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6章 君が眠る間に 1

 刻一刻と、空は黒く染まっていく。


 度々起こる魔術を使っての事件に怯え、人々は煉瓦に囲まれた夜道には出てこない。

 ひっそりと建物の中で息をひそめ、不安を忘れるために眠りにつく。

 そんな中、グレイブは再び鉄の街へ向かって歩いていた。


「……副長官」

 黒緋のコートを翻して歩くグレイブに、隣にいた壮年の公安官が囁き声で注意を促してくる。

 グレイブは黙したままうなずいた。


 視線を走らせても、暗い路地には人影は見えず、誰かが放置した空き瓶が風に押されてころがっていくだけだ。

 けれども彼の感覚には、自分の部下以外の存在がひっかかっていた。


 視線を感じて上を見上げる。

 煉瓦の一階部に木造の二階部を建て増しした住宅。その屋根で光がひらめいた。

 とっさに飛び退ったその場所に、紅の炎が襲いかかる。

 石畳を焦がす様子を見もせず、グレイブは持っていた銃を構えた。


 白銀の装飾が銃身に絡む銃。

 エリヤの銃だ。

 引き金を引く。その瞬間飛び出したのは、


『うひゃはひゃはひゃは』

『ハーッハーッハー!』

『きゃははははは!』

 金色の輝きと共に、無数の『向日葵』が大口を開けて笑いながら銃身から伸びていく。


「うわっ!」

 屋根の上から叫び声が上がり、再び炎が吹き出す。


 が、幻影のような向日葵は消えることなく伸び上がる。

 人影がそれを避けるように立ち上がり――そのまま屋根から転がり落ちた。


「か、確保!!」

 路地などあちこちに隠れていた優秀な部下達が、屋根から落下した人物を捕縛しに駆け寄る。


 それを、さすがのグレイブも呆然として見つめてしまった。

 二十三年の人生で、こんな酔狂な魔術など見たことがない。敵と同じように炎でも吹き出すのかと思っていたグレイブも、さすがに斜め上な状況についていけずにいた。


「副長官、そ、それは?」

 グレイブと一緒に炎を避けた公安官が、恐る恐るといった風に尋ねてくる。


「偶然入手したものなのだが、似た代物を持ってることで敵の動揺を誘うつもりだったのだが……」

 飛び出してきたのは、動揺どころか、味方まで呆れさせる代物だった。


 尋ねた公安官も笑うべきか驚くべきかわからないような表情のまま固まっている。この突飛な事象にもめげずに犯人確保に動いた部下達は、賞賛されるべきだろう。

 給料を上げてやらねば。


 そう考えながらグレイブは手に持った銃を見つめる。

 殺傷能力の欠片もない魔法が飛び出す銃。ある意味、銃声に怯えて泣き出す持ち主らしい代物だ。

 ただこれでは逆に、彼女が『何者かに脅されて』作らされていたとは到底思えなくなってしまった。


「本人が自分の意志で作ったのか……?」

 だから倒れていた時も、大切に抱きしめるように持っていたのではないだろうか。

 確かめねばならない。が、それは後だ。


「犯人確保しました!」

 黒緋の外套を纏った部下三人が、グレイブに報告してくる。


 一体自分を狙ったのは何者なのか。

 部下達に歩み寄ったグレイブは、取り押さえられて足を押さえて呻く犯人の姿に、眉を動かす。

 裾のすり切れた服を何重にも着込んだ少年だった。その着込み具合は、おそらく外で寝起きするため防寒着としているからだろう。

 大通りと違い、ガス灯の光が届かない暗い路地では、少年の髪の色は暗色にしか見えない。


「いてぇ~! いてえよぉぉ」

 足を押さえているのは、落下の時に痛めたのだろう。


「聞きたい事を全て吐けば、治療の手配をしてやる」

 一言告げると、少年は泣きそうな表情のままグレイブを見上げ、


「あ、悪魔……」

 と呟いて目を見開く。

 グレイブの評判を聞き知っている者のようだ。これだけ怯えていれば、素直に吐くだろうとグレイブはさらに促す。


「さぁ、吐け」

「あ、あああの、頼まれたんだ、かかか金、金やるからって!」

 どもりながら少年はしゃべり出した。


「あんたを脅かすだけでいいって。普通の銃だと思ったから、だから……」

 グレイブは心の中でなるほどと思った。

 確かに銃の軌道自体は、グレイブの立っていた場所からかなりずれていた。だからグレイブも、横にいた公安官もあっさりと避けられたのだ。


「お前に依頼したのは何者だ? 特徴を述べろ」

「くく、黒い服着てて、フード被ってて顔はよくわかんなかった。怪しかったけど、金さえくれればそれで良かったから……」

 もっと覚えていることを言えと睨めば、少年は震える声で付け足す。


「あまり背が高くなかった。男で、真っ白な手袋してた」

「そうか」

 グレイブは一つうなずく。


「殺意が無かったことは認めよう。治療はする。だが牢入りだ」

 グレイブが決定を伝えると、少年はひっと息を飲む。


「連れて行け」

 短い指示に従い、部下達は少年を抱えるようにして連れて行く。


「一応取り調べはしますが、張本人ではないようですね……」

 壮年の公安官は、少年から取り上げていた魔術をはき出す銃を見つめながら、ふぅとため息をついた。


「それは俺が預かっておく。あの少年の治療が終わったら、とりあえず牢に入れたら、今日は解散していい。ご苦労だった。明日になってから尋問しておくように」

「承知致しました」

 壮年の公安官はグレイブに銃を渡すと、先に行ってしまった他の部下達を追いかけて歩いていく。


 入れ替わりに、今まで別行動をしていたジェイスが歩いてきた。

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