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 数日後。僕の日常に変化が起きた。ただただ平穏。そんな毎日が戻ってきたのだ。理由は明確にあの女の存在が消えたから。いや……。正確には消えたわけではない。確かに学内にはいる。でも不思議なことに文子さんと会った翌日からあの女は気持ち悪いくらい僕を避け始めたのだ。まるで最初から僕とは知り合いではなかったかのように。それほどあからさまな態度だった。

 そんな日々を一週間ほど過ごした。気持ちが軽い。素直にそう思えた。あれほどつきまとっていた陰鬱な気分も晴れた。学友と他愛のない馬鹿話ができる。それだけで幸せを感じられた。風邪をひいたから健康のありがたみがわかる。これはその感覚に近いと思う。

 そしてやがて季節は夏に変わっていった。梅雨の嫌な雨も少しずつ遠のいていった――。


 七月中旬。僕は再び中華街を訪れた。行き先は例の占い館。文子さんと出会った場所だ。まぁ……。行ったところで文子さんには会えなかったのだけれど。

「あらあら、いらっしゃい」

 僕が占い館に入ると美麗さんが出迎えてくれた。

「こんにちは。先日はどうも」

「いえいえ。あ、もしかして文子に会いに来た?」

「ええ、まぁ……」

「あー……。せっかく来てくれたのにごめんなさい。あの人は元々ここの人間じゃないのよねぇ」

 美麗さんは申し訳なさそうに言うとカウンターから何やらチラシのようなものを取り出した。そしてそれをそのまま僕に差し出す。

「ここからちょっと遠いんだけど……。ここ行けば必ず会えると思う……。よ。あの人出不精だからまず出歩かないし」

「どうも……」

 僕はそう答えながらチラシに視線を落とした。チラシには「手紙用品専門店 恋文堂」とあり、古びた外観の店と簡素な地図が描かれていた。

「できるなら連絡とってあげたいんだけど……。あの人って連絡付かないんだよね。携帯は持ってないし固定電話も引いてないから」

 美麗さんはそこまで言うと呆れたみたいに苦笑いした。そして「こっちも毎回迷惑してるんだけど」と憎まれ口を叩いた。まぁ当然だろう。このご時世スマホは愚か固定電話もないようじゃ行方不明と大差ないと思う。

「……分かりました。ありがとうございます」

「ううん。ごめんね。力になれなく」

 美麗さんはそう言うと穏やかににっこり笑った。そして「文子に会ったら来週よろしくって伝えといて」と続けた――。


 その後。僕は横須賀線で鎌倉に向かった。行き先は鎌倉駅からほど近い仲見世小町通りの裏路地。裏小町通りだ。  

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