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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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VSフウマ=カザツグ⑤

「君の考えを否定するわけじゃない。そういう思考の人間がいることも、ボクは評価する。多分、もっと早くに出会えていたなら、話は違っていたと思う。けど、もう何もかもが手遅れだ」


 扇で隠れたカザツグの口元は、感情を正しく映さない。はずだが、月明かりを浴びる瞳は雄弁に語る。

 それは戸惑いか、諦観か、あるいは鬱積か。

 そこには、当初見せていた余裕の表情は窺えなかった。


「ボクたちは妖。ずっとそうやって生きてきたからね。何百年も、人と関わり、人を傷つけて生きたんだ。これがカマイタチにとっての当たり前。今さら誰に何を言われたところで、この風は止められないよ」


 声に俄かに色が付く。隠しているようにぼやけているが、そこに描かれるのは、確かな苦み。

 苦渋を舐めた音色が風に乗って、シャーミアたちの元へと届いていた。


「じゃけえ、言うたじゃろ。アイツは妖。人間とは違う。そもそもの土台が違えんじゃ。到底、相容れることはありゃせん」


「でも、同じ世界を生きてるわ」


「……そりゃあ、そうかもしれんが。シャーミアは妖の恐ろしさがわかっとらんからそう言える。人間とはそもそもの考え方が違うんじゃ。同じように考えとると、足元を掬われるけえ、説得は無駄じゃ」


 近寄ってきたジセイが、言いたいことはわかる。カザツグは人に危害を与える存在だ。それは恐らく、過去が証明してくれるのだろう。シャーミアが知らない時代から、ずっとそれを繰り返してきたに違いない。

 罪は償うべきだ。他者を悲しませたのなら、その百倍空いた穴を埋めるべきだ。

 その機会もまた、与えられるべきだと、シャーミアは思う。

 選択肢がなければその者は走り続けるしかない。導もない荒野をひたすら全力で駆け抜けるだけ。


 だが他に道があると知ったなら。きっとどこかで迷ってくれるだろう。

 それまで知らなかった道を、歩むきっかけとなるはずだ。

 シャーミアがそうだったように。


「ボクと君たちは敵同士だ。情はいらない。斬るか斬られるか。この場を決めるのはそれだけだよ」


「……そうね」


 相容れることはない、と。ジセイは言っていた。この世にはそういうものが多々ある。水と火、闇と光、それから勇者と魔王。

 果たして、妖と人間はそれと同じ関係か。どう転んでも修復不可能なのだろうか。シャーミアには、現状その答えを持ち合わせていなかった。


「構えなよ。その生温いことを言う口ごと、切り裂いてあげるから」


 戦いは避けられない。どちらかが動けなくなるまで、この争いは続くだろう。彼を宥める選択肢を、知らないシャーミアはそれに応じるしかなかった。


「ルアト。さっきのはなんじゃ? 翠の炎を吐き出しとったが」


「……あれは、魔力を掻き消す炎です。燃やすのは魔力で作られたモノだけ。他のモノは燃やせません」


「そうか、じゃけえ熱うなかったわけじゃ。じゃが――」


 ジセイは、そこで言葉を切った。息を切らした様子で膝をついているルアト。体力の消耗が激しいのだろうか。先ほどよりも憔悴しているように見えた。


「おい、ルアト。わしの背中使え。動くのも辛えじゃろ」


「……しかし、それでは――」


「つべこべ言わん。炎が吐けるおどれを、カザツグは狙うじゃろう。満足に動けんもんを守るなら、背中におぶる方がやりやすい」


「そう、ですね。わかりました」


 観念したルアトが、ジセイの背中に身を預ける。長身のルアトが、ちょうどジセイの肩から覗く形だ。


「悪かったわね。トドメさせなくて」


「……あのまま斬っていたら、僕は君を軽蔑していましたよ」


「そう。それじゃあ悪いけど、あと少し付き合ってよね。さっきの炎はまだ吐ける?」


「舐めないでください」


 返ってくるのはいつもの態度。それに少しだけホッとしたシャーミアは、眼前に佇むカザツグへと向き直る。


「一回アンタには痛い目を見てもらうから。それで自分がこれまでやって来たこと、過去のことを顧みることね」


「まだわかってないみたいだな。これは殺し合いだ。語るなら、言葉じゃなくて技でやり取りしよう。……それに、後悔した方がいい。君はボクを殺す機会を、さっき失ったんだから。あの時ボクの首を刎ねていれば、これから君が死ぬことはなかった」


 扇を構えて、カザツグもまた戦闘態勢に入った。いつでも、彼が纏う九つの風による刃を射出できる。


「――あたし、後悔するより前を向き続ける方が性に合ってるのよね」


 再び風が暴れ出す。鼓膜を切り裂く高音が、自由を掲げて唸りを上げる。立ち止まって、過去を振り返る時間などない。過ぎたことを悔やんだって、やり直せるわけではないのだから。

 だから、吹き荒れる風に、改めて立ち向かおう。


「――さあ、戦闘再開だ」

お読みいただきありがとうございました!


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