VSフウマ=カザツグ⑥
翠の焔が火球となってカザツグへと吐き出された。触れれば魔力を食らいつくす魔消の火。彼が纏う風もたちどころに消えるだろう。
それを理解しているカザツグに、易々とそれを受ける選択肢はない。
迫り来る火球を駆け抜けて躱すと、走りながら纏う斬撃を、ルアトとジセイへと飛ばした。
「うおおっ――!!」
「ちゃんと、避けてくださいよ」
「わかっとる!」
射出された四本の斬撃。それら全てを間一髪でジセイたちはすり抜けていく。切り裂く風の一太刀は、そのまま木々を薙ぎ払い轟音を生み出しながら消えた。
「――っ!!」
カザツグの視線が逃げるジセイへと向けられている背後へ、シャーミアが迫る。首を狙い、構えた短剣を勢いよく振り降ろす――
だが、荒れ狂う風がそれを許さない。
「つっ――」
振り返らないまま、扇をシャーミアへと向けると白刃が二本、纏う風から飛び出した。それをギリギリで躱して、続けて迫る一撃も短剣で受け止めた。
「思ったよりも、前がかりじゃなかったか」
「……そう来ると思ってたのよ」
重い一撃を短剣でいなして、無理やり距離を取らされる。厄介な斬撃だ。攻撃にも防御にも使える風が、今も二本彼の周りを舞っている。
「でも、あと二回しか防御できないでしょ?」
「そうだね。さすがにもうバレてるか」
扇を構えながらカザツグもまた距離を取った。炎を吐くルアトと、シャーミア。それらに挟まれない位置を維持し続ける。
「風前斬織は周囲に十の風を生み出す。切れ味の鋭い、斬撃の風だ。攻撃はもちろん、防御で受け太刀をすると一本消える」
彼が有する力の説明は、シャーミアの予想通りだ。それに加えて――
「おまけに消費した風をまた追加することもできる、そうよね?」
「ご名答だよ。もっとも、ここまでやって生きてれば、気付くのは当たり前か」
そう言うと、カザツグの周囲にあった風がジセイとシャーミアの元へと発射された。十分に距離もあり、なおかつ見えている時点で、それぞれ一本分ずつしか攻撃が来ない。わかっていれば簡単に避けられた。
「……何のつもり?」
「これでボクの風前斬織の残弾はゼロ。守るものはなくなった」
降参するように彼は両手を上げる。正確には扇を扇ぐことによる突風があるはずだが、カザツグの言う通り彼の周囲を纏っていた斬撃は消えた。
明確な攻撃のチャンス。しかし、この状況は先ほども見たものだ。
やがて数秒後。何もなかった彼の周りに再び、十の風の軌跡が生み出された。
「残弾の再展開ね」
「そうだ。この風前斬織は残数がゼロにならないと再装填できなくてね。だから今も撃ち切った。加えて、この風を纏うのに数秒間の時間がかかる。明確な弱点だね」
「そんなこと言っちゃって良かったの? 次からその隙を狙って、アンタに攻撃するけど」
「言わなくたって勘付いてたんだろう? それがわからないほど、君たちは愚かじゃないはずだ」
「随分評価してくれるじゃない」
「まあね。風前斬織を出してここまで生き残った相手が久しぶりだから、もっと誇るといいよ」
風がそよぐ。規律に沿って従順に、意志を持って愉しむように。
「それに、開示した理由は単純だ。君たちがボクの再装填の隙を突くことは、もうないからね」
吹く風が、カザツグの背に集まり始める。魚群のように大きな流れを作り出すそれは、やがて渦を巻き、旋風を編み出した。
「風前斬織―遷陣、旋風斬―。全てを吸い込み、切り裂き荒れろ!」
暴風が唸りを上げた。再び、旋風による吸い込みがシャーミアたちを襲う。
「そう何度も同じ手は――」
「食らわない。それはボクの台詞だ」
余裕を見せるカザツグに疑問を抱くが、やることに変わりはない。シャーミアの目配せにルアトが頷くとそのまま翠の火球を繰り出した。
初めに吐き出した火焔よりも規模は小さいが、それでも触れれば風は燃える。彼の防御は意味を成さない。
「これならどうかな!」
「――っ!」
カザツグが勢いよく扇を扇いだ。生み出された突風は、そのまま迫る火球にぶつかり、爆発。吹き荒れる風は、緑の火と共に次第に霧散していった。
「思った通りだ」
「打ち消されたんか。じゃが風は燃やせるはずじゃろ?」
違う。恐らくカザツグにはもうバレている。シャーミア同様、ルアトもそう感じたようだ。
背負うジセイが上げた問いに、苦い顔をルアトは見せた。
「ボクの吐く火は、普通の炎の性質と違って、魔力以外を燃やさないんです。魔力の絡まない攻撃手段には、効き目がありません」
風を纏うカザツグは爆風で乱れた衣服を再び正す。そうして、安堵の息を漏らした。
「あの時燃やしたのが、ボクが纏う風だけだった。まさかと思って試してみたけど、想定通りで良かったよ」
「……対処されるのは仕方ないわ。今はできることを、やるしかないんだから」
風前斬織が甲高い音を鳴らし、吹く風を切り裂いている。あの防御を掻い潜りながら、辿り着けなければ、カザツグに刃は届かない。
「大丈夫よ、アンタの火がある限り、あたしたちの有利は続くんだから」
だが炎だけでは勝てはしない。
そんなことはわかっているからこそ、あとはシャーミア自身で彼に刃を突き立てるしかないのだ。
再び燃え盛る翠の火球と共に。
シャーミアもまた、短剣を構え駆け出した。
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