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テーセウスは誰か

 イザベラの運転する車に乗って一旦保安局に戻り、そこから別行動となった。地図と移動手段になりそうなものを借りたいと申し出るとミニバイクの鍵を渡された。入国して免許の手続きをしていたのが幸いだった。

 地図を片手に保安局を飛び出す。オレンジの空が段々と夜の色に塗り変わりつつあった。日が落ちてくるとぐっと気温が下がってくる。上着を持ってくればよかったなどと後悔しながら町を走る。

 ダニーがいる場所は町の西側だ。牧場が多い地帯で生け贄の確保にはさして困らない場所である。自然ハンドルを握る手が力んだ。

 大きな牛舎が建ち並ぶ辺りに入る。牛舎の近くに光るものを見つけた。それはピンだった。牛舎を囲むように等間隔に刺さっている。地面に焼き印のような文字が見えた事から恐らく簡易の結界だろう。こちらの連絡を受けてからダニーが急いで仕込んだと思われる。

 生け贄となりうる者をなるべく減らそうという事だろう。そうする事で向こうの動きをある程度読めるようになるはずだ。

 ふと空を見上げると何かから逃げるように鳥が慌ただしく飛んでいた。ざわりと予感めいたものが首筋を撫でた。

 次の瞬間銃声が轟いた。音を辿ってバイクを走らせると放牧地に出る。そこには黒い靄が外套を靡かせていた。獣の頭骨が穴から靄を漏らして揺らめいている。

 保安官達がエンチャントされた弾を撃ち込み、ダニーは発光するナイフを空から掴んでは投げていた。

 靄は前のように縄のように細長くなり、弾やナイフを避ける。多数飛んで来る弾とナイフを避け切れず所々切れてはいたが、千切れた先からすぐにくっついていく。空中を蛇のように動き空を泳いだ。

 ミニバイクのスピードを上げながら発光するショットガンを呼び出す。草を運ぶための荷台をジャンプ台代わりにし、柵を飛び越える。

 バイクが問題なく着地し、銃口を靄へと向ける。ショットガンがけたたましい音を鳴らした。四方に飛び散る退魔の散弾が靄で出来た縄を細切れにする。

「遅いぞ! ヒーロー!」

 ダニーの軽口に呆れながらも、ブレーキを半端に掛けてミニバイクを乗り捨てる。

 靄の縄は次第に短くなってきていた。撃たれたり切られたりしても千切れてはくっついているが、切れた箇所は浄化されているのだろう。靄の縄も次第に細くなってきている。

「とにかく撃ちまくれ!」

 ダニーが叫ぶと銃声が銃撃戦のように鳴り響いた。靄は縄から次第に糸のように細くなりつつあった。靄が細く伸びるにつれ弾もナイフも当たりづらくなってくる。

 だが一気に浄化出来そうな魔術はダニーも使えないのだろう。ひたすらにナイフを呼び出していた。

 靄は細い体を風に靡かせるよいにして解れるようにして千切れた。

 ダニーは辺りを見渡し、保安官達に注意を促す。しんと静まり返った辺りに皆体を強張らせていた。

 大地に転がっている獣の頭骨を見つけ近寄る。蹴り転がしてみるが中から靄が飛び出すような事はなかった。

 ふと地面に何かが落ちているのに気付く。黒いシルエットをしたそれは悪魔ではない。確かに実体があった。

 蝙蝠だ。空が暗くなり活動する時間になったのだろう。それが数匹落ちていた。見れば小さな体に銃弾が刺さっていた。先程の銃撃戦に巻き込まれてしまったのだろう。

 そこまで気付いて辺りを見回した。

「ダニー! 蝙蝠だ!」

「蝙蝠?!」

 ダニーは空を見上げた。

「そうじゃない、死んだ蝙蝠だ! さっきばら蒔いた弾が蝙蝠を撃ち落としてる!」

 言葉の意味がわかったのだろう。ダニーは保安官達に蝙蝠の死体を探すよう呼び掛けた。

「あれを!」

 保安官の一人が叫び、ダニーがナイフを投げた。ナイフは回転しながら空を切り、蝙蝠の死体を内包した靄を裂いた。

 ぼたぼたと濡れた音をさせながら靄の中から蝙蝠の頭が落ちた。

「やられた……ッ!」

 舌打ちする。蝙蝠の頭が転がった大地に血の円陣が印されていた。

 靄は滑るように空を飛び、先程蹴り転がした頭骨と黒い外套を掠め取るように拾うと空高くに飛んでいった。

「ダニー! 行くぞ!」

「わかってる!」

 乗り捨てたミニバイクを起こし、ダニーは保安官と共に車に乗り込んだ。

 大地が一瞬揺れた。ぞわりと得たいの知れない不快感が背中を撫でる。

『こちらイザベラ! なんかヤバい雰囲気だよ!』

「残念ながらそりゃ雰囲気じゃすまねーぞ! すぐ行くから着くまで持ちこたえろ!」

 ダニーの言葉にイザベラが神に嘆いた。

 空が夜の色から赤黒く染まりつつあった。

 バイクが揺れ、ハンドルを握り直す。舗装された道のはずが泥道のように妙なぬかるみを感じた。乾燥した大地に力強く伸びた草が萎れ、大地にひび割れが走っている。

「本当に悪魔を喚んでるだけなんだろうな?! 魔界ごととかシャレになんねーぞ?!」

「魔界ごと喚ぶには生け贄が足りないだろう。恐らく瘴気が漏れてるか何かで影響を受けてるといったところだな」

 ダニーは助手席の窓から腕を出して大袈裟に嘆いた。

「瘴気だぁ?! 大丈夫なのかよ?!」

「大丈夫じゃない。有害だからな。エクソシストである俺達はまだ耐性があるが他はそうはいかない」

 エンチャントした武器を持つ保安官達も少しは恩恵を受けるだろうが長時間は持たないはずである。

「つまりとっととお帰りいかないとヤバイってこったな」

「だから急いでる」

 ダニーは天を仰ぐように天井を見て、手で目を覆った。

「旅行がてらさくっと仕事を片付けようと思ってた過去の俺を今すぐ殴りたい」

 心底恨めしい声であった。


 円陣の中心地となる場所はエレメンタリースクールだ。恐らくそこの校庭に守護円陣を展開しているはずだ。

 校舎が近付いてくると、校庭があるであろう場所に黒い獣が見えた。発光する壁がなんとか悪魔が飛び出すのを抑えているようだ。

「魔界の扉が開いちゃってるよォ……開くのは美人なネーチャンの脚だけでいいっつの」

 酷い台詞を聞いた保安官が咳払いする。身の危険を感じると生殖本能が強くなるらしいが果たして。

「つっこめよ!」

「なんだ、ジャパン西部の人間のような台詞だな」

「重い空気を和らげようとしてんじゃないの! 俺様の優しさに乗っかれよ?!」

 そうだったのか、と感心すると溜め息を漏らされた。

「冗談の通じないヤツだ」

「よく言われる」

「だろうよ」

 ダニーは肩を竦めた。

「お前、なかなかハードな武器なんだな」

 唐突な言葉だったが、ずしりとくる何かがあった。実際は他意のない言葉なのかもしれない。この事を気にしているのは他ならぬ自分だ。

「団体戦には向かない武器だろ」

 エクソシストの武器は同族に対し攻撃力が落ちる。だが、意思をもって攻撃すれば痛みは確かにある。混戦時に自分の武器は仲間の邪魔をしかねない。ゆえに集団戦は苦手だった。

「悪魔をぶっ飛ばすには丁度いいさ」

 ダニーは笑う。その笑顔が日本にいる友人の笑顔を思い出させた。

「そうだな」

 結界の中で吼える黒い獣達にはおあつらえ向けだ。

 エレメンタリースクールに着き、ダニーの乗った車が止まるのを横目に校庭までバイクを走らせる。

 銃声が鳴り響いていた。エンチャントした弾をとにかく撃ちまくる保安官達に悪魔は見えていないのかもしれないが、結界の中はもはや悪魔で溢れ狙わなくとも当たるような状況だ。

 イザベラもひたすらに発砲している。

「加勢する」

 ショットガンを構えて引き金を引けば結界をすり抜けて退魔の散弾が悪魔を撃ち抜く。

 保安官達と共にダニーも合流し、銃声に負けない声を上げる。

「あの中から術者を探さないといけないわけだが」

「あの中からって……結界の中かい?」

 イザベラの問いに肯定するとダニーが信じられないと吐き捨てた。

「術者をやらないと延々わき続ける」

「そもそも見つかるのか?」

「さあな」

 森の中から枝を見つけるようなものだ。そう言おうとした時だった。

 結界の障壁を叩く音が響いた。それは建物でいえば二階程はありそうな一際大きな悪魔であった。

 獣の頭骨を仮面のように被った、二足で立つ怪物。両の手で人一人はありそうな大きな刃がついた斧を持っている。荒い鼻息をする度黒い靄が吐息のように漏れていた。

「ミノタウロスか?」

「やめてくれよ。あれって確か女を贄にしてるんだろ?」

「いや明らかミノタウロスじゃねーから! だからと言って分別も出来ないけど、んな事どうでもいいわ! 今考える事じゃねーからッ!」

 ダニーが捲し立てて一際大きな悪魔を睨み付ける。

「野郎乗っ取りやがったのか?」

「だろうな。なんにせよ好都合だ。さっきよりはデカイ的になる」

 イザベラとダニーが顔を見合わせた。

「なんだ」

「「いや、別に」」

 同時に言われた事に納得がいかないままショットガンを構えた。

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