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Jack the Ripper

作者: 野火俊弥

切り刻むべきして生まれたものたちの羅列そしてその繋ぎ目の鋭利な痛みを共にするひたおちる透明の血液と使い切れなかった残骸の。


 雑誌、小説、広告、辞書、学術書、諸々の「本」と呼ばれる紙の集合体を構成するのは全ては文章そして言葉だ。それらを作り出すという事はとても素晴らしい事だとジャックは何時も思っていたが、どうしてもこれらの言葉たちが自分に扱えるという概念はなくただ凄いなぁと日がな紙面を眺めていた。朝から晩まで眺めていても飽きなかったのは、文章が意味という意味を成さず、どちらかといえばジャックの目に入るそれらは文章ではなく絵だった、映像だった。たった一つのページを一日中眺めていることもざらだった。何故それらが美しいのかということをジャックは理解できないでいたが、紙面を眺めていると色彩信号の中に溺れて深部に漂っていられるように静かな気持ちで居られるのでおそらく自分は本が好きなのだと思うことにした。学校に上がると、本が好きだという事は大人たちの目から見てオリコウな趣味らしく何やかやと褒められた。しかしジャックは文章を何一つ理解していない。「どんな本を読んでいるのか」と聞かれて返答に困ってしまうことも、しばしばだっ

た。

ジャックの選ぶ本は多岐に及んだ。美しいと思った本は何度でも眺めた。ある日、美しい本に出会ったがそれが不味かった。流行のポルノ小説だった。敬遠なクリスチャンだった彼の母は激怒し、彼の尻を叩き、目の前でそれらの文章を虐殺した。尻の痛みよりも、目の前で行われる破壊活動のほうがジャックには衝撃だった。全ての美しい文字の羅列世界が紙屑になったのだ。泣きながら残骸を拾い集めた後、修復活動に勤しんだが元より文章を理解しないジャックが前後の文書だけで修復など出来るはずなく、途方も無いパズルゲームに絶望した。机に並べた残骸を一つ一つ眺め、ため息をついた。ジャックの息により何枚かの紙屑が散った。それらを修復しようとパズルに目を向け、ジャックは美しいものを見た。何篇ものピースが散ったパズルの上、そして、机の下に落ちたピースに書かれた文章文章の繋がりと風が吹けば飛ぶ脆弱な存在。そこにジャックは震えるような感動を覚え、スケッチブックを取り出しそれらを描いた。しかし、自分で描いたものは何とも味気ないものだった。


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