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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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止む風の残影

「へェ、そんな大変なことになってたんだねィ。ふわあ……」


 まるで他人事かのようにそう呑気なことを言いながら、顎が外れるほどの大きな欠伸をかますアセビ。その弛緩した空気に呆れるような寧ろありがたいような、微妙な感情のせめぎ合いを顔に出して、シャーミアは溜息を吐く。


「本当よ。()()()()()、いつまでも寝てなかったらもっと早く対処できたかもね」


「ガハハハッ、俺ァ何もできねェよ。事実、俺がいなくても事態は収束したじゃねェか。こんなおじさんのことなんて、気にかけてくれなくてもいいんだぜィ?」


「気にかけてるんじゃなくて起きて手伝えって言ってんのよ」


 まったく、この酒呑みはどれだけやる気がないのだろうか。煌々と柔らかい灯りが汽車内を照らす中、アセビはふっと、暖かい眼差しを向けてくる。


「でもよォ、ちゃんと成し遂げたんだろ? バルダルさんの護衛の依頼は」


「それはそうだけど」


「なら、それでいいじゃねェの」


 確かに結果としては問題ないのかもしれないが、どうにも釈然としない。アセビが何もしたくないだけではないか、と。そう思いながらまた溜息を吐いたタイミングで、客車内の扉が開いた。


「おう。全員揃ってるな」


 いつも通りの、絵に描いたような不機嫌を顔に表しているバルダルが入ってきた。

 カザツグが消えてから数刻。汽車が発車するための準備は完了し、今はその発車を待っている状態だった。ようやく出発するのかと、続くバルダルの言葉を待つシャーミアたちだったが、彼が取った行動はまるで予期していないものだった。


「――すまんかった」


 神妙な面持ちで、頭を下げるバルダル。深々と、今なお頭を下げる彼からは、いつものような憮然とした雰囲気は感じ取れない。


「え……? き、急にどうしたんですの? とにかく頭を上げてくださいまし、バルダル様」


 慌ててその姿勢を止めさせようとするが、バルダルはそれに応じない。ぎこちない空気が漂う客室で、頭を下げたままポツリと言葉を漏らす。


「オレはずっと、オマエらをガキだなんだと言ってきた。本当に仕事を任せてもいいのかって、半信半疑でもあった。どうせ大した仕事もできやしねえ、ぼんくらなんじゃねえかって、思ってたんだ」


「随分辛口な評価ね」


 肩を竦めてわざとおどけてそう言ってみせるが、それにもバルダルは乗ってこない。彼がおもむろに上げた顔。その瞳に映るのは、確かに彩られた罪悪感だ。


「オマエらは、同胞を守ってくれた。あんな風を飛ばすようなバケモン相手に、勇敢に戦ってくれて、傷ついた仲間も癒してもらった。正直に言うとだな、オレが期待してた以上のことを、オマエらはやってくれたんだよ。感謝しかねえ。オマエらは、立派な戦士だ」


 しかし、罪悪感は確かにあるのだろうが、そこに重苦しい感じはしない。寧ろ晴れたような顔つきをみせる彼は、らしくない穏やかな表情を見せていた。


「だから、ってわけじゃねえけどよ。一言謝りたかったんだ。こんな言葉でこれまでの態度が許されるわけねえことぐらいわかってるけどよ。せめてもの償いだと思ってくれると、ありがてえ」


「……急にそんなこと言われても、調子狂うわね」


 いがみ合い、売り言葉に買い言葉でのやり取りぐらいしか、バルダルとはしてこなかったので、その急変した態度に戸惑ってしまう。


「なに照れてるんですか、シャーミア。らしくないですよ」


「別に照れてないわよ!」


 確かに褒められることにこそばゆさは覚えるが、ルアトの言うような照れ臭さは感じていない、決して。

 しかし、同時に清々しい思いであることも事実だ。肺に溜まった空気を吐き出すと、シャーミアはバルダルへと手を差し出した。


「じゃあ、これからもよろしく頼むわね」


「……ああ! もちろんだ!」


 差し出された手を、バルダルが勢いよく掴んだ。軽快な音が客室内に響き渡り、その力強さにシャーミアは苦笑する。


「それじゃあ、座って待っててくれや。すぐに汽車を出すからよ」


 見るからに上機嫌なバルダルを見送って、シャーミアは痺れる手をそっと下ろす。

 ともかく、これで一件落着だ。荒れていた風はすっかり止んで、窓の外は静かなモノだった。


「シャーミアちゃん。その扇、どうしたんだィ?」


「ん、ああ、これね」


 アセビの問いに、腰に納めていた扇を取り出し開いた。

 黒く、まるで飴のような美しい塗装の木骨に、開くと貼られた紙が目を惹いた。カザツグが持っている時は注視できていなかったが、貼られた黒い紙には黄金で彩られた三日月が中央に大きく描かれている。

 その力強い筆致には目を奪われるが、やがて静かにそれを閉じると、シャーミアはアセビへと微笑んだ。


「妖から貰ったのよ。元々は人間からの貰い物だって」


「……へェ。まァ、そういうこともあるのかもしんねェなァ」


 何やら含みのある言い方をしたが、彼はすぐにまた大きく口を開けて伸びをする。


「まあ、おじさんにゃあ関係ねェ話だねィ。どうだィ? 次男坊。起き抜けに一杯、付き合っちゃくれねェか?」


「ほんまに酒が好きなんじゃな、アセビさんは」


 困った様子で笑うジセイは、それでも乗り気な様子でアセビの対面に座って、酒を酌み交わし始める。

 また酒盛りだ。最早呆れてモノも言えないシャーミアは、リリアの隣へと腰掛けた。


「まったく、大人たちは良い気なもんね」


「ふふ、楽しいなら、それが一番ですわよ」


「リリアちゃんは相変わらず甘いわね」


 そうしていると、汽車が小さく揺れた。車輪が駆動し、窓から見える景色は横に流れ始める。

 窓に映った盛大に手を振るドワーフたちへ手を振り返すと、やがて汽車は明かりの乏しい夜へと溶けていくのだった。

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