表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

第1話 虚ろ

 「あなたは今、死にたいと感じていますか? 毎日が息苦しいですか? 退屈ですか? 世界に色はありますか?


 生きたいと願う者、死んでも構わないと感じている者、あなたは、どちらに当てはまりますか?」


 中学時代、道徳の授業で先生がそんな事を言っていたなと、思い出す早矢川蓮太郎(はやかわれんたろう)


 彼は今、高校の屋上で夕日に照らされながら、スマホを開いて、イヤホンを耳に付け動画を見ている。


 蓮太郎は心霊や都市伝説を信じてる訳ではないが、コンテンツとしては、見ていて面白みを感じ、いつもの様に好きな配信者の怖い話を視聴していた。


 「(この人の話、嘘かホントか知らないけど、まぁ怖くて面白いんだよなぁ)」


 動画を見ていると、通知音が鳴り、一つのニュースが流れてきた。


 その内容は、どこの誰かは知らないが、同じ高校生の男子が、飛び降り自殺をしたと言うニュースだった。


 「(飛び降り、またか。 最近多いな)」


 ショッキングな内容のニュース、だがそれは、ここ最近、よく見ていた。


 川、海、橋、自殺をする十代の少年少女達。深い理由までは知るよしもないが、ネットワークを初めとした、様々な物が復旧、発達し、便利となったこの世の中。


 だがその反面、ネットの誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)、若さ故の命の価値判断。 学生は学校に行き、様々な教科を学ぶ、その中には、命に関わる保健や道徳と言った授業も存在する。


 しかし、その生徒全員がしっかりと理解し、身に染みているかは、誰にも分からない。


 家出をする者、ネットで言葉(ぼうりょく)()びて、命を絶つ者。


 命とはなんなのか、それを真面目に考えられる人が、この世界で、大人も含め一体どれほど存在するのか。


 仕事に押しつぶされ、そんな事を考えてられない者、そもそも興味が無い者、パターンを挙げればキリがないが、死がどんなものなのか、なんで生きているのか、何の為に生きるのか。


 一体、なんでここに存在しているのか、蓮太郎は、見ている動画が似ている為か、たまにふと考える。答えが出る訳ではないし、むしろ分からずに終わる為、考える事を止め、彼はまた動画を見たり、いつもの日常へと戻る。


 「命の重みって、なんなんだろうな」


 蓮太郎はふと口に出す。いつも誰もいない屋上、当然聞かれていないと、思っていた。


 そう、思っていた。イヤホンをしていて気づかなかったが、屋上には、珍しくもう一人いた。


 「ねぇ、あぁイヤホンか」


 蓮太郎の肩を指でトントンとする一人の少女。


 誰もいなく、聞かれていないと思っていた蓮太郎は、驚きのあまり口に出す。


 「うわ!」


 「え!」


 少女の方も、そこまで驚くとは思わず、お互いにビックリする。


 イヤホンを外し、声をかける蓮太郎。


 「ごめん、イヤホンしてて気づかなかった」


 「大丈夫。 私今来たばっかだし、それに見てないから」


 「ん? 見てないって、何を?」


 「君のスマホ、流石に人様のを覗くのは、ねぇ」


 「あぁ、なるほど」


 「ただ、想像はつくけどね」


 「え……それはどういう」


 「君、言ってたよね。 命の重みって、なんなんだろうなって」


 命の重みとはなんなのか、その言葉だけは口に出していて、それをたまたま彼女に聞かれていた。


 「あぁ」


 「もしかして、飛び降り男子のニュース?」


 「まぁ……知ってるってことは」


 「うん。 私も見たから、通知で来たニュースだけど」


 「ところで、えっと……」


 「ん?」


 「名前、君の」


 「えぇ! 同じクラスなのに……」


 「ごめん、俺」


 「まぁ良いよ。蓮太郎君」


 「え……なんで俺の名前」


 「さぁ、なんででしょう。 選択肢を出すから、当ててみて。 一、実はクラスの有名人だから。二、私が友達から聞いたから。三、その他。さぁどれでしょう、この中に答えはあるよ!」


 「そりゃあその他があるし、えっと」


 「さぁさぁ」


 「じゃあ、二?」


 「正解! おめでとう蓮太郎君」


 「友達に聞いたって、どうして?」


 「さぁ、それは内緒」


 「えぇ」


 「女の子は、秘密が多いの、覚えておくことだよ、蓮太郎君。まぁ私の名前ぐらいは言わなきゃね。 私は橘奏(たちばなかなで)、一応君の隣の席だよ、蓮太郎君」


 「ごめん、ホントに」


 知らなかったとは言え、隣の席の人、流石に申し訳ないと感じた蓮太郎。


 「良いっていいって、謝ることないよ蓮太郎君」


 「それで、君はなにしに屋上へ?」


 それを言われた奏は、蓮太郎に近づき、真顔で一言。


 「君に会いに」


 「え……」


 蓮太郎は知らなかったが、橘奏は学校でも有名な美少女。


 そんな彼女が急に迫り真顔で君に会いになんて言われれば、蓮太郎でなくとも、男子ならば照れてしまう。


 彼女は真顔だったが、少し笑みをこぼし。


 「だったら、どうする?」


 「へ?」


 「反応可愛いね、蓮太郎君」


 嘘なのか本当なのか、困惑(こんわく)する蓮太郎。


 「そう言うの、良くないって」


 「そう言うの?」


 「そんな事言われたら、男子なら意識するって」


 「君は?」


 「え?」


 「意識した?」


 「……」


 「した顔ですな」


 「俺の心を読まないでくれ」


 「ごめんね。分かりやすくて、でもさ、嘘じゃなかったら、言ってもいいの?」


 「え! それって……」


 「君はどっちだと思う? 蓮太郎君」


 蓮太郎は照れながら、何を言っているのかと口に出そうになったが、彼女は真顔で再び聞いてきた、蓮太郎には、彼女が嘘を言っている様には見えなかった。


 「えっと……」


 「ごめん、意地悪な質問だったね」


 「あいや」


 「私、君に言いたい事があって」


 「……なに?」


 「死ぬ前に私と話さない?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ