山鳩
空が…高い
冬の空って澄んで綺麗
サンタさんはソリ走らせるから空が澄んでいると仕事しやすいだろうな
トナカイたちも視界が見やすいだろうし…
「何か飛んでるの?」
「え、ううんうん」
幼馴染の浩太の言葉に友美は現実世界にひき戻される
「そんなに見てると首、痛くなっちゃうぞ」
浩太に頭をポンポンされふと微笑む
「ねえねえ、浩太はサンタさんいると思う?」
「いきなりなんだよ(笑)でも…信じてたぜ、子供の頃はな」
「本当にサンタさんが来るって信じてさ、暖炉の前にココアとクッキー用意して兄弟たちと眠気と戦いながら見張ってたんだ」
「可愛い~うん、うん、それで?」
「時計が0時になった瞬間、ママが入って来てプレゼントを置いて部屋を出ていったよ」
「そっか、ママがサンタさんだったんだね、優しいママじゃない」
「まあな、夢はこわれたけどうちら自慢のママだからな」
「でも、不思議なことに…ママはクッキーもココアもスルーして食べないまま部屋を出たのに朝になったらココアもクッキーもなくなってたんだよ」
「え~、それって兄弟の誰かが食べたんじゃなくて?」
「弟は寝てたし他の兄弟は全員起きててママサンタを確認して爆睡してたから…未だにミステリー」
「本物のサンタさんが食べていったのかもよ」
「プレゼントくれなかったぜ、そいじゃ食い逃げじゃねーか(笑)」
「あはは、お腹空いてたのかも」
可愛らしい浩太のエピソードに癒され、キッチンで得意のクリームシチューと大根と豚バラの煮物を作り炊飯してエプロンを脱ぐ
「いつも悪いな、一緒に食ってかねえ?」
「いいよ、来年の4日までパパとママ、箱根だから」
「夫婦で温泉旅行か、いいねぇ」
「友美は可愛いし料理も上手いのになんで彼氏作んねえの?」
「コンパとか出会い系サイトも興味ないし…あえて言えば…」
「うん」
「運命を信じてるの」
「なんだ、それ、相変わらずロマンティストだな(笑)」
「だね(笑)はやく食べよっ、そうそう…これ作って来た、クリスマスまで熟成させてね」
「おお、クリスマスプディング今年も作ってくれたのか~嬉しいぜ」
「せめて23日まで食べちゃダメだよ、毎年食べ時になる前に食べちゃうんだもん」
「今年はイヴまで我慢するぜ、でもよ、その前にちょっと味見してもいい?」
「だ~め! もう、言ってるそばからあ、人の話、聞いてる?」
しょんぼりする浩太を見て友美はカバンからアルミホイルに包まれたカットしたクリスマスプディングを差し出す
「そう言うと思って今年は味見用も作ったよ、はいっどーぞ」
「やった~さっすが友美ちゃん、俺、紅茶淹れてくるな~」
妹も両親も旅行中…独り身の私は必然的にお留守番…
ま、いっか、浩太と遊んでもらおっと
マンション広いしね♪
幼馴染の浩太は優しくて紳士でイケメンなのに女嫌いで仕事一筋なので友美が気まぐれに遊びたがっても100%すっぽかされることがなかった
はず…だった
「え…今年は一緒に遊べないって…」
「ごめん、なんか言いそびれちゃってさ、彼女、出来たんだ…イヴにお泊りに来るから…」
想定外の彼女発言…これはかなりなショック…
いやいや、ここは幼馴染として喜んであげなくちゃ、でも、だけど…
「そっか、よかったね浩太、かっこいいのに彼女作んないから心配してたけどほんとよかった~」
「い、いや、先日、告られてさ…同じ会社の子で…」
「社内恋愛か、なんか浩太らしくないね、あ、でもよかったじゃん、どんな人?」
バカ、探りいれるようなこと言って!
「お、写真見る?」
「スマホに浩太との2ショ…黒髪ストレートヘアの美人だ」
「綺麗なひとだね~ミステリアスな感じで素敵じゃない! お似合いだよ」
なんだか帰りたくなってきちゃった…けっきょくクリぼっちは私だけ…か
でも、ここで帰ったらモロひがんでるみたいだしな…
じいぃぃ……っ
浩太、めちゃめちゃガン見してる!
「な、なに、なんか顔についてる?」
「やっぱB型って顔に出るのな…」
え……
「ショック…って顔に書いてある…」
ペシッ!
浩太のオデコを平手で叩いてスタスタ玄関に向かう
「バカにしないでよっ、帰る! 別にひがんでなんかないから!」
「友美!」
「待てって…」
え……な…に…これ…
いきなり背後から抱きしめられた…どうしたら…いいの
「ちょっと、彼女いるのに何…考え…」
突然、唇を奪われる
「嘘…嘘だよ、あれは上司の植松さん、既婚者で子供もいる人」
「なに…どーゆーこと?」
「好きなんだ…お前が…ドジで天然で可愛くて子供みたいで…ほっておけない…」
「それ…ボランティア精神的ってこと?」
「バカ…俺はそんなに優しくない…」
浩太は背中から私を抱きしめたまま耳元で囁き続ける
なんか…くすぐったいよ……浩太
「昔からずっと好きだっんだ…なかなか言えなくて植松さんに相談したら協力してくれた」
「ええっ」
「彼女ができたって言ってもしショックを受けていたら脈あり、無反応に喜んでいたら脈なしだって」
「試したの?」
「ごめん…」
浩太…いい声なんだな…囁かれると弱い…
「お前、男嫌いだし…どっちかっつーとレズなのかと…」
「ノンケだよっ、人を変態にしないでっ」
「男は嫌いだけど…浩太は特別…優しいし紳士でイケメンだし…大人だし…私のことよくわかってるし…」
「でも幼馴染でずっときて…言ったら関係が壊れる気がして私も…言えなかった」
「友美…」
「浩太さ、モテるからしょっちゅう言い寄られてて内心、ムカついてた…」
「何言ってるんだよ…告られても即塩対応して相手は玉砕…お前以外興味ねえもん」
「俺の女への塩対応、知ってるだろう…」
そう…女嫌いの浩太はタレントやモデルにも言い寄られる度に100%の塩対応で誰ひとり相手にしなかった
あまりにそうだからもしかして…ジュネ的な趣味が…と疑ったこともあったけど…
ようするに…私と…一緒ってこと?
「あの…じゃあ…浩太が彼女作らなかったのって…」
「お前以外…嫌だったから…お前しか…求めてないから…」
浩太……
※※※※※
ここでコクトーの詩を引用させていただきます……
※※※※※
二羽の山鳩が優しい心で愛し合いました
その余は 申し上げかねまする
※※※※※
シャンシャンシャン…
「ホッホッホ~♪ メリークリスマス!聖なるふたりに聖なる夜を…」
星の瞬く澄んだ夜空を鈴の音と共にトナカイのソリが駆け抜けていった
※※※※※