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第2話 カムパネルラのいない空

学校の屋上で、先生と楽しくAI動画で遊んでいた、わたし。

トイレから屋上に戻ると悲劇が。

第2話 カムパネルラのいない空


 トイレに向かう途中、階段の踊り場で教頭先生とすれ違った。

 スーツの襟はきちんと整っていて、革靴の音は機械みたいに正確だった。

 けれど、目だけがガラスのように冷たかった。


「君、また屋上で動画を撮ってたのかね」


 声は柔らかいけれど、どこか底のない響きだった。


「はい。でも、もう終わりました」


「そうか。あの顧問の先生といっしょだったな」


「ええ」


「彼女は、いい先生だよ」


 そう言って、教頭先生は、わたしの肩を軽く叩いて去っていった。

 その瞬間、なんだか鳥肌が立ち背筋が寒くなった。

 なぜかは分からない。トイレを我慢しすぎたのかもしれない、そのときはそう思った。でも、そうじゃなかった。


 トイレで手を洗って、階段を上がる。

 夕方の光が窓から斜めに差し込んで、踊り場の埃がきらきらしていた。


 そのとき。

 キャアッ!

 悲鳴が、空気を裂いた。

 次の瞬間、「ドン」という鈍い音。

 まるで大きなカバンでも落としたような、重たい音。

 胸が一瞬で冷たくなる。

 足が勝手に動いた。

 屋上への階段を駆け上がろうとしたそのとき、鉄の扉が開き、教頭先生が出てきた。

 息がひどく乱れている。いつも整っている髪も。


「たいへんだ!君の部の顧問の先生が、屋上から!」


「え?」


「飛び降りた!なにかとても悩んでいたみたいだ。最近、元気がなかっただろう?」


「そんな…」


「私は今すぐ救急車を呼ぶ!」


 教頭先生はそう言って、階段を駆け下りていった。

 革靴の足音が階段に響いて、遠ざかっていく。

 わたしは信じられなかった。

 胸がドクドク鳴って、息ができない。


「……そんなはず、ない」


 屋上の扉を押し開ける。

 風が吹きつけてきて、フェンスの向こうに広がる校庭が夕闇に沈んでいた。

 人の姿はない。

 でも、遠くで人が騒いでいる声がかすかに聞こえた。

 救急車とパトカーのサイレンの音も。


「先生はそんなこと、しない。」


 呟いた声が風に消えた。

 足が震えて、フェンスのそばにしゃがみ込む。

 目の前に、スマホがあった。

 フェンスに固定したままのスマホ。

 わたしはそれを外した。

 画面は冷たく、少し湿っていた。

 サイレンの音が近づいてくる。

 だけど、世界は全部ぼやけてしまっていた。

 先生は飛び降りたりしない、つぶやきながら歩いた。


 気づけば、わたしは家のベッドの上に座っていた。

 制服のまま。

 手の中にはスマホがあった。

 ロックを解除して、動画フォルダを開いた。

 ひとつ目の動画。

 わたしと先生が、銀河鉄道の夜のキャラクターに変換されて笑っている映像。

 ジョバンニの姿をしたわたしと、カムパネルラの姿をした先生。

 わたしは無言で再生を押した。

 屋上の風の音、笑い声、沈む夕日。

 先生の「この動画を配信してはダメよ」という声。

 そして、ペコリと頭を下げるわたし。

 何度も見た。

 一度、二度、三度。

 十回目を数えるころには、涙が頬を伝っていた。

 本当に、きれいな動画だ。

 まるで夢みたい。

 ジョバンニとカムパネルラが本当に銀河鉄道で旅しているように見えた。

 わたしはあの光の中で、先生と一緒に永遠にいたかった。涙で動画が見えなくなった。わたしは涙を拭いて動画を閉じた。


 ふと画面の下を見ると、もうひとつ動画ファイルが増えていた。なにかとても悪い予感がした。

スマホには、どんな動画が残っているのでしょうか。

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