表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界線のワーカー  作者: くろねこ
第1章「桜」
2/10

2.予定外

退院まで、あと三日だった。

グループホームの入所も決まり、生活保護の申請書類もそろった。天瀬桜は、ようやく胸をなで下ろしていた。

「順調だね」

先輩の一言に、少しだけ誇らしくなる。

――うまくいくかもしれない。


そう思った、その日の夕方だった。

病棟から内線が入る。

「天瀬さん、○○さんがちょっと興奮していて……来てもらえますか」

桜が病室に駆けつけると、空気が張り詰めていた。

男性は立ち上がり、顔を紅潮させている。

「やっぱり俺を追い出すんだろ!」

机の上には、退院支援の説明資料がぐしゃぐしゃに丸められていた。

「違います、退院は――」

「退院ってのは、いらないってことだ!」

看護師が一歩近づくと、男性は壁を強く叩いた。

桜の頭が真っ白になる。

教科書に“興奮時の対応”は載っていた。落ち着いた声で、刺激しないように、安心を伝える。

でも、目の前の怒りは、紙の上とは違う。


そのとき、男性が叫んだ。

「ここにいれば、飯もある。部屋もある。外に出たら、また一人だ!」

その言葉に、桜は息をのむ。

退院は希望だと思っていた。社会に戻ることは前進だと。

でも、この人にとっては――

“守られた場所から追い出されること”なのかもしれない。


結局その日は保護室対応となった。

廊下で、桜は動けなくなる。 

「私の説明が足りなかったんでしょうか」

先輩は首を振る。

「退院が怖くなるのは少なくない」

「でも、順調に見えていたのに…」 

「それは、"順調に見えていた"だけ」

その言葉が重くのしかかる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ