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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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VSフウマ=カザツグ⑥

 翠の焔が火球となってカザツグへと吐き出された。触れれば魔力を食らいつくす魔消の火。彼が纏う風もたちどころに消えるだろう。

 それを理解しているカザツグに、易々とそれを受ける選択肢はない。

 迫り来る火球を駆け抜けて躱すと、走りながら纏う斬撃を、ルアトとジセイへと飛ばした。


「うおおっ――!!」


「ちゃんと、避けてくださいよ」


「わかっとる!」


 射出された四本の斬撃。それら全てを間一髪でジセイたちはすり抜けていく。切り裂く風の一太刀は、そのまま木々を薙ぎ払い轟音を生み出しながら消えた。


「――っ!!」


 カザツグの視線が逃げるジセイへと向けられている背後へ、シャーミアが迫る。首を狙い、構えた短剣を勢いよく振り降ろす――

 だが、荒れ狂う風がそれを許さない。


「つっ――」


 振り返らないまま、扇をシャーミアへと向けると白刃が二本、纏う風から飛び出した。それをギリギリで躱して、続けて迫る一撃も短剣で受け止めた。


「思ったよりも、前がかりじゃなかったか」


「……そう来ると思ってたのよ」


 重い一撃を短剣でいなして、無理やり距離を取らされる。厄介な斬撃だ。攻撃にも防御にも使える風が、今も二本彼の周りを舞っている。


「でも、あと二回しか防御できないでしょ?」


「そうだね。さすがにもうバレてるか」


 扇を構えながらカザツグもまた距離を取った。炎を吐くルアトと、シャーミア。それらに挟まれない位置を維持し続ける。


風前斬織(かざきり)は周囲に十の風を生み出す。切れ味の鋭い、斬撃の風だ。攻撃はもちろん、防御で受け太刀をすると一本消える」


 彼が有する力の説明は、シャーミアの予想通りだ。それに加えて――


「おまけに消費した風をまた追加することもできる、そうよね?」


「ご名答だよ。もっとも、ここまでやって生きてれば、気付くのは当たり前か」


 そう言うと、カザツグの周囲にあった風がジセイとシャーミアの元へと発射された。十分に距離もあり、なおかつ見えている時点で、それぞれ一本分ずつしか攻撃が来ない。わかっていれば簡単に避けられた。


「……何のつもり?」


「これでボクの風前斬織(かざきり)の残弾はゼロ。守るものはなくなった」


 降参するように彼は両手を上げる。正確には扇を扇ぐことによる突風があるはずだが、カザツグの言う通り彼の周囲を纏っていた斬撃は消えた。

 明確な攻撃のチャンス。しかし、この状況は先ほども見たものだ。

 やがて数秒後。何もなかった彼の周りに再び、十の風の軌跡が生み出された。


「残弾の再展開ね」


「そうだ。この風前斬織(かざきり)は残数がゼロにならないと再装填できなくてね。だから今も撃ち切った。加えて、この風を纏うのに数秒間の時間がかかる。明確な弱点だね」


「そんなこと言っちゃって良かったの? 次からその隙を狙って、アンタに攻撃するけど」


「言わなくたって勘付いてたんだろう? それがわからないほど、君たちは愚かじゃないはずだ」


「随分評価してくれるじゃない」


「まあね。風前斬織(かざきり)を出してここまで生き残った相手が久しぶりだから、もっと誇るといいよ」


 風がそよぐ。規律に沿って従順に、意志を持って愉しむように。


「それに、開示した理由は単純だ。君たちがボクの再装填の隙を突くことは、もうないからね」


 吹く風が、カザツグの背に集まり始める。魚群のように大きな流れを作り出すそれは、やがて渦を巻き、旋風を編み出した。

風前斬織(かざきり)遷陣(せんじん)旋風斬(せんぷうきり)―。全てを吸い込み、切り裂き荒れろ!」


 暴風が唸りを上げた。再び、旋風による吸い込みがシャーミアたちを襲う。


「そう何度も同じ手は――」


「食らわない。それはボクの台詞だ」


 余裕を見せるカザツグに疑問を抱くが、やることに変わりはない。シャーミアの目配せにルアトが頷くとそのまま翠の火球を繰り出した。

 初めに吐き出した火焔よりも規模は小さいが、それでも触れれば風は燃える。彼の防御は意味を成さない。


「これならどうかな!」


「――っ!」


 カザツグが勢いよく扇を扇いだ。生み出された突風は、そのまま迫る火球にぶつかり、爆発。吹き荒れる風は、緑の火と共に次第に霧散していった。


「思った通りだ」


「打ち消されたんか。じゃが風は燃やせるはずじゃろ?」


 違う。恐らくカザツグにはもうバレている。シャーミア同様、ルアトもそう感じたようだ。

 背負うジセイが上げた問いに、苦い顔をルアトは見せた。


「ボクの吐く火は、普通の炎の性質と違って、魔力以外を燃やさないんです。魔力の絡まない攻撃手段には、効き目がありません」


 風を纏うカザツグは爆風で乱れた衣服を再び正す。そうして、安堵の息を漏らした。


「あの時燃やしたのが、ボクが纏う風だけだった。まさかと思って試してみたけど、想定通りで良かったよ」


「……対処されるのは仕方ないわ。今はできることを、やるしかないんだから」


 風前斬織(かざきり)が甲高い音を鳴らし、吹く風を切り裂いている。あの防御を掻い潜りながら、辿り着けなければ、カザツグに刃は届かない。


「大丈夫よ、アンタの火がある限り、あたしたちの有利は続くんだから」


 だが炎だけでは勝てはしない。

 そんなことはわかっているからこそ、あとはシャーミア自身で彼に刃を突き立てるしかないのだ。

 再び燃え盛る翠の火球と共に。

 シャーミアもまた、短剣を構え駆け出した。

お読みいただきありがとうございました!


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