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4章 貴方の捜査に協力します 6

 渡されたエリヤは、いそいそと銃を手に取って壁に向かって構えてみる。

 一〇〇年前の銃はさすがに重さが違った。鉛の弾を火薬で飛ばすために頑丈に作られているためか、ずっしりと腕に重みがかかる。


 けれどこの重さも安心感があった。

 久しぶりに持った銃に心浮き立ったエリヤは、両手の平の上に置いてみて、その重さをしみじみ確認していたが、ふと視線を感じて振り返る。


 店主があっけにとられた様子でエリヤを見ていた。

 エリヤははっと我に返る。

 しまった。

 何か一〇〇年前の世界では異質なことでもしてしまっただろうか。


「お嬢様は銃に慣れておられるんですねぇ」

 店主はエリヤの構え方を見て、驚いたようだ。


 確かにエリヤのような少女が、そうそう拳銃を撃つことなどないのだろう。エリヤの時代でも、銃技師になるため学校に行かなければ、そうそう銃など手に持つ機会はないはずだ。

 驚かせたのはそっちの理由か、とエリヤは内心胸をなで下ろした。


「親の方針で習わせていたらしい」

 グレイブもそれとなくフォローしてくれる。


「そ、そそ、そうなんです。だけどこの間、愛用してたものを川に落として無くしちゃって」

 実際はグレイブが預かっているわけだが、犯人の持つ者と同型の未来の銃だったため、返してもらえる宛はない。無くしたも同然の状態だ。

 取り繕うと、店主は笑ってうなずいてくれた。


「最近は護身用にお持ちになるご婦人が多いんですよ」

 そのまま店主は銃を一つ一つ説明してくれる。

 昔の銃など触れる機会があまりなかったエリヤは、興味を引かれて熱心に聞き入ってしまった。

 そしてつい、銃身の中を覗いてみたいと言ってしまい、慌てて誤魔化した。


「あ、その。いつも銃の手入れは家の者がしてくれるので、一度きちんと見て見たいなと。おほほほほほ」

「お嬢様でしたら当然のことでしょう。ただいま職人を呼びますので、宜しければ組み立てる前の状態をご覧にいれましょう」

 店主は気を悪くした風もなく、席を立って再び奥へ引っ込んだ。


「お前は銃の組み立て作業でもさせられていたのか?」

 グレイブがぼそりと尋ねてくる。


「なんか、思い出せそうな気がして……」

 エリヤは曖昧ににごす。とりあえず記憶を掘り起こせる可能性があるものについては、グレイブは反対しないことはわかっている。だから今この機会に、昔の銃というものをじっくり見ておきたかった。


(この件が無事に終わった後じゃ、銃に関われるかどうかわからないもんね)

 なにせグレイブの頭の中では、エリヤは銃に関わる場所から逃げ出してきたあげく、恐怖で記憶をなくしたことになっているのだ。就職先を斡旋するにしろ、後見人を見つけてくれるにしろ、銃とは関わらない場所や人を選ぶに違いない。


 ややあって、店主が戻ってきた。

 一緒にいくつか部品を持った赤毛の青年もいる。手に火傷の痕や黒い煤がついているところから、青年は職人だと一目でわかった。

 ただ一見すると、とても職人をやってそうには見えない人だ。むしろ裏町で徒党を組んでカツアゲしていそうな雰囲気がある。耳に何個も付けた金のリングピアスのせいかもしれない。


 ふとそのピアスに既視感をおぼえる。

 じっと見つめてしまったので、青年も視線に気付いたようだ。呆れるような笑みがうっすらと浮かんだのを見て、エリヤは失礼なことをしたと恥ずかしくなってうつむいた。


「こちらうちの職人でローグと言います。さ、お嬢さんに見せてやれ」

 金ピアスの青年ローグは、さっそくテーブルの上に部品をいくつか拡げてみせる。


「ご覧になりたいのは銃身で?」

 尋ねられてエリヤはうなずく。


「どうなってるのか、一度見たいなと思って」

 さきほどぱっと見たところ、やはりエリヤが扱っていた魔術銃とは違うようだった。それに店主がしきりに「うちの銃は精度が高いことが自慢なんですよ、お嬢さん」と言っていたのだ。


 確かに鉛玉をまっすぐ飛ばすのは難しそうだ。魔術銃も直線に飛ぶようにとか、拡散させるなどの術式を組み込んでしまうのだが、昔の銃の場合はどうしているのかと興味を引かれたのだ。


「これが以前作っていた型の銃身。内部の旋条を見てください」

 ややぞんざいな言い方ながらも、ローグは丁寧な言葉でエリヤに部品を一つ渡す。

 筒状の部品の先を、シャンデリアの明かりに向けてのぞき込むと、内部に刻まれた浅い溝が見えた。


「この溝で弾に回転をつけることで、弾が安定して真っ直ぐ飛ぶ。そして今渡したのが、他の工房でも作られてる一般的な施条の銃身です。で、こっちがうちの工房のです」

 丁寧な言葉遣いが慣れていないのか、ローグの言葉がだんだんとくずれてくる。が、次に渡された筒状の銃身を覗くと、そんなことはどうでもよくなった。

 施条の溝こそそれほど多くはないが、溝がそれぞれ深さが違う。


「これをローグが開発したおかげで、うちの銃の精度は飛躍的にあがりました。発射時の反動さえ上手く流すことができれば、あとは持ち主の目次第、というほどです」


「すごいですねぇ」

 と言いながらエリヤは銃身の中から目を離そうとして、ふと違和感をおぼえる。

 螺旋の溝に、何か見覚えがある気がしたのだ。が、続いて店主に尋ねられた瞬間、その違和感は霧散してしまった。


「いかがです?」

 とたずねられたものの、エリヤは銃を買いに来たわけではない。

 困ってグレイブに視線を向けると、


「そうだな、今のをもらおうか」

 意外なことに買うという。

 もちろん店主は大喜びだ。綺麗な布貼りの箱に入れ、渡してくれる。


 グレイブはその箱をあっさりエリヤに渡すと、請求先を告げて素っ気なく立ち去った。

 けれど店主もそういったグレイブの対応には慣れていたのだろう。気を悪くした風もなく、自分も立ち上がって見送ってくれた。

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