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魔王の娘  作者: 秋草
第1.5章 星の寄る辺とネフリティス
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ナイガル村とライカンスロープ④

 朝いちばんに、シリウスとシャーミア、そしてオオカミの魔獣、リュオンは村を訪れていた。

 理由は明白。村の人間に納得してもらうため。

 魔獣側からの説明があれば、あの村長も理解を示してくれるはずだ。そう息巻いて、半ば緊張していた魔獣だったが――


「随分と大きいのねえ」

「こんなに間近で魔獣なんて初めて見たのう」


 そんなリュオンは村長が来るまでの間に、村人たちに取り囲まれていた。

 元々村長以外の村民に敵意はないようで、それに加えて人の言葉を話せるともなれば、少し好奇心がある者ならば、こうして話しかけてくれる。

 こんな経験もないのか、リュオンはオロオロと困ったように視線を泳がせていた。


「こら! 魔獣は危ない存在じゃと、何度言えば分かる!」


 そうしていると、聞き覚えのある怒鳴り声と共に、一人の老翁が杖を突いて近づいてくる。


「でも良い子そうよ?」

「騙しておるに決まっておる! まんまと絆されおってからに!」


 怒りと悲しみを纏いながら、村長は一歩魔獣へと近寄った。

 彼女と視線が交錯する。


「よく人前に姿を現せたな、魔獣め」

「……その、すみませんでした。村の人たちを怖がらせてしまったようで」

「――」


 面食らったように、村長はその双眸を見開いた。

 まさか謝罪されるとも思っていなかったのだろう。準備していたであろう言葉が使えなくなった様子で、慌ててそれに対して言い返す。


「そんな謝罪いらんわ! どうせ、下手に出て油断したところを食うつもりじゃろう!」

「そんなことしません! お腹が減っていたのは事実で、この村の近くに住む小型の獣を狩ってました。でも、人間は襲うつもりはありません!」

「小型の動物など、そこらの森にもいくらでもおるじゃろう! 何故わざわざ村の近くに来る?」

「それは――」


 続けてリュオンが説明をしようとしたが、シリウスがそれを制する。このまま彼女に話してもらってもいいのだが、そもそも魔獣の話に耳を貸さないかもしれない。代わりに見た目が人間である者から説明した方がまだ話を聞いてくれるかもしれなかった。


「リュオン、続きは余が話す。……時に村長、カルキノスフェーレスという小型動物を知っておるか?」

「なんじゃ急に。もちろん、知っておるとも。この辺におるヤマネコじゃろう? ワシらの家畜や農作物を襲う害獣じゃ!」

「最近、それらを見た憶えはあるか?」


 そう問われ、村長はしばしの思案。それからすぐに首をゆっくりと横に振ってみせた。


「そういえば見かけなくなったな」

「そうだろう。それは、このライカンスロープなる魔獣が狩っておったからだ」


 ざわざわ、と。村人たちが密めきあう。驚く者、納得する者様々だが、文句を言う者はその中にはいなかった。


「元々、ライカンスロ―プの主食は魔獣だ。小型の魔獣だがな。本来その餌となる魔獣は森に生息しておるのだがここ最近、その数を減らしておる。――魔獣狩りの影響でな」

「――!!」


 つまり人間たちの影響で、この大型の魔獣が人里にまで姿を現すことになってしまったのだと、シリウスはそう伝える。

 村長は口を開けたり閉じたりと、何かを言いたそうにしていて、苦し紛れに言葉を零す。


「……じゃが、魔獣は――」

「村長。この子は何も悪くないじゃないか」

「そうよ。誰かが襲われたわけじゃないんだもの。それどころか、あのヤマネコを狩ってくれてたんだから」


 それら意見を皮切りに村長を説得、もとい魔獣を庇う声が村人たちから上がる。

 元々あまり魔獣に対して恐怖心もなかったことが幸いしてか、村長以外の人物は彼女に対して好意的だ。

 それを受けてさすがの村長も折れたのか、わざとらしく大きな溜息を漏らした。


「……分かった分かった。ワシも意固地になっておった。リュオンとやら、何も知らずに悪い奴だと決めつけて、悪かったのう」

「――! そんな、村長は悪くありません! 元はと言えば迂闊に人里まで降りてきたアタイが悪いんだし……」

「いいや。誰がなんと言おうとワシが悪い! これだけは認めん!」


 そう言って、村人たちとリュオンが打ち解けていく。

 それを見ていたシャーミアが少し嬉しそうに、隣に立つシリウスへと話しかける。


「良かったわね。まさか、こんなに上手くいくなんて思わなかったけど」

「互いに会話が成り立つなら、こういった結末も迎えられるということだ。どうだ? 魔獣について、多少は考えも変わったか?」

「……そうね」


 彼女の瞳が目の前の光景へと向けられる。

 そこには仲睦まじく会話する獣と人の姿。気恥ずかしそうに照れた顔を見せるリュオンに、ニコニコと笑顔を見せる村人たち。

 そこには、魔獣や人間の垣根など見られなかった。


「少なくとも、リュオンはイイ奴だってことは、分かったわ」

「素直ではないな」


 だが、今はそれでいい。多少彼女の中で、魔獣についての認識が変わってくれたのなら、シリウスにとって嬉しいことはない。

 シリウスから見ても平和だと思えるその景色は、しかし唐突に現れた人物たちに打ち切られてしまう。


「おいおい! どうなってんだこりゃ?」

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