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 ――あの日の雨は僕の歩みを遮るように降りしきっていた。別に豪雨だとか台風だとかではない。単に陰鬱で重たい六月の雨。さして強くもない。でも……。その雨は異常なほど僕に纏わり付いた。比喩的にも。物理的にも。

 だから僕はその雨をただただ眺めることしかできなかった。仕方がないのだ。たぶん僕はそれほど打ちひしがれていたのだと思う。

 なぜそうなったのか? その理由を語ると気が滅入るほど長くなる。それこそ一〇万文字の中編小説くらい。文字数としてはそれくらい必要になりそうな気がする。それほど様々な問題を僕は抱えていたのだ。まぁ……。短くまとめるとすればそれは『家族のこと』と『ストーカー』のこととシンプルに書けるのだけれど。

 まず家族の問題。それは僕は在原家の中で唯一の落ちこぼれだったことだ。三人兄弟の三男にして帝大に入れない落ちこぼれ。両親も祖父母も僕のことをそう思っていたに違いない。……いや、違いないどころではない。だって実際僕は家族からそれはそれは酷い罵りを受けていたのだから。

『穀潰しの癖に』

『おまえなんか生きている価値ないよね』

『今すぐ目の前から消えてほしい』

 家族からはそんなことを言われるのは日常茶飯事だった。今思えばかなり狂った家庭環境だったと思う。狂っていて、それでいて世間的には羨まれる。そんな歪な家族。……だった。

 だから僕は東京から離れて自活する道を選んだ。あんな狂った家族と一緒に居たくない。そう思ったのだ。

 実家を出た僕は横浜の国立大学に入った。もちろん学費は自分持ち。自分で言うのもおこがましいけれど苦学生って奴だ。未来の自分に学費を肩代わりさせ、今の自分には生活費を稼がせる。そんな毎日だった。

 でも……。そんな最悪なはずの境遇でもあの家族と暮らすよりは何倍もマシだったように思う。それほどまでに高校までの僕は荒んだ毎日を送っていたいのだ。もほや麻痺して苦しいと感じなくなるほどに。

 大学に入った後は比較的落ち着いた毎日を過ごせた。幸い、学内での成績は悪くなかったし、本来の僕のランクの大学に入ったことで気の合う友人も何人かできた。たぶん入学してから半年くらいの時期が僕の人生で一番幸せな時間だったのだと思う。平々凡々な。そんな日常を過ごせるだけで僕はとても救われた気がした。

 しかし……。そんな日常を。ようやく手に入れた平穏を奪い去る出来事に僕は出会った。そしてそれは再び僕のことを苦境に立たせることとなった――。


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