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 その出会いはある意味とてもロマンチックだった。学舎の軒下での雨宿り。そんなこれから恋が始まるのために作られた舞台装置みたいな場所から始まった。もし誰かが僕の話を額面通り聞いたなら羨むかも知れない。それ程までに僕と彼女との出会いは完璧だった。まぁ……。結局僕もそんな出会い方をしたせいですぐに彼女とは男女の仲になってしまったのだけれど。

 ただ……。その出会いには致命的な問題があった。何というか……。彼女はとても情緒不安定だったのだ。よく言えば繊細で寂しがり屋。悪く言えば……。粘着質でメンヘラクソ女だったのだと思う。

 だからだろう。僕は次第に彼女からフェードアウトしていった。いや……。正確には違う。フェードアウトし損ねていった。今思えばそれは当然の結果だったような気がする。彼女はそれ程までにイカれていたのだ。爆弾のように過激でガラスのように繊細。彼女を表すとしたらそんな両極端な性格だったように思う――。


 文子さんとの出会いはちょうどその頃だった。場所は六月末の横浜中華街。その一角に佇む占い館の軒下。そんな場所だった。天気は雨。奇しくもあのメンヘラ女と出会ったのと似たような場所だ。

 当時から文子さんは和装で、その格好はまるで大正時代の女流文芸作家のように見えた。落ち着いた紺色の羽織にえんじ色の小紋。それに似つかわしくない黒と銀色のツートンカラーのボブヘア。表情は乏しいが顔の造形自体は整っている。そんな女性だった。まぁ……。表情の乏しさについては後に理由を知るのだけれど。

「どうした青年。こんなところで雨宿りか?」

 文子さんに初めて掛けられたのはそんな浮世離れした言葉だった。そしてそう話す彼女の声は妙に抑揚を欠いていた。聞きようによっては動画サイトの自動読み上げのようにさえ聞こえる。それほどまでに彼女の口調は淡々としていた。

「ええ、まぁ」

 僕はそれだけ返すとわざとらしくスマホに視線を落とした。変な女に絡まれた。そう思ったのだ。

 でもそんな僕の思いとは裏腹に彼女は「ふーん。そ」と呟きながら僕の顔を覗き込んできた。そして彼女は「君、つかれてるね」とよく分からないことを言った。

「はい?」

「うん。疲れてるし憑かれてる。……このままだと君大変な目に遭うよ」

 文子さんはそこまで話すとその場にしゃがみ込んだ。そして続ける。

「ねぇ君。もし今困ってることあるなら手を貸すよ? なんとなくだけど……。やばい感じするし」

 彼女はそう言うと僕の右手首をそっと握った。そこまで強い力ではない。まるで綿菓子を潰さないように優しく持つみたいに。優しい握り方だ。

 もしこのとき彼女の手の力が強かったのなら僕はきっと振りほどいたはずだ。この女はやばい。またメンヘラに絡まれた。脊髄反射的にそう気づいて逃げていたと思う。

 でも……。なぜか僕は彼女の手を振りほどく気にはなれなかったのだ。今思えばそれは彼女の不思議な力の一端だったのだろう。

 気づくと僕は彼女に手を引かれ占い館の中に足を踏み入れていた。薄暗い室内とどこかノスタルジックな匂いが鼻をついた。


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