表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
324/326

腥風乱れて因果吹く

「ああっ? んな馬鹿な!?」


 星々が降り注ぐ、そんな詩的な感想が浮かぶような、幽玄な暮夜に似つかない怒鳴り声が渡った。

 笠を被った、着流しを纏う痩せた男は、夜空に向かって睨みを利かせる。

明るい月が地上を照らす。曝すのは、瘦せこけた頬とぎらつく双眸。そして、周囲に広がる、赤、紅、朱――

 噎せ返るような鉄の臭いが充満するその庭で、男はただ一人空を見上げて立ち尽くしていた。


「どうしたんだよ兄貴。急に叫ぶなんてさ」


 屋敷の中からの呑気な声に、男は振り返る。血で染まった廊下を渡り、一頭の獣が月光にその身を映していた。

 それは確かに獣だ。茶色の毛に長い尾。鼻や耳はイタチそのもの。だが、二足で立ちながらまるで人間の手のように器用に鎌を携える様は、さながら獣人のようだった。


「……カザツグが死んだ」


「は?」


 それまで上機嫌だった獣も、信じられないといった顔で固まった。その手に持っていた血塗られた鎌が零れ、静寂に乾いた音が鳴り響いた。


「う、嘘だよな? つまんねえ嘘だぜ、兄貴」


「おれっちがよお、こんな下らねえ嘘吐くとでも思ってんのか? あ?」


「そ、そりゃあ……」


 男に気圧されて後退る獣の尾は、震えて逆立っている。陰鬱とした空気を食らうような、怒気が一帯に溢れ出していた。

 まるで、嵐の最中にでも放り込まれたかのようだ。

 声を出しても意味を成さない。足掻いたところで否定される。

 呼吸の音すら許されない。生きる気配が黙殺される空間に、一つ、風が吹いた。


「ようやく捕らえたぞ!! この人殺し共め!!」


 威勢のいい声と共に飛び込んできたのは、月より激しい明かりの炎。それら松明を掲げる男たちが、ぞろぞろと玄関口の方向から現れた。


「……なんだてめえら」


 揺蕩う声に、含まれる先ほどの怒気は僅か。鳴り止んだいつ爆発するかもわからない暴風に、気付かない声が喧しく喚き嘶いた。


「通報を受けて招集された対妖討伐隊だ! 最近、この辺りにも妖の気配が濃く出ていたからな! その時のために腕利きの人間たちを集めておいたのだ。まさか、こんな堂々と人間を殺すとはな!」


 敵意と嫌悪を声にぶつける男が、ゆっくりと刀を抜く。それに呼応して、他の男たちも得物を構えた。炎にぬらめく白刃が、一斉に着流しの男へと向けられる。

 そんな中を縫うように、一人の男が歩いてきた。刀を構える人々が道を譲り、現れたのは大男。まるで岩のようなその大男が角ばった顎を撫でながら不敵に笑う。


「てめえのことは、知ってるぜ? カマイタチのフウマ家。その長男であるイヅナだろ。最近、大人しくしてたみてえだが、また派手にやりやがったもんだ」


「……おれっちはテメエのことなんざ知らねえな」


「ふん。なら嫌でも覚えさせてやるぜ。もっとも、だ。憶えたところで無駄だろうぜ? 何せ、今日でてめえは成仏するんだからよ!」


 大男が土を鳴らす。踏み込んだ衝撃で地響きが空を走り、まるで花火が上がったかのような音を、夜に混ぜた。


「悪党なんざに名乗る名はねえが、知らねえまんま死ぬのも憐れだ。精々地獄で言いふらせや。わいの名前はミクサ=ツワブキ。クザクラ将軍の任により、狂う妖を罰する役目を頂戴した、『七曜刃』の折神憑きだ!」


 重苦しい害意が膨れ上がる。未だ構える様子を見せない、イヅナに向かって、ツワブキと名乗る男は刀に手を添え咆哮を上げる。


「素知らぬ顔して面構え。身動ぎ妙技がなんのその。石上三年、疫浄無限。悪業万災喰らわせたまえ!」


 宵闇を切り裂く大音声。ツワブキが、握る刀を勢いよく引き抜いた――


刀霊解放(とうりょうかいほう)――」


「させねえよ」


 風が、吹いた。

 つまらなさそうな声と共に流れていったその風は、ツワブキの脇を通り抜け、そして刀を構える男たちを、するりするりと駆けていく。

 気が付けば、イヅナが庭を出て屋敷の玄関口に到達していた。


「……なんだ、大したことねえな」


 そう、落胆の言葉がそよいだ瞬間。

 空間が鮮血に染められた。間欠泉の如く飛沫を上げるその液体が、夜に流れていく。

 悲鳴はない。呻くことすら許されない。彼ら血気に溢れた男たちは、何が起きたのかもわからないまま、別たれた首と共に、地面へと崩れていく。

 血溜りに沈んでいく人だったモノ。不快な音を立て終えたそれらを一瞥して、痩せた男は歩き始める。

 後に残るのは、燃える松明のみ。


「どこ行くんだよ、兄貴!」


「……決まってんだろ」


 声が歪んで響いたようだった。どこまでも深く、そしてどこまでもわかりやすいそれは。

 明確な、憎悪。


「弔い合戦だ。カザツグをやったヤツは風が教えてくれる。あとは今みてえに、首を刎ねりゃあいい。行くぞ」


 一際強く、さらう風が吹いて。

 イヅナたちの姿は闇夜に消えた。

お読みいただきありがとうございました!


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!


していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ