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3章 貴方のお名前教えてください 9

 口数の少ない彼のことだ。もしかしたら、そういう職業斡旋所へでも連れて行こうとしているのかもしれない。

 そう思ったエリヤだったが、公安官庁を出て、それほど離れていない路地裏でグレイブが足を止めたため、首をかしげた。

 まっすぐに自分を見る視線から、何か話があることを察してそれを待つ。

 するとグレイブはゆったりとした動作で、コートの内側から一丁の銃を取り出した。

 ――まさか撃たれるのか?

 そう思ったエリヤだったが、白地に金の装飾過剰な銃を見て思わず叫んでしまった。

「あっ!」

 なくしたと思っていた形見の銃だ。

 何故グレイブが持っているのだろう。まさか倒れたエリヤを見つけた時、取り上げられたのか。そうに違いない。

「この銃のことは覚えて居るのか?」

 グレイブの声に冷たく鋭い響きを感じ、エリヤは背筋が凍るような思いをする。

 そうだった。

 エリヤは記憶喪失だとグレイブ達は思っているはずなのだ。

 なのに銃を持っていたことを覚えていたことで、嘘だと気づかれただろうか。そうしたら、公安官のグレイブに「牢屋行き」にされるのだろうか。怯えながら、エリヤは今さらながらに誤魔化す。

「あの、うっすらと……大事に持っていたことは」

「ならば銃にお前は関係が深いのだろうな。他の銃も見ていけば、もしかするとお前の記憶も戻る可能性はある」

「そうですか……ね?」

 なにせ本当の記憶喪失ではないのだ。

「そのついでに協力をしてもらおう」

 グレイブはこれと似た銃の製造者を捜しているという。

「おそらくこれは特殊な銃だ。魔法を撃ち出すための細工や機関、そして魔術が施されている……非常に危険な物なので製造の差し止めと生産者を逮捕する必要がある。お前の記憶が戻れば、製造場所や製造者について有力な情報が得られるはずだ」

 エリヤは手にまで冷や汗がにじみ出す。

 父の形見と同じ銃。それすなわち、一〇〇年後と同じ技術が使われた代物ということだ。

 ――エリヤ以外にも、過去世界へ来ている人間がいるのか?

 そうは思ったが、探しようもない。

 けれど銃が見つかってしまった以上、グレイブはきっとエリヤの記憶を取り戻す努力を続けるだろう。犯罪者を逮捕するために。

「俺はこの銃の製造者を突き止め、王都の平和のため排除しなければならない。その協力をするならば、お前がしかるべき後見人を得るまで面倒をみよう」

 続いた言葉に、エリヤは目を見開く。

 協力をすればその間グレイブがエリヤの生活について面倒をみてくれるということだ。右も左もわからない時代に滑り落ちた今、彼に保護してもらうのが今は望ましい感じがする。

 それにグレイブには、既に一宿一飯の恩義がある。

 普通の火薬式銃しか存在しないはずの時代に魔法銃が犯罪に使われたならば、確かに市民生活も脅かされていることだろう。彼に協力して悪いことはない。

 あと心配なのは『記憶喪失が嘘』だと彼にばれないようにすることだけだ。

「わ、わかりました」

 うなずくと、グレイブがほっとした表情に変わる。

 そうして穏やかな顔をしていると、グレイブは思ったよりも優しげに見えて、エリヤは思わず注視してしまった。

「では、今日からこのグレイブ・ディーエがお前の後見人だ」

 ――グレイブ・ディーエ?

 グレイブから差し出された手を握り返しながら、エリヤは頭の中でもやもやとしていたものがかみ合った音を聞いた。

 魔法と銃。

 そのキーワードが、グレイブの名と副長官という役職に感じた違和感と組み合わさり、エリヤに重要なことを思い出させる。

 グレイブ名を、別な場所で見たことがあった事、を。

(そうだ、あの人も確か100年前に生きてた人……)

 エリヤの頭の中では、あらゆる書物に定型句のように記された一文が蘇っていた。


 ――それこそが後の世で悪鬼と呼ばれ、忠誠を捧げた主ヴィオレント王の手により処刑された公安副長官グレイブ・ディーエであった。


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