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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第2章 過日超克のディクアグラム
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大都市ディアフルン③

 上層部へと上がると、陽はすっかり傾いていて、夕暮れが街を染めていた。

 それにもかかわらず、人の往来が落ち着くばかりか、より勢いが増したような気さえする。

 その点もサグザマナスと似ているなと思うが、祭りというのは人を夜行性にさせる何かがあるのかもしれない。


「ここからは別行動じゃな」


 ファルファーレが四つ角の交差点でそう言い放った。そこは人の往来が激しく、また通りにも多くの店が軒を連ねているようで、喧騒がさらにその激しさを増している。


「どうしてです? 一緒に回ればいいでしょう」


「オレにもやることがあるんじゃ。それに、シャーミアもじゃろう?」


 急に話題を振られるも、その言葉に小さく頷いた。


「決まりじゃな。時刻は八の時ぐらいを目安に再度ここに集合じゃ」


 言うが早いか、ファルファーレはさっさと通りの中へと入り、雑踏に紛れて見えなくなった。


「それでは僕も。シャーミア、くれぐれも問題ごとを起こさないでくださいね」


「アンタの方が心配なんだけど?」


 ルアトがニコリと笑うと、彼も別の通りへと消えていった。一人取り残されたシャーミアもまた、彼らのことを気にせず街の喧騒に飲まれていく。


「……どこに行くのだ?」


「なに? こんな街中だと話しかけてこないと思ったんだけど」


「背が高くて容姿が整っておるルアトに、お主のような美少女が一緒に街を歩いておると目立つだろう。ファルファーレも、まあ渋い青年といったところで街でもそれなりにカッコ良い部類に入る」


「あたし一人だから、目立たなくなったってこと?」


「言っただろう。お主も美しいと。だが三人でいる時よりはまだ目を惹いておらぬ。それに、話し相手はおった方がいいだろう?」


「……否定はしないわ」


「愛いヤツだ。そう照れずともよいぞ」


 肩の上に乗って頬ずりをしてくるヌイを掴んで、胸元で抱き抱えるように持ってくる。こっちの方が何かあった時にすぐに隠せるのでそうしたのだが、ヌイは不服そうな声を上げた。


「ぐ……、苦しい……」


「あ、あったあった」


 胸と腕で締め付けていることに気がつかず、シャーミアが小走りで駆けるその先は――


「……はあはあ、惨い拷問もあったものだ。……む? ここは武器屋か」


 なんとか自力でその拘束から抜け出したヌイは、足を止めた彼女の前に佇むその建物を見やる。

 店を示す看板はもう掠れてしまっていて読めないが、店の入り口に剣や斧を飾っているところを見るとどうやら武器屋のように映る。

 店構えも中々に大きく、今も店から客が出入りしているのでそれなりの人気店なのかもしれなかった。


「そうよ。ここで短剣を修繕してもらうの」


 シャーミアが懐から折れた短剣を取り出す。グラフィアケーンの爪撃を受けて、根元から断たれたそれを、優しく抱える。修繕したばかりな気がしていたが、愛用してもう十年は経つ。限界が訪れていてもおかしくはなかった。


「直るとよいな」


「そうね。さ、入るわよ」


 その店には扉らしい扉はない。開け広げられた入口から中へと入ると、外からでは判断できないほどに、高級感に溢れていた。

 雑多な印象がある武器屋だが、そこは壁には大層高そうな剣が飾られていたり、ガラス箱に入った短剣などが目立っており、置いてある武器そのものが少ない。

 もしやここは高級店なのではないか。シャーミアがすぐに踵を返そうとしたが、それは近づいてきた店員に阻まれた。


「いらっしゃいませ~。本日はどのようなご用件でしょう?」


「え、あの、短剣を、直してほしいんですけど……」


「修繕ですね~。それではあちらのカウンターで受付しておりますので、そちらにどうぞ~」


 突然話しかけられて言葉遣いも怪しくなってしまったが、なんとか普通の客として扱ってもらえそうだ。

 示されたカウンターへと向かうシャーミア。店内は明るい照明が降り注ぎ、モノが多すぎることもないので歩きやすい。着いたカウンターも、高そうな木の板で作られているようでしばらく短剣を置こうか迷ってしまう。


「いらっしゃい。それが修繕するやつかい?」


「そうです。……あの、費用って……?」


 そして一番肝心な部分。これだけしっかりとした店ならば、値段が張ってもおかしくはない。生憎、シャーミアの手持ちは心許ない。本当に短剣の修繕費としての最低限のお金しか持ち歩いていなかった。

 恐々と尋ねるシャーミアを、店員はジロリと見据えて、それから応える。


「……見たところ文無しだね? ならちょっとウチじゃ厳しいかもねえ。ちなみに値段は金貨十枚だ」


「じゅっ!?」


 思わず、後ろにたじろいでしまう。これが、富裕層。これが上流階級。自らの資産の無さと今の身分を分からされてしまい、足元が揺らいでしまう。


「――ありがとうございました……」


 短剣を改めて握りしめてカウンターを後にする。やはりここへは来てはいけなかったのだ。

 これは敗走。どれだけ修行をしても、勝てないモノがあるということを学べただけでも収穫だ。

 がっくりと肩を落として振り向いたシャーミアは、後ろに並んでいた人を避けてその場を去ろうとした。

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