第1話 虚ろ
「あなたは今、死にたいと感じていますか? 毎日が息苦しいですか? 退屈ですか? 世界に色はありますか?
生きたいと願う者、死んでも構わないと感じている者、あなたは、どちらに当てはまりますか?」
中学時代、道徳の授業で先生がそんな事を言っていたなと、思い出す早矢川蓮太郎。
彼は今、高校の屋上で夕日に照らされながら、スマホを開いて、イヤホンを耳に付け動画を見ている。
蓮太郎は心霊や都市伝説を信じてる訳ではないが、コンテンツとしては、見ていて面白みを感じ、いつもの様に好きな配信者の怖い話を視聴していた。
「(この人の話、嘘かホントか知らないけど、まぁ怖くて面白いんだよなぁ)」
動画を見ていると、通知音が鳴り、一つのニュースが流れてきた。
その内容は、どこの誰かは知らないが、同じ高校生の男子が、飛び降り自殺をしたと言うニュースだった。
「(飛び降り、またか。 最近多いな)」
ショッキングな内容のニュース、だがそれは、ここ最近、よく見ていた。
川、海、橋、自殺をする十代の少年少女達。深い理由までは知るよしもないが、ネットワークを初めとした、様々な物が復旧、発達し、便利となったこの世の中。
だがその反面、ネットの誹謗中傷、若さ故の命の価値判断。 学生は学校に行き、様々な教科を学ぶ、その中には、命に関わる保健や道徳と言った授業も存在する。
しかし、その生徒全員がしっかりと理解し、身に染みているかは、誰にも分からない。
家出をする者、ネットで言葉を浴びて、命を絶つ者。
命とはなんなのか、それを真面目に考えられる人が、この世界で、大人も含め一体どれほど存在するのか。
仕事に押しつぶされ、そんな事を考えてられない者、そもそも興味が無い者、パターンを挙げればキリがないが、死がどんなものなのか、なんで生きているのか、何の為に生きるのか。
一体、なんでここに存在しているのか、蓮太郎は、見ている動画が似ている為か、たまにふと考える。答えが出る訳ではないし、むしろ分からずに終わる為、考える事を止め、彼はまた動画を見たり、いつもの日常へと戻る。
「命の重みって、なんなんだろうな」
蓮太郎はふと口に出す。いつも誰もいない屋上、当然聞かれていないと、思っていた。
そう、思っていた。イヤホンをしていて気づかなかったが、屋上には、珍しくもう一人いた。
「ねぇ、あぁイヤホンか」
蓮太郎の肩を指でトントンとする一人の少女。
誰もいなく、聞かれていないと思っていた蓮太郎は、驚きのあまり口に出す。
「うわ!」
「え!」
少女の方も、そこまで驚くとは思わず、お互いにビックリする。
イヤホンを外し、声をかける蓮太郎。
「ごめん、イヤホンしてて気づかなかった」
「大丈夫。 私今来たばっかだし、それに見てないから」
「ん? 見てないって、何を?」
「君のスマホ、流石に人様のを覗くのは、ねぇ」
「あぁ、なるほど」
「ただ、想像はつくけどね」
「え……それはどういう」
「君、言ってたよね。 命の重みって、なんなんだろうなって」
命の重みとはなんなのか、その言葉だけは口に出していて、それをたまたま彼女に聞かれていた。
「あぁ」
「もしかして、飛び降り男子のニュース?」
「まぁ……知ってるってことは」
「うん。 私も見たから、通知で来たニュースだけど」
「ところで、えっと……」
「ん?」
「名前、君の」
「えぇ! 同じクラスなのに……」
「ごめん、俺」
「まぁ良いよ。蓮太郎君」
「え……なんで俺の名前」
「さぁ、なんででしょう。 選択肢を出すから、当ててみて。 一、実はクラスの有名人だから。二、私が友達から聞いたから。三、その他。さぁどれでしょう、この中に答えはあるよ!」
「そりゃあその他があるし、えっと」
「さぁさぁ」
「じゃあ、二?」
「正解! おめでとう蓮太郎君」
「友達に聞いたって、どうして?」
「さぁ、それは内緒」
「えぇ」
「女の子は、秘密が多いの、覚えておくことだよ、蓮太郎君。まぁ私の名前ぐらいは言わなきゃね。 私は橘奏、一応君の隣の席だよ、蓮太郎君」
「ごめん、ホントに」
知らなかったとは言え、隣の席の人、流石に申し訳ないと感じた蓮太郎。
「良いっていいって、謝ることないよ蓮太郎君」
「それで、君はなにしに屋上へ?」
それを言われた奏は、蓮太郎に近づき、真顔で一言。
「君に会いに」
「え……」
蓮太郎は知らなかったが、橘奏は学校でも有名な美少女。
そんな彼女が急に迫り真顔で君に会いになんて言われれば、蓮太郎でなくとも、男子ならば照れてしまう。
彼女は真顔だったが、少し笑みをこぼし。
「だったら、どうする?」
「へ?」
「反応可愛いね、蓮太郎君」
嘘なのか本当なのか、困惑する蓮太郎。
「そう言うの、良くないって」
「そう言うの?」
「そんな事言われたら、男子なら意識するって」
「君は?」
「え?」
「意識した?」
「……」
「した顔ですな」
「俺の心を読まないでくれ」
「ごめんね。分かりやすくて、でもさ、嘘じゃなかったら、言ってもいいの?」
「え! それって……」
「君はどっちだと思う? 蓮太郎君」
蓮太郎は照れながら、何を言っているのかと口に出そうになったが、彼女は真顔で再び聞いてきた、蓮太郎には、彼女が嘘を言っている様には見えなかった。
「えっと……」
「ごめん、意地悪な質問だったね」
「あいや」
「私、君に言いたい事があって」
「……なに?」
「死ぬ前に私と話さない?」