4章 貴方の捜査に協力します 4
馬車や人が行き来する往来へ出たエリヤは、グレイブを追いかける。
今日から早速、捜査協力をするのだ。
エリヤは少し先で立ち止まっていてくれたグレイブの元へ歩きながら、ふと疑問に思う。
なぜフィーンとルヴェはグレイブと一緒に住んでいるのだろう。
足早なグレイブに半歩遅れつつ歩きながら、エリヤは試しに尋ねてみた。
「親戚なんですか?」
するとグレイブは、案外あっさりと答えてくれる。
「いや、訳あって預かった。いつまでかは分からんが同居する相手のことだ、知っておいた方がいいだろう」
そしてグレイブは歩く速度を緩め、行き交う人の波から外れた小道に入ると、とつとつと語ってくれた。
ルヴェは多少なりと魔力を持っているらしい。しかし自覚なく暴走させそうになった所にグレイブが居合わせたという。
「幸いすぐに収まったものの、本来ならば監獄離宮に幽閉するべきだった。一度暴走させた経験をもつ人間は、再度同じことを繰り返す可能性が高いからな」
「そうなんですか……」
エリヤの暮らしていた100年後の世界には、監獄離宮のようなものはない。
魔力を暴走させやすい人には、それを抑える術式を刻んだ物を身につけさせるからだ。
これは魔術式が確立して、わりと早い段階で整えられた制度だ。これがないと、確かに他の人を巻き込んで惨事を引き起こす可能性が高いからだ。
しかしそういった物が知られていない時代ならば、確かに一カ所に押し込めるしかなかったのだろう。
当時監獄離宮は、その土地の特性なのか、魔力の発動を抑える唯一の場所として、知られていたらしいから。
「しかし家族がいるのならば、引き離すのも逆に本人の精神安定を崩し、再び魔力が暴走しやすくなると判断した。それにルヴェはある程度自分の力を制御できる。だから監視で留めることにした」
そこで、監視がてら同居することにしたらしい。
これだと、何かあればグレイブの家だけで被害は収まる。そして二度目が起きたなら、ルヴェもフィーンもアヴィセント・コートへ隔離されることについて諦めるだろうとも。
「ついでに家の維持も任せている」
恩ゆえに、弟思いのフィーンがグレイブを裏切ることはない。だから安心して家を任せられるのだと話してくれた。
エリヤは意外だ、と思った。
グレイブが『将来やるだろうこと』から想像するに、魔力を持つとわかった時点でルヴェなどその場で抹殺か、アヴィセント・コートに閉じ込めるだろうと思っていたのだ。
(やっぱり、魔力を持つ人を無差別に虐殺する人のようには思えないんだけど……)
なぜ彼が虐殺に走らねばならなかったのか、腑に落ちない。
何か切っ掛けがあるはずだ。
幸いにも、銃のおかげでエリヤは彼の捜査にくっついていくことができる。捜査協力しながら、エリヤは『きっかけ』を見逃さないようにと奮起した。
それはグレイブのためであり、今後のエリヤの平穏な生活のためでもあるのだ。
「今日はどこへ?」
他人に聞かせたくない話が終わったからと、再び大きな通りへ戻っていくグレイブに訪ねる。
「銃製造技師がいる場所。鉄の街だ」
返ってきたのは、当然と言えば当然な場所の名だった。