第3話 せまる猿の将軍
わたしの大好きな先生が飛び降り自殺した、という。
絶対に先生はそんなことしない!
だってこんなに楽しそうに笑っていた人が、直後に自殺なんかするわけない。
わたしは、先生と撮影したAI動画をみながら涙を流す。
ふと気づくとスマホに見慣れない動画がある。
いやな予感がする。
わたしは迷いながらも、サムネイルをタップした。動画が再生される。
さっきより暗い屋上。
風の音がマイクを震わせて、はっきり聞こえない。
カムパネルラの姿をした先生のキャラクターと別のキャラクターが、カメラから遠い場所で何かを言い争っている。
相手は、サルの将軍のようなキャラクター。軍服を着て、金色の肩章が光っている。AIの変換だ。
ああ、宮沢賢治の短編童話「さるのこしかけ」に出てくるサルの将軍だ。サルが主人公をだまして胴上げして落とすお話だ。
えっ落とす…。鳥肌が立ち、背筋が凍った。
風の音にかき消されて、言葉は途切れ途切れ。何を言っているのかわからないが、なんとなく誰の声かはわかる。ひとつはさっきも聞いた先生の声。
もうひとつの声も聞き覚えがあった。その低い声は、わたしの耳に焼きついていた。
これは!これは教頭先生の声だ!
わたしは息をのんで、スマホを強く握りしめた。
画面の中で、猿の将軍がせまり、カムパネルラが後ずさりし、夜風が強くなる。
わたしは動画を見続けた。心臓の音がうるさいくらい響いていた。
宮沢賢治の知られざる短編童話「さるのこしかけ」では、猿の将軍が主人公の少年を騙して胴上げして落とそうとしますが、わたしのスマホの動画はどのような結末をむかえるのでしょうか。




