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寄せ集めジャンキー・ドッグ

 受付嬢は書き込まれた書類を眺めて確かめるようにこちらを見た。

「久々にこの書類を見たわ」

 滞在証明書。予定している滞在期間と宿泊先と連絡先と自身の情報を示せばよかったはずだ。とそこまで思い出して鞄に着けたピンズを見せた。シンプルな十字がデザインされたそれは『教会』の隊員である事を示す。

 受付嬢は瞬きして笑った。

「貴方真面目ね」

 はあ、と要領を得ずに漏らすと彼女は言った。

「本部の人なんて休み少ないでしょう? 滞在証明書なんて出したらお呼びが掛かって休みが潰されちゃうわよ?」

 で、どうする? と微笑まれる。聞かなかった事にしてくれると言う事だろう。しかしそれに答えるよりも前に大きな声が割り込んできた。

「マリー! 誰か暇そうな奴いないか? 体力有り余ってそうな」

 現れたのは褐色の肌をした青年だった。こちらに近寄ってきて目が合う。思わず口を挟んだ。

「人手が足りないのか?」

 マリーと呼ばれた受付嬢は肩を竦めた。至極真面目ねとでもいいたげな雰囲気だ。

「あんた見ない顔だな。派遣かなんかか?」

「休暇で来た」

 彼はこちらの返答に目を丸くした。

「滞在証明? はぁー! 真面目だねぇ」

「人手が足りないなら手伝うが」

 青年はマリーの顔を見、目配せされた。いいのか? 本人がいうなら。そんな言葉のない会話。

「滞在期間は?」

「三ヶ月ある。正直無理矢理取らされたようなものだから呼び出されるぐらいで丁度いい」

「あんた若そうだけどその年でワーカーホリックか? いっそ同情するよ」

 青年はそう笑った。

「お客様が楽しめるクレイジーなツアーにご招待しようか。マリー、さっさと判を押しちまえ。あと派遣証明もな!」

 上機嫌に一旦デスクに戻ろうとして、彼は振り返る。

「俺はダニエル・ウィント。親しみを籠めてダニーって呼んでくれ」

 白い歯を見せて笑いかける姿に騒がしそうな奴だと思った。

「ロヴィッツ・アルカンシェイルだ。ロビンでいい」

「OKロビン。これから少しの間俺達は相棒だ。よろしく頼むぜ」

 拳を突きだして今度こそデスクに向かった後ろ姿を見送る。

「やっぱり真面目ね」

 マリーが呆れたように呟いた。


 ダニーはアメリカ本部に所属するエクソシストだ。基本は都市部にいるが地方から応援要請があれば駆け付ける司祭だ。呼び方こそ『教会』らしいが隊長クラスだと捉えてもらえればいい。

 ダニーが運転する車に乗り込み、数時間前いた空港に到着する。

 プロペラ機に乗り込み改めて派遣内容の書類に目を通した。

 アメリカ南西部にて中規模黒魔術使用の形跡あり。魔術に通ずる者求む。複数の戦闘が予測される為、討伐要員も欲しているとの事だった。

「魔術が使えるのか」

 ダニーに問い掛けると彼は半身をこちらに向けた。

「遠い親戚がそういうのに詳しいんでね。役立つかと思ってレクチャーしてもらってたら使えるようになったわけよ」

「レクチャーだけで使えるようになるなら楽なんだがな」

「何? 使えないの?」

 ダニーがきょとんとして言うものだから気分はよくない。

「魔術について知識はあるが俺には素質がない」

 人ならざる存在である悪魔が魔術を使うのはもちろん、魔術や呪術を使って他を害する人間もいるため『教会』本部ではカリキュラムに術式知識が組み込まれている。しかし他国に関してはその国次第である。アジア系は呪術が必須科目だと聞くし、魔術だけ学ぶ国もあればそもそも術式に関して学ばない国も珍しくはない。国柄に合わせているのだろう。

 話を戻す。

 本部が経営する施設で育った身である為、もちろん術式については学んだが、使えるかどうかは完全に素養次第だ。

 馴染みであるエクソシスト、フルフェイズ・フィックスのように中級悪魔並みに使える者もいれば、簡単な基礎術すら使えない者もいる。自分は後者だった。

「本部の人らは皆使えるもんだと思ってたぜ」

「司教辺りは使える者が大半だがな。保護した孤児を素養あるなしで分別するとでも?」

「ああ、イギリスにゃあでっかい育成施設があるんだっけか。言われてみりゃそうか」

 納得したのかダニーは乗り出し気味だった上体を落ち着けた。

「でもあんたの噂は耳にしてるぜ?」

「は?」

 ダニーが歯を見せて笑う。

「学生の頃にエクソシストの資格を得た孤高の少年って」

「なんだその薄ら寒い通り名は」

「本来チーム組んでやる試験を一人でパスしたんだろ? 若いうちに資格取ったのもあって有名だぜ、あんた」

 閉口する。本来なら数人で組んで行う模擬戦を一人で受け合格したのは事実だ。孤高の少年というのは皮肉だろう。

 誰とも組もうとせず力で捩じ伏せる若きエクソシスト。問題児であった過去はそう簡単には消えないという事だ。

「組まないわけじゃない。組んでやるのが難しいだけで」

 いや、これも言い訳に過ぎないか。一人自嘲する。

「難しい、ねえ」

「慣れてないというのも恥ずかしながら事実だ」

 解消しようとしている最中なので素直に認める。チームを作って戦うのは弱い者が戦うための口実だと決めつけて一人で躍起になっていた。今思い出すと恥ずかしい。日本にいる友人から言わせれば『厨二病』というやつを患っていたのだろう。

「ま、いいんじゃない? これから慣れりゃあさ」

 ダニーは軽く笑ってみせる。あまり深く突っ込まれると恥の上塗りにしかならないので心底助かった。

 数時間して目的の空港に到着した。

 手続きを済ませてエントランスを出るとライトブラウンの髪をウェーブさせた女性が待っていた。シャツにジーンズとラフでいて、しかしシルエットが浮き出る格好にダニーは口笛を吹いた。

「ダニエル・ウィントとロヴィッツ・アルカンシェイルだね?」

 そばかすが浮かんだ頬に乗った目はきりっとしており芯の強さを感じさせる。

「あたしはイザベラ。あたしの派遣先、サウジェントタウンに案内するよ」

 言葉少なに促して彼女が乗って来たらしいジープに乗り込む。ダニーはちゃっかり助手席に腰を落ち着けイザベラに笑いかけた。

「出迎えがこんなイカした女性とは嬉しいね。俺の事は愛を込めてダニーと呼んでくれ」

 イザベラは物言いたげにダニーを見つめた。

「話に聞いてた通りだね、ダニエル・ウィント。女を見ると軽い口が更に軽くなる」

「おや? 俺ってばそんな有名だったの?」

 イザベラはにやりと笑った。

「ノーウィッグ・ハイアウッドって名前を聞いたらピンと来るんじゃないかい?」

 ダニーの表情がみるみる内に引きつっていく。

「イザベラ……イザベラって聞いた事あるぞ? ……マジかよ!? ノックのエクソシストの妹ってキミか!」

 天井を仰ぐダニーに怪訝な目を向けながら問う。

「あんたら知り合いなのか」

 イザベラがバックミラー越しに視線を寄越した。

「あたしの兄が都市部で捜査官をしてるの。『教会』への事件の受け渡しとかを担当しててね。ダニーの事は兄から聞いてるよ」

「全然似てないな! いや野郎に似てても嬉しくないかもしれないけどよ」

 ダニーはまじまじとイザベラを見る。といっても視線はほぼ胸元に釘付けであったが。イザベラは呆れたように目を細めると右手に発光するリボルバーを呼び出してダニーの左腿を撃った。

「いでぇっ!! バッカ、足撃つやつがあるか!」

「エクソシストには大した効果はないよ」

「血は出ないけど痛みはあんだよ!! 恐ろしい女だな!?」

 騒がしくなってきた車内に溜め息を漏らしてヘッドフォンをつける。英国のロックバンドが女に振り向かれない男の哀愁を歌っていた。

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