ナイガル村とライカンスロープ⑤
ガラの悪い口調に話し方も高圧的な男の声に振り返ると、村の入口に三人組の姿が映る。
一人は汚れ一つない白の礼服を身に纏った声の主で、容姿はと言えばそれなりに整っていた。帽子から覗く金髪は両サイドでカールが掛かっており、一定の美意識のようなものが見て取れる。
装飾まみれのベルトには剣が収まっていて、靴からその帽子までとにかく煌めかせて威嚇したいのかもしれなかった。
そしてその男から一歩退いた位置に立つ二人。彼らは鉄の甲冑を身に纏っていて、頭部はヘルムで覆われているため容姿までは分からない。だが、背格好や立ち振る舞いから男性だと判断できた。
そんな来訪者に村長が歩み寄っていく。
「はて、お前さん方。この村に何か用か?」
村長にも心当たりはないようだったが、それを聞いた三人組の一人、またも金髪の男が唾を飛ばす。
「何か用か、じゃねえよ! あんたが依頼をくれたんだろ!?」
「依頼……?」
「ま・じゅ・う! 討伐の依頼だ! ボケてんじゃねえよ!」
厳めしい目つきで村長を睨みつけるものの、対する村長は平然としている。というよりも、彼が何を言っているのか分かっていないという風に首を傾げた。
「そりゃおかしいのう。ワシが依頼した警備隊ならもうここにおるが」
村長の紹介にシリウスは悠然とした態度で返し、それに対して男は開いた口を防げない。
「紹介に預かった、名はシリウスという。実は余たちは魔獣討伐に来たわけではなくてな。調査でここへ来た」
「なんじゃ、そうじゃったか」
そう言って村長が笑うと、村人たちも同様に笑顔を見せる。朗らかなムードに包まれるものの、男はまたもそれを搔き消した。
「いや笑い事じゃねえだろ!? 俺たちが何しに来たと思ってるんだ!? あんたらが魔獣討伐しに来たんじゃねえなら、肝心の魔獣はどうしたんだよ!」
「魔獣なら、ここにおるが」
村長が指を差すその先。
オオカミの魔獣がその大きな体を揺らし、男たちを見やる。
「ひっ――」
その視線は、決して冷酷なものでも敵意を含んでもいなかったが、もしかすると魔獣を見ただけで怖気づいたのかもしれない。
「おい! あんたら魔獣が怖くないのか!?」
「怖くないと言えばウソになるが、この子はイイ子じゃよ」
「騙されてたらどうする!」
「その流れワシがもうやったぞ?」
「いや流れってなんだよ!?」
汚れ一つない礼服のことなど気にも留めていない様子で、彼は膝から崩れ落ちた。しかしすぐに村長へと再び視線を向ける。
「じゃあ魔獣討伐の依頼は……!?」
「すまんの。もう魔獣について頭を悩ませることはなくなった。今回の依頼は取り消しじゃ。なに、金ならちゃんと払う」
「いやいや、その魔獣どうするんだよ!」
そう指を差す男にシリウスが応じる。
「此奴は余が預かる。村長にも承諾は貰っておる」
シリウスが呼ぶとリュオンは村民の輪から抜け出てきて、目の前の三人組と相対する。その体格差に加えて、男たちが竦んでしまっているので、よりその三人組が小さく見えた。
そんなリュオンの影から、ひょこりとシリウスは顔を出す。
「どうしても討伐するのなら、止めはせぬが……」
リュオンを肘でつつく。彼女もそれに気が付いたようで、横目でシリウスをちらりと見てから小さく頷いた。
「――お主らには少し荷が重いかもしれぬな」
それを合図として、リュオンが空に向かって咆哮を上げた。
「ウガアアアアアアアアア!!」
周囲にいた小鳥たちが飛び立ち、僅かに地鳴りが響く。恐らく本気の咆哮でもないだろうが、それだけで彼らの心を折るのには十分すぎたようだった。
「ひえええええええええ!!」
「あ! バージャーさん! 待ってください!」
バージャーと呼ばれた金髪の男は一目散に逃げだして、それを甲冑を着た男二人が慌ただしく追い掛ける。
一転、賑やかだった空間には急に静寂が訪れる。
ともあれ、これで憂いなくこの村から立ち去ることができるだろう。シリウスは三人組が立ち去った方角から振り返り、村長と村人たちへと向き直る。
「というわけで、随分お騒がせした。余たちはこれにて村から離れようと思う」
「ああ。こちらこそ、すまなかったのう。これは奴らに渡すはずじゃった依頼料じゃ」
「いや、これは受け取れぬ」
「いいから受け取れ。元より、払うつもりじゃった」
半ば強引に、小さな包みを握らされる。ずっしりと重いそれには、確かにこの世界の共通硬貨が入っていた。
「貰っときなさいよ。お金はいくらあっても良いんだし」
「……シャーミアの言う通りか。では、ありがたく頂戴しよう」
貰った硬貨を懐にしまうと、そのままリュオンと視線を交わした。そして、彼女の背をポンと叩く。
「すまぬな。嫌な役回りをさせてしまった」
「いや、大丈夫だよ。アタイも好きでやったことだからね」
ニヤリと意地悪く笑うリュオン。中々逞しい性格をしている。これならシリウスがわざわざ連れ出してやる必要はないだろうが、そこは彼女の意志次第だろう。
「確認になるが、余たちは今からこの村近辺より離れる。お主を連れてだ。それでいいか?」
リュオンは眉を顰めて、ほんの少し後ろを振り返る。その瞳に映るのはこの村の住人。彼女はそれを見て、ゆるゆると首を振った。
「アタイがこの辺りにいたら、迷惑を掛けるからね」
「そうか。安心しろ。お主をこれから連れていく先も、悪くない場所と聞く」
少なくとも、食べるものがなくて困るような状況にはならないはずだ。シリウスも言伝でしか聞いていないが、人間から襲われる心配のない場所だと聞いている。
きっとリュオンも気に入ることだろう。
「では、世話になったな」
「ああ。……ちなみに何処へ向かうんじゃ? ここからじゃと馬車を使わんとろくに山越えもできんと思うが……」
カルキノス国から出るためには山を越えなければならない。山を掘って作られたトンネルなどあるはずもない。
通常ならば馬車を使うことになるが、しかしシリウスは首を横に振った。
「心配には及ばぬ。余たちが目指すのは山間にある場所。――そこは星待ちの寺院と呼ばれておってな。そこにおる、元勇者に会いに行く」
彼女は誰にも気づかれないほどに少しだけ気分を弾ませて、そう言うのだった。
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