VSフウマ=カザツグ③
五つの風が舞っている。カザツグの周囲にいるそれらが、扇の指示に合わせて宙を踊り、シャーミアたちへと飛んでくる。
まずは三本。シャーミア、ルアト、ジセイへと先ほど同様にそれぞれ目掛けて、その首を狙う。
斬撃は一度弾いた。同じ行動を繰り返されても、全員が対処すればシャーミアたちが崩れる要因はない。
ならば何か狙いがあると考えるのが自然だ。このまま無策に風を飛ばせば、残数に限りがあるカザツグが明確に不利になる。
続く追撃を意識しながら、シャーミアが迫り来る斬撃に対処する。短剣を構えて防ぐと、耳障りな金属音が響き渡った。
「――っ」
相変わらず重い一撃だ。だが、防ぎきれないほどではない。真正面から受けるのではなく、流すように受けきると、さらに目前に白刃が肉薄していた。
「やっぱりね――」
予想していた通りだ。絶え間なく続く攻撃で、誰か一人が崩れるのを期待しているようだった。だが問題ない。受けられない攻撃ではない。シャーミアは続けて放たれた一撃も短剣で受け止める。
「これで、風はないわね――っ」
斬撃を弾くと同時にルアトの方を見る。彼の元へも二本目が到達しており、それを躱したところのようだった。
「おどれを守るもんもないなったのお!」
唯一、二本目の斬撃を受けていないジセイが一足早く飛び込んだ。そしてカザツグへと刀を振るう。
さらにルアトも躱した流れでジセイへと続いていた。挟撃する形だ。ジセイの一撃の方が早いと言えど、仮に彼の攻撃を躱してもルアトが控えている。
シャーミアも短剣を構え直して彼らに続こうとした。
「甘いよ」
その場にはそぐわない、軽やかな声。なおも余裕の表情を崩さないカザツグが、開いた扇で舞うようにして扇ぐ。
迫るジセイへと、扇を一振り。
それだけで堪え切れないほどの突風が生み出される。
「ぐっ――」
ジセイの鍛えられた体であろうとも、その自然の力には抗えない。突き立てる刃と共に、彼の身は遥か後方へと引き剥がされる。
「風前斬織の総数がなくなっても、ボク自身が戦える。風に隙はないんだよ」
「ですが、これでその防御手段もなくなりました」
ジセイを飛ばしたその背後。ルアトが駆け寄り蹴り上げる。避けられない間合いだ。既にルアトは地面を踏み締め、振るう脚に力を乗せている。
扇を扇ぐ暇もなく、その一撃が直撃する、はずだった。
「――時間だね」
「なっ――!?」
白刃が、ルアトの体に線を刻む。胴に迫ったその斬撃は、ルアトの腹部を切り裂いて、鮮やかな血を夜に散らした。
「ルアト――っ」
白刃による一閃を食らったが、彼の体は倒れない。そのまま一足で後退すると、着地と同時に膝を折った。
「カウンター、ですか? まんまとハマってしまいましたね……」
乱れた呼吸と共に、悔しそうな声を上げる。斬られた腹部からは今もなお血が流れ出ており、致命傷ではないものの動けなくなるのも時間の問題だろう。
「おお、真っ二つにするつもりだったんだけど、存外硬いね。……でも、もう潮時じゃないかい? その傷じゃまともに動けないだろ」
カザツグの声が響く。憎らしい笑みがさらに濃くなっている。当然だ。一人は最早万全とは言えない状態にまで追い込んだ。それに、また彼の周りに舞う風が復活している。総数は九本だ。
「どうだい? 信頼できる仲間が一人ずつやられていく気分は?」
会話の余裕すらあるのか。シャーミアを見るその瞳には、狂喜と期待が滲んでいる。先ほど発した言葉への意趣返しだろう。意外と執念深いタイプなのかもしれない。
「そうね。最悪の気分だわ」
だから、吐き捨てるようにそう告げる。カザツグが勝ちを確信していることも、仲間がもう戦えないと思われていることも。
「確かにアンタの厄介さは認めるわよ。纏う風は囮だった。あからさまな攻撃回数をちらつかせて、隙になると思わせることが目的よね。本命は、その後のカウンターだったんだから。随分、手慣れてるじゃない」
風の残弾がなくなれば、カザツグの防御手段はその扇だけになる。三人いれば、その防御手段も手数で搔い潜れるだろう。誰もがその隙を突く。そうなるように立ち回るはずだ。
だが実際は、その隙を突いてくる者を狩る動きを、カザツグはしていたのだ。こちらの読みを、さらに読まれていたということになる。
「でも、最後に勝つのはあたしたちだから」
「思い上がりも甚だしいよ。人間如きが風を攻略できるわけがない」
「どっちが思い上がってるか、教えてあげるわよ」
飛ばされたジセイも再び戻ってきた。丈夫なその体には、切り傷の一つもない。どうやら彼に放った突風は、距離を離すためのものらしかった。
「シャーミア」
乱れていた呼吸が、和らいでいた。まだ声は荒れているようだったが、それでもその声音は落ち着いている。
「何よ?」
膝を折るルアトが立ち上がる。力を籠めたせいで痛ましい紅が飛沫を上げたが、シャーミアの目はただ彼の強く光る瞳を見つめていた。
「――僕の考えに、少し乗ってくれませんか?」
お読みいただきありがとうございました!
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!




