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魔王の娘  作者: 秋草
第2章 過日超克のディクアグラム
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新生国家サンロキア④

 一度集落の『ハウンド』へと戻り、荷物をまとめたシャーミアたちは、その足で街道を歩く。

 向かう先は大都市ディアフルン。

 この新生国家サンロキアにおいて、要となる主要都市だ。

 近年魔獣が多く発生しているという話が広がっているため、外部から訪れる人間は商人と腕に自信のある冒険者や傭兵ぐらいなものだが、元々この国は魔獣の狩猟によって成り立っていた。


「サンロキアってどんな国なの?」


 シャーミアの疑問に、同行しているダクエルが悩む素振りもなく答える。


「この国の成り立ちは魔獣を狩っていた狩猟民族が集まってできたらしい。そこから資源として、魔獣から獲れる角や牙、毛皮や羽毛などを加工する技術が発展していき、現在のサンロキアとなったそうだ。これだって、魔獣の毛皮を編み込んで作られたマントだぞ?」


 彼女が見せるように歩きながらクルリと回る。マントが羽のように軽く靡き、再び彼女の肩から下を覆った。


「魔獣を狩るという行為は認められぬが、しかしその加工技術については感心だな」

「ヌイが褒めるなんて珍しいじゃない」

「余はいつだってお主には甘いだろう!」


 はいはい、と。そう言ってシャーミアはヌイへと水が入った小瓶を渡す。彼女は嬉しそうにそれを受け取り、口に含んで満たされた表情を見せた。

 そうして歩く一行の元へと、ファルファーレが舞い降りた。

 先ほどまで空を飛んで周囲の様子を窺っていたのだ。降りてきたということは、何か報告する事象でもあったのだろう。


「シリウスを連れた『メサティフ』の一団を見つけた。今まさにディアフルンへ入るところじゃったわ」

「そうですか……。ここから街までどれくらい時間が掛かるんでしょうか」


 街道は山道や森と違って舗装されていて歩きやすいものの、それでも都市部への移動は馬車が利用されるほど。

 特に、この国に入ったばかりのルアトやシャーミアからすれば距離感もいまいちピンと来ないだろう。

 それについては、ダクエルがしっかりと返答してくれる。


「『ハウンド』からは大体半日ぐらいだな。それほど遠くもないが、まあ馬車を利用した方が賢明だろう」

「そうですよね。ここから乗れる馬車の寄り合い所は?」

「すぐ近くだ。私もそこからよく乗っている。そら、見えてきたぞ」


 彼女の言葉が終わる頃に、街道沿いに立ち並ぶ建物が姿を見せ始めた。数にしては少ないものの宿や簡素な雑貨屋などが数店舗ありその中には馬車の寄り合い所もある。


「あ、ダクエルさん。お疲れ様です」

「ああ。お疲れさま。魔獣たちの襲撃はあったか?」

「いえ。このところは特に。これも『ハウンド』や『メサティフ』のおかげです!」

「そうか。だが油断するなよ。襲撃があったらすぐに応援を呼ぶんだ」

「はい! ありがとうございます!」


 警備をしているであろう騎士と会話をすませたダクエルはそのまま寄り合い所へと進み、シャーミアたちもそれについていく。

 ちなみにヌイはいつの間にか姿を消していた。


「……なんか、騎士多くない?」


 シャーミアが声を潜めてダクエルに囁くように言う。

 入口近くで見張っている風な騎士もそうだが、寄り合い所の中に入っても騎士が巡回していた。大体五、六人ぐらいは見かけただろうか。この限られたスペースには明らかに過剰な人数が割かれていて、何もしていないはずのシャーミアはつい挙動不審になってしまう。


「魔獣襲撃が後を絶たないからな。それにここは特に守るための塀や堀なんかもない。人数で対処するしかないんだ」

「にしても多い気はするけど……」

「まあいざとなれば『ハウンド』の集落からも、ディアフルンからも人手は派遣できるからな。そういう面から見れば、人員は多いかもしれない」


 人が多くても平気だが、こうも公的な人間が多いと落ち着かない。用意された椅子に座るものの、シャーミアは全然リラックスできないでいた。


「ふ、まだまだ子どもですね」

「……アンタと年齢変わんないと思うんだけど。というか、緊張しないわけ?」

「当然でしょう。何も悪いことはしていないんですから」


 ルアトの言う通りなのだが、それでも慣れないものは慣れない。そんな二人のやりとりを聞いていたファルファーレが会話に混じる。


「そうじゃよ。もっと胸を張って正々堂々と座っていればいい。今はダクエルもいるんじゃし」

「……アンタは怪しまれないの?」

「何故じゃ?」

「いや、だって……」


 人によって創られた人造魔獣が、こんな人のいる場にいたら騒ぎになってもおかしくない。それはグラフィアケーンの事例でもそうだ。

 魔獣だと知られれば大事になってしまうのではないか。

 そう思っての発現だったが、彼は口元に指を当てて声のボリュームを下げた。


「まあ、オレに関しちゃまだ人間には知られてない。つい最近生まれたばっかりじゃしな。その間、ずっと潜んでいたというのもある。……それにほれ、背中の羽も隠せるし」


 そう言って、背後を見せる彼の背からは、先ほどまであった黒い翼がなくなっていた。

「全然気がつかなかったわ……」

「これについては、そういう風に魔術で見せてるだけじゃがな。触られればもちろん羽があるのがバレてしまう。その場しのぎにすぎないが、騒ぎになるよりはマシじゃろ」


 ニヤリと笑うファルファーレ。シャーミアはそれに溜息で返すと、ルアトもずいっとその身を寄せてくる。


「僕も使ってますよ」

「え? あっ!?」


 見れば、彼の側頭部に生えていた翡翠の角が消えているではないか。どうしてここまで気がつかなかったのか。


「はあ……、やっぱり気がついてませんでしたか……」

「いつからよ?」

「集落に着いた時からです。結果ダクエルさんは良い人でしたが、念には念をということで」

「みんな使えるのね……」

「まあ、魔獣として生まれた時に最初に教えられる魔術がコレではありますね」


 魔術らしい魔術を習得していないシャーミアからすれば、少し羨ましいものではあったが、彼らからすれば死活問題なのだろう。

 知らない人間と会う時には必ずそうしなければならないのだから。


「……ちょっと、窮屈、よね」


 彼らの気持ちが分かるとは言えない。シャーミアは魔獣ではないから。

 それでも、自分らしく振る舞えないそのことを思うと、まるで自由に飛べない鳥みたいだと思えてしまう。


 ――魔獣にも、魔獣の苦悩がある、か。


 そんな考えが浮かんできたところで、ダクエルが呼ぶ声が響いた。


「ちょうど馬車が来るようだ。それに乗るとしよう」


 彼女に導かれるように、やってきた馬車に乗り込む一行。全員が乗り込むとすぐに馬車は出発した。

 まだまだ魔獣について、何も知らない、と。シャーミアは一人ぼんやりと、流れていく景色を見ながらそんなことを思うのだった。

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