤやルヴェと同じ、未来から来た人間なら、道具さえそろえば可能なのだ。


 それに犯人を捕まえなければ、おそらくああやって……エリヤの父を殺した人のように、いろんな人を傷つけるだろう。

 実際に直面して、そして自分の手で立ち向かったからこそ、エリヤは「止めなければ」と強く思った。


 そして止めることができれば、グレイブは死なずに済むだろう。


 ――世界を変えてしまう責任はとれない。


 ルヴェとの会話を思い出す。

 エリヤにだってそんなことはできない。


 でも少しだけ思うのだ。

 もしエリヤが過去へ来たことに意味があるなら。

 それはきっと――――


   ***


 エリヤは、今日も再びグレイブについていこうと決めていた。

 銃を作っている者たちにとって、一番邪魔なのはグレイブだ。

 自分の後見人を守ることもできるうえに、犯人をつかまえるなら、彼と一緒にいる方が都合がいい。

 捜査協力をお願いされていたのだから、きっとグレイブもエリヤを連れて行くと思った。

 が。


 朝食をさっさと食べ終えたグレイブは、何も言わずにさっさと一人で出て行ってしまう。


「え?」

 エリヤはまだ二口分ほど残ったラメルを手に、呆然とした。


「なんで勝手に行っちゃうの……?」

 しかも何も言わずに。もしかして、昨日の様子に捜査協力は頼めないからと、見放されたのだろうか。そう思ってしまいそうなほど、グレイブの態度はそっけなかった。


「ああ、気にすることないわよ」

 やきもきするエリヤに、ルヴェがオニオンとハムを挟んだラメルを両手で持ちながら教えてくれた。


「昨日エリヤが随分怯えてたみたいだったから、今日はそれを気にして連れていかないことにしたんじゃない? 女の子だから配慮したつもりなんだろうけど、何も言わないところが不親切よね、グレイブって」

 あーんと大きな口を開けて、ルヴェは二つに折ったラメルにかぶりつく。


 エリヤはもう一度グレイブが出て行った扉へ、視線を転じる。

 そして出かけるつもりで横に置いていた帽子を掴むと、急いでグレイブを追いかけた。


 その行動が優しさからのものだとはわかる。ルヴェに言われなくても、エリヤはそれを疑ったりなんてしない。

 でも、聞いて欲しかったと思うのは我がままだろうか。

 だってエリヤは言えないのだ。

 何が危険なのか、彼がもしかしたら、この事件の末に虐殺を起こしてしまうかもしれないこと。

 気遣ってくれるような優しいこの人が、処刑されてしまうかもしれないことも。

 だからせめて、そばにいればわかる限りは守れるのにと、思ってしまうのだ。


 店から走り出たエリヤは、右手のずっと遠く。まだまばらな人の波の向うに、背の高い後ろ姿を見つける。特徴的な黒緋のコートを着ているから、グレイブに間違いない。


「ごめんなさい!」

 エリヤは謝りながら人の波を突っ切り、グレイブを追った。


 まだ二日しか着ていない古典的な衣服は、裾が長くて走りにくかった。腕を振る動作すら、肩に羽織った長めのケープが邪魔をする。


 それでもエリヤは走った。

 グレイブはエリヤに気付かないようにどんどん先へ進んでいく。

 建物の影の向きから考えて、グレイブは王都東の外縁部へ向かっているようだ。そちらには昨日訪れた鉄の街もある。


 思い出した瞬間、エリヤはグレイブが返してくれていた白手袋を身につけた。

 防御術式が縫い込まれている手袋をしていれば、何かあった時に役立つ。敵が魔術を使うのならばなおさらだ。

 が、グレイブが途中で北へ向いはじめたので、鉄の街へ行くつもりはなさそうだと分かった。


「どこいくんだろ?」

 足早に歩くグレイブを見失わないように追いかけながら、エリヤは首をかしげた。

 昨日の狙撃を、グレイブは自分を標的にしていたと言っていた。

 未来から落ちてきたばかりのエリヤが狙われる理由もないので、それで間違いないだろうと思う。だから狙撃者を調べるために出かけたのだと思ったのだが、違うのだろうか。


 そうでないのなら、なぜエリヤをおいていったのだろう。

 でも、それも当然かも知れない、という否定が心の中に浮かぶ。

 エリヤは何も話していないのだ。


 もしグレイブに『自分は似た銃を造れる技師の端くれだ』と教えていたなら、対応も違っていただろう。ほんの少し、馴染みのない武器に驚いただけで、普通の女の子よりは胆力もあるんだと判断してもらえたかもしれない。

 けれどグレイブの中では、エリヤは銃撃戦で泣き出す記憶喪失の子供なのだ。銃を持って戦えるわけじゃないエリヤを連れて歩くのは、あんな風に狙撃される可能性のあるグレイブにとって、足手まといにしかならないだろう。


 そう思うとなんだか気力が萎えてしまった。

 走る気持ちが失せ、エリヤはその場に立ち止まる。


 帰ろうか、と思った。

 正直に未来から来たと言えない以上、グレイブはエリヤを連れて行ってはくれないだろう。

 けれどいえない。

 言って、グレイブにまで見捨てられたらと思うと、怖くて言えないのは……やっぱり利己的なのかもしれない。


 しばらくそのままうつむいていたエリヤは、もうグレイブは先へ歩いて行ってしまっただろうと思った。顔を上げて、グレイブの姿が見あたらなかったら帰ろうと決める。

 息をすって、えいと頭を上げた。

 そのまま息が止まりそうになった。


「なぜついてきた?」

 目の前にグレイブがいた。いつもの無表情ではないかわりに、柳眉がつり上がった険しい表情をしている。エリヤは、怖さに思わず一歩引いてしまった。


「あ、あの。なんであたしが追ってきたってわかったの?」

「追いかけてきた事にはすぐ気付いた。待ち構えて説得するべきかと考えていたが……」

 グレイブはふっと小さく息を吐く。


「道の真ん中で隙だらけの様子で立ち止まるな。また拐かされても知らんぞ?」

 続けて「帰れ」と言われて、エリヤは急いで主張した。


「だ、だって協力するって言ったから!」

「協力しないと放り出されると思ったのか? 安心しろ、そこまで無体なことはしない。保護した人間を危険に晒すような真似をさせた俺が悪かったんだ」

「違うの、あの」

 本当のことは言えない。代わりに言えるのは自分の気持ちだけだ。


「恩返しがしたいんです! だから連れて行って下さい!」

 思いがけず大きな声で言ってしまい、エリヤは恥ずかしくなって視線だけで辺りを見回す。大通から外れた路地には、折良く誰もいなかった。

 ほっとしたところで、グレイブが尋ねてくる。


「恐くはないのか?」

 ここで躊躇してはいけない、と思った。エリヤがすかさずうなずくと、グレイブはいつもの無表情に戻って告げた。


「ならば連れて行きたいところがある」

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