表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第2章 過日超克のディクアグラム
81/325

大都市ディアフルン

「随分、大きい城壁ね」


「万が一にも魔獣の侵入を許すわけにはいかないからな。さあ、こっちだ」


 馬車を降りた一行はダクエルを先頭に、門のすぐ傍にある騎士が詰める守衛所へと向かう。

 ディアフルンは、大都市と呼ばれているだけあり、その土地面積も広大だ。都市をぐるりと囲む壁は街道の遥か先まで続いていて、ここからではどこまでも延びているように見えてしまう。

 そしてその壁をくり貫かれたように設けられた門は固く閉ざされており、何人の侵入者も許さない。


「三日ぶりだな。見たところ落ち着いているようで何よりだ」


「ダクエルさん。いつもご苦労様です! 今日は何用で?」


「ああ、すまないが都市へ入らせてもらえないか」


 ダクエルが挨拶をすると、門を守る兵士の姿勢が見るからに正される。ここに来るまでの寄り合い所でもそうだったが、騎士たちの反応を見るに、ダクエルはこの国では相当慕われているようだ。


 それも当然だろう。都市の外れで、凶暴な魔獣の進行を抑えている集団のリーダーだ。サンロキアでは英雄のような扱いなのかもしれない。

 これならばもしかすると大した検査もなく都市へと入れると、そんな淡い期待を持つが現実はそう甘くはなかった。


「悪いけど、そちらのお連れの人たちも検査はしてもらうよ」


「まあ、当然よね」


 別に疚しい気持ちはないものの、怪しまれることに慣れるはずがない。検査と言っても簡単なボディチェックや質疑応答があるぐらいで、それほど時間も労力も掛からないわけだが。

 それでもシャーミアは入国時は緊張するし、それに今はルアトもファルファーレもいる。

 彼らが有する角や羽がバレてしまうのではないかと、見守っていたのだがどうやら杞憂だったみたいだ。


「手間取らせて悪いね。そんじゃ、門を開くよ」


 ギィギィと、古びた音を響かせながら、閉じられていた門がその口を開く。

 大都市と、そう呼ばれる景色に若干の期待を持っていたものの、門の先にある景色は、殺風景な階段があるだけだった。


「え、階段?」


「そうだ。ここを昇っていけば、ディアフルンの中心部に着く」


 当然のように、ダクエルが階段を昇り先へと進んでいく。シャーミアたちもその後を追い、階段を昇りきったところで、背後で門が閉まった音がした。

 階段を昇った先は長い廊下が延びており、外の景色が見えないように窓のない壁が続いている。

 天井は覆われていないので暗いわけではないが、少し窮屈さは感じてしまう作りだった。


「……どうしてここまで長い廊下が設けられているんでしょう?」


 シャーミアが抱いていた疑問を、ルアトが口に出してくれた。ここには話を聞くような騎士もいない。気兼ねなく尋ねられたその問いを、しかしダクエルは即答できずにいた。


「あの……?」


「ああ、すまないな。聞こえている。少し、迷ってしまった」


 そう語る彼女の声には、痛々しさが含まれていて、苦そうに渋っていた。

 別に無理をして話すような内容ではない。黙ってダクエルの言葉を歩きながら待っていると、やがて廊下の終わりへと辿り着いてしまっていた。


「……――ここがディアフルン――」


 廊下を抜けた先に見える景色が、陽光に照らされ輝く。

 舗装された道に、多くの店が軒を連ねている。出店のようなものが並んでいるわけではない。比較的小綺麗な店構えのものが多く目立つ。

 それに比例するように、往来する人々の数も多い。歩行できないほどではないものの、横切ろうとすると少し苦戦する程度には、往来が途切れることがない。


「なんじゃ、人が多いな」


「そうね。それに、どこか浮ついているような……」


 通り過ぎる人々は皆一様に、気分が昂揚していることが見て取れる。まるでサグザマナスを訪れている人たちのように、浮足立っていた。

 通行人にぶつかりそうになりながらも、よくよく見れば、店の外装も色とりどりな装飾が施されており、賑やかさや華やかさが増している。


「祭りがあるんだ。一年に一度、魔を祓う儀礼のようなものだな」


「ますますサグザマナスっぽいわね……」


 あの都市は何かのための祭りというわけではなかったが、ずっと賑やかな雰囲気が保たれていた。その状況を思い出したシャーミアは改めて街中をぐるりと見渡す。

 賑わいや雑踏はサグザマナスの方が多い。通り過ぎる人間も、観光客というよりは商人や武器などを手にした傭兵のような見た目をした人間が目に付く。


 そして、そんな街中にある立て札。道路の脇に刺さっているそこには、三十番通りと書かれている。そうやって区画や道を整理しているのだろう。

 その道の先、なだらかな坂になっている遥か遠くには、一つの城が見えた。


「あれが、ミスティージャが住んでいた城ね」


「そうだな。恐らくシリウスさんもあそこに幽閉されていることだろう。だが、今はまだその時じゃない」


 都市の中央に建つその城を一瞥したダクエルは踵を返して、坂を下り始める。

 その後ろをついていくシャーミアは、隣に並び問い掛けた。


「どういうこと? あたしたち、シリウスを助けに来たんだけど」


「当然、二人は救出する。だが、ただ闇雲に動いても上手くいかないだろう。まずは、この街について、知ったほうがいいと思ってな」


 歩きながら放つ言葉はやはり、どことなく心がそこにないように感じられてしまう。ダクエルは階段を下りる途中で、振り返り止まった。


「この街には陰と陽がある。陽は、今見てもらっている街の上層部。いわゆる中心街だ。そして影の部分はこの街の下層……」


 下る階段が行き着くその場所を、ダクエルは望む。

 晴れやかな街のその眼下。

 見るからに手入れがされていない街の姿が、視界に映る。


「私の家が、そこにある。そこで、作戦会議をしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ