第11話 カラスの北斗七星
先生を殺した殺人犯の教頭に腕をつかまれた、わたし。
ついに屋上に連れられてきてしまった。
教頭は、キモチワルい話をしはじめる。
ガマンして時間を稼がなくては。
フォロワーのみなさん、聴こえていますか?
警察を呼んでください!
「さあ、君の来たがっていた屋上だよ。」
教頭の決定的な自白を生配信する前に屋上に着いてしまった。
今夜は満天の星だ。
北斗七星が美しい。
カラスが夜空を飛んでいく。
教頭なんかとじゃなくて、先生や文芸部の友人たちと屋上にこれたらどんなに良かったろうか。
「君は幸運だよ」
教頭はゆっくり語り始めた。
「私はね、最近ようやく理解したのだ。
日本にとって何が“誇り”なのか」
嫌な予感がして、わたしは息を詰める。
「ネットでね……ある動画を見て……
心が震えたんだ。
特攻隊の映像だ。
命を国に捧げた若者たちの……
純粋で、美しい精神」
教頭の声は恍惚とし、まるで祈りのようだった。
「彼らは迷わず飛んだ。
国のために死ぬことが、どれほど崇高か……
ああ、あれこそ教育の原点だよ。
君にも、あの境地を教えてあげよう」
馬鹿だ。この男は馬鹿だ。
特攻隊員が迷わず死んだなんて嘘だ。
文芸部でみんなで特攻隊員の遺書を読んだ。その特攻隊員は宮沢賢治のファンだった。泣いた。彼の悩み苦しみが伝わってきたのだ。
あれは何の作品の参考資料として先生が持ってきてくれたんだっけ。そうだ、宮沢賢治「烏の北斗七星」だ。カラスの軍人が平和を訴えるあの作品。その特攻隊員はあの作品のファンだったのだ。恋人を残して南の空に散った特攻隊員の遺書を先生が読んでくれたんだっけ。
馬鹿な教頭の機嫌をとるのは、死ぬほど嫌だ。しかし、この生配信のフォロワーが警察を呼んでくれるまでは、教頭を怒らせてはいけない。穏やかに質問して時間を稼ぐのだ。
「いくら覚悟しても、死ぬのは恐いし、迷うんじゃないでしょうか…」
「なあに、死ぬのはそう恐いことじゃない。死後の世界と夢の世界はつながっていてね。世界中の人々と夢を見続ける、それが死なんだ。ユング心理学を授業でちょっとは習っただろう。集合的無意識の世界は本当にあったんだ。」
教頭は、さらに狂ったことを言い始めた。
「君の先生ね。あの女は若くて美しいし頭もいい。自殺でも他殺でもどちらでもいい。あの世で特攻隊員の若者たちのための良い供物になったろう。あの世では平和などという汚れた思想は脱ぎ捨てて、愛国の大和撫子に生まれかわって、特攻隊員の若者たちと美しい夢を見続けているに違いないんだよ。迷いなく国のために進んで死を選んだ若者たちへの最高の生贄だよ。」
なんだ、この男は、これで本当に教頭か。超きもちワルい。
生贄とか、死後の世界とか、ヤバいことを言い始めた教頭。
だれか助けて。




