3.寄り添う手
千早はオフィスのソファに座り、肩を落としていた。
「自分、もうダメだと思いました」
その声は、震えていた。
目は伏せたままで、全身から力が抜けている。
桜は隣に座る。静かに、何も急かさず、ただ存在す
る。
「無理もないよ」
そうだけ言った。言葉は少ない。
でも、千早の胸に少しずつ届く。
千早はゆっくり息を吐いた。
「患者さんに.....迷惑をかけてしまうのが怖くて」
「自分以外には、この人を支えられる人はいない気がして」
桜は頷く。
"それは、私も昔そうだった”と思いながら。
「千早ちゃん、覚えてる?」
「私が新人の頃、あの男性にどう向き合ったか」
「私は焦って、全部背負おうとした」
千早が顔を上げる。
「それで.......どうなったんですか」
「失敗もあったし、怖くて泣いたこともあった」
「でもね、誰かに頼っていいことを学んだ」
桜の手が、千早の手に軽く触れる。
「支援は一人でやるものじゃない。チームで、仲間で、患者さんで」
千早は小さく息を吸う。
「.....私は、ひとりで抱えすぎていました」
「大丈夫。今からでも遅くない」
桜の声は柔らかく、揺れずに、千早の中に染みていく。
翌日、千早はチームカンファレンスに参加した。
以前なら、自分一人で解決しなければ、と焦っていた。
でも今日は違う。
「今回の対応、私もサポートを受けながらやります」
その一言は、小さくても確かな言だった。
周囲も頷き、温かい目で見守る。
千早は、初めて少し肩の力を抜いて、患者と向き合うことができた。
患者も、安心して自分の気持ちを話す。
夜、オフィスで二人きり。
「天瀬さん......ありがとうございます」
千早の声には、少し笑みも混ざっていた。
「一人じゃないって、分かるだけで、少し楽になれました」
桜は微笑む。
「支援者も、支えられるんだよ」
揺れながら歩んだ二人の時間は、静かに再生の光を帯びていた。
外の風は、穏やかに吹いている。
再生とは、完全に立ち直ることではない。
迷いながらも、支え合える関係を作ること。
倒れても、手を取り合い、また歩き出せること。
千早は少し深呼吸をし、目を前に向けた。
桜も、同じように息を整える。
今日も、歩き続けるため。




