表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘  作者: 秋草
第1章 未来拒絶のクアドログラム
36/262

VSカルキノス第三憲兵隊⑥

闇拭う(ルミナ=)希望の恩恵(グロウクス)!」


 エリスの頭上に現れる光の球。眩しく辺りを包み、視界を奪う闇を消し去る。

 これでカランも相手の姿が見えるだろう。五分間の暗闇を味方につけるつもりだったのかもしれないが、エリスの思考はすぐに侵入者の意図を看破していた。

 そう、思っていた。


「エリスちゃん!」

「――っ!?」


 闇が晴れるのと、カランが叫んだのはほぼ同時。

 侵入者の姿がこちらへと駆けてきていた。狙いが自分自身であることに驚きはしたものの、しかし彼女との間には距離がある。


 余裕を持って回避行動に移ることができるし、魔術による迎撃を行う選択肢だってある。

 エリスは手に持つ杖を構え直そうとして、気がつく。


(――体が、動かない――っ!?)


 咄嗟に、視線を足元に落とす。

 頭上の光源が作り出す黒い水たまり。地面には濃い影が映し出されていて、そこには二又に別れた黒い短剣が刺さっていた。


(いつの間に……? いや――)


 相手の行動を見逃した時は、あの暗くなった一瞬。その隙に投げていたのか。

 もしかしたら、相手は初めからそのつもりだったのかもしれなかった。


(周囲が暗くなったタイミングで、私の足元に既にこれを投げていた? 私が明るくすることを見越して……?)


 脳内を推測が駆け巡るが、今は目の前の対処が先決。魔術の取り消しに特殊な行動は不要だ。ただ魔力の放出を止めればいいだけ。

 エリスが頭上の光の球への魔力供給を止めると、周囲に再び影が降りる。

 体の自由が戻ったのと、彼女の攻撃が来たのは同時だった。


「くっ――」


 思わず身構えて目を瞑る。短剣による一撃を警戒したが、訪れたのは意外な結果だった。


「――っ!」


 侵入者はエリスの持つ杖を蹴り上げて、遥か遠くへと飛ばす。その後の追撃は特に行われない。


(彼女の狙いは――)


 魔術師の無力化。その後に移される行動は、ある程度分かる。


『――カラン隊長!』

『――ああ! 分かってる!』


 その呼応の後、すぐに短剣と大剣とが弾き合い、一瞬火花が生じる。

 暗闇はお互いに有利に作用しない。相手にとっても不利であり、当然カランにとっても益はない。


 つまり単純に実力勝負となっていた。本来ならばすぐさま自分も杖を探しに行かなければならないが、目を離した瞬間に勝負が決してしまいそうで、エリスの足は竦んでしまっていた。

 彼女は手数でカランを押し込む。カランも大剣で防ぎつつ、躱せる時にはその身をよじって回避する。


 侵入者が僅かにその身を屈ませる。その後、足に力を込めて一気に距離を詰めた。と、同時に短剣による斬撃。これをカランは大剣で防ぐ。


 彼女の体は宙へと跳ねる。カランのちょうど頭上を越えるように飛び、その身を回転させることで次の斬撃へと移った。


 カランはこれも大剣で防御。そのまま彼女の身が彼の背後を取る。

 着地した侵入者は即座に地面を蹴り上げた。反撃の隙すら与えないほどの初速。大剣での防御も間に合わない。

 しかし、回避なら――


「――っ」


 カランはその身を真横に逸らし、回避行動を取る。

 彼女の斬撃は空を斬った。

 その、はずだった――


「ぐっ――!?」


 斬撃が。

 彼の腕を鋭く断っていた。


「な、何が――」


 飛び散る鮮血にも、襲い来る痛みにも、我が身を離れていく腕にも意識を向けず、カランは着地した彼女の足元を見た。

 その踵から延びる、二又の黒く妖しく光る短剣を。


「――やられたね」


 彼は言いながら片腕で袖を破り、口と片腕で器用に傷口を縛る。闇に目が慣れてきた中で、エリスは呆然とただその姿を眺める。

 そうすることしか、できなかった。


『――このままじゃ戦えない。撤退だ』

『――』

『――エリスちゃん?』


 呼び掛けに、応じられない。考えがまとまらなかった。

 自分の油断が、カランの負傷を招いた。もっと正しく判断できていれば、こんな結果にはなっていなかっただろう。

 浮かんで消えるのは自責の念ばかり。


 ――自分が、杖を使用せずに魔術を使えたなら。


 後悔が、エリスの胸を満たす。


「――っ」


 仮面から覗くその紅い瞳。妖しく眩しく、綺麗なその目には、何が映っていたのだろう。

 遠くからは花火の音が轟く。花火による光は中庭に位置するここだと視認できないが、その音だけがやきにうるさく、自らの鼓動の音と重なった。


『――……さい』

『――?』


 魔術が制御できないから。自らがまだまだ未熟だから。だから仲間が傷つくし、自分が弱いまま終わってしまう。こんなことではウェゼンの弟子を名乗る資格はない。


 ――少しでも、一矢報いたい。


「もう少しだけ、付き合ってください」


 自然と、出た言葉だった。

 カランが息を呑む音は聞こえたが、しかしすぐに吐いた溜息は了承の意味を含んでいた。


「分かった。暗闇が晴れるまで、付き合ってあげよう。というか、それ以上だと俺が死ぬ」


 カランが大剣を構える。

 魔術の暴発は仕方ない。威力を絞り、対象に向かわせる。


 ――絶対に、カラン隊長には当てないように。


 エリスは息を吸い、そして大声で叫ぶ。


光輝微睡む(ケラヴィノス)白日の明滅(=ターミガン)!」

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ