4章 貴方の捜査に協力します 3
翌日、エリヤはフィーンに用意してもらった朝食を前に、謝った。
「あの、手伝えなくてすみません、フィーンさん」
夜中までいろいろと思い悩んで寝付けなかったエリヤは、朝早く起きれず、フィーンに手伝えなかったことを謝った。
エリヤはこの家に善意で置いて貰っているだけで、お客ではないのだ。
手伝うのが筋だろうと思ったのだが、
「昨日の今日じゃないか。自分のこともよく分からないんじゃ不安だっただろう? 気にしないで二・三日はお客様扱いされてて。お手伝いとか気にするのは、落ち着いてからでいいよ」
ほわんとするような柔らかな笑みと共にそう言われ、エリヤはフィーンの優しさにときめいてしまった。
「そうそう。そもそも姉さんは料理とか作るの好きだから、こういう店やってんだし」
笑いながらラメルを食べるルヴェの頭を、すかさずフィーンがはたく。
「いたっ」
「お前はお客じゃないんだから手伝いなさい。そもそも、先週から口を酸っぱくして注意してた部屋の掃除は済んだのかい?」
フィーンに小言を言われ、ラメルを急いで食べ終えたルヴェは、脱兎のごとく逃げ出した。
「あ、あの私、出勤してくる!」
バタバタという淑女らしくない足音に続いて、バタンと扉の閉まる音。
あっという間にいなくなったルヴェの皿を片付けながら、フィーンがため息をついていた。
「あれ、ルヴェさんて外でお仕事してるんですか?」
尋ねると、フィーンがうなずいてくれる。
「女の子の格好のままでも出来るからって、ウェイトレスの仕事をしてるんだ」
やっぱりこの時代、十六歳ぐらいなら仕事をしなくてはならないようだ。
エリヤはそのうち職を探そうと考えつつ、食事を終えた。
「では行くぞ」
先に食べ終え、珈琲に口を付けていたグレイブがそう言って立ち上がる。
エリヤも、ルヴェに『外へ出る時は絶対必要!』と言われていた帽子を手に立ち上がる。
「あ、そういえば後片付け……」
「いいんだよ。早く身元をみつける方が先だ。気にしないで」
片付けをどうしようと言う前に、フィーンはエリヤの皿をカウンターの向うへ取り上げてしまった。
そしてエリヤが被ったベルベットの黒い帽子の位置を、そっと直してくれる。
「ルヴェはあれでもセンスがあるからね。この帽子、エリヤによく似合っているよ」
確かにルヴェが揃えてくれた黒い帽子は、白いレースのリボンに淡紅色の八重咲きの造花が飾ってあって、とても綺麗だった。
そんな帽子が似合っていると言われ、エリヤは思わず赤面してしまいそうになる。
「気を付けて行くんだよ」
柔らかく微笑んで見送ってくれるフィーンに、エリヤはときめく。
そして『フィーンが女の人じゃなかったら恋しそう』としみじみ思ったのだった。