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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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VSフウマ=カザツグ②

「なんでアンタは人を斬るの?」


 扇を口元に充てる男は、目を細めながらその質問を受け止めた。


「何故、と言われてもね。逆に問うけど、君たちはモノで遊ぶときに、そのモノが可愛そうだとか憐れだと感じたことはあるのかな?」


「……感覚の違いね」


「まあ、そういうことさ。納得してくれたなら、大人しく斬られてくれるかい?」


 轟々と風が互いをぶつけ合う乱気が、耳にうるさい。しかし不思議と声は届く。その言葉に含まれる、純粋な悪意も、悪びれることのない欲求も、何もかもが風に乗る。飛んできた枝を短剣で払うと、シャーミアは視線を風の中心で笑うカザツグへと射した。


「そんなわけないでしょ。次に斬られるのは、アンタだから」


「面白い。やってみなよ、風に及ばない人間共!!」


 カザツグの咆哮と共に、自由に飛び交っていた風が途端に消える。しん、と。深い静寂が空間に蘇り、不気味な気配だけが残り続けている。


「――風前斬織(かざきり)


 波立たぬ水面に、一滴の言葉が落ちた。波紋が広がるように、無音だったものが変質し、ぼやけて波打つ。

 木々のざわめきも、それに続く。思い出したかのように擦れた葉の囁きは次第に音を大きく鳴らし、一陣の風をカザツグへともたらした。

 轟、と。まるで鞭をしならせたような音が響く。

 一度ではない。二度三度。呼び込まれる風が十度、それを鳴らすと、カザツグの周囲一帯を取り巻き始め、しなる風が渦巻いた。


「何あれ?」


「さあ。ですが先ほどとは様子が違う気がしますね」


 まるで彼を守るようだ。時折白刃のように煌めく風の軌跡が十、カザツグに纏わりついている。

 迂闊に近づくことも躊躇われる中、カザツグが折り畳んだ扇を差す。眼前へ。さながら兵を指揮する将のように。

 瞬間、風の一つが飛び出した。


「――っ!?」


 真っ直ぐに、ルアトの方へと向かうそれは、横たわる静寂を切り裂き進む。

 だが躱せない速度ではない。斬り上げる斬撃のように射出された風を、跳躍して避ける。


「ルアト――っ」


「なっ――」


 躱した先にも、斬撃が迫っていた。空中で身動きの取れないまま、咄嗟に腕を構えて唸りを上げながら飛来する風撃を受ける。


「――、ぐっ……」


 耳障りな擦過音が響く。およそ風では生み出せないその音がもたらしたのは、切り裂く一撃。衝撃で吹き飛ばされながらも、バランスを立て直したルアトは砂煙を上げながら着地した。


「大丈夫か!?」


 ジセイの呼び掛けに、荒い呼吸が返ってくる。シャーミアも視線を向けると、月が下ろす光に、鮮やかな紅が滲んでいた。


「大丈夫、ですが……、油断しましたね」


 ルアトの体を守った腕に、大きな裂き傷が浮かんでいた。血を撒き散らしながら骨まで到達しているその苦痛から、シャーミアは目を逸らす。


「アンタは休んでていいわよ。こいつの相手は、あたしとジセイでするから」


「ご冗談を。僕もまだ戦えますよ」


「でも――」


 いつの間にか、まるで何事もなかったかのようにルアトが隣に立っている。未だ血は流れている。顔は苦痛で歪んでいる。しかし、彼の口元には穏やかな笑みが湛えられていた。


「大丈夫ですから。それよりも、僕の心配をしている場合じゃありませんよ」


 彼が向ける視線を追い掛ける。カザツグが再び、畳んだ扇を掲げていた。

 一度、二度、三度――。

 指揮棒を振るう指揮者のように軽く振った扇に呼ばれ、纏う風が三人に向かう。


「――っ」


 風を短剣で受け止め防ぐ。大剣を食らったかのような、重い一撃。硬質音が鼓膜を揺らし、手首から伝わる衝撃が全身を貫いた。その勢いのままにシャーミアの体は弾かれる。


「――はあ……っ」


 着地と同時に溜めた息を吐くと、改めて手首に残った痺れを実感した。

 グラフィアケーンの斬撃ほどの重さはない。あれは短剣を折るほどの暴力性があった。どちらかと言えばカルキノス第三憲兵隊隊長であったカランが放つ大剣。その一撃に等しい。防ぎ、流すことはできるものの、膂力ではそもそも敵わない。

 過去戦った時の状況を思い出し、カザツグの斬撃は受けられないとシャーミアは判断を下す。


「上手く躱すもんだね。正直自信がなくなってしまうよ」


「適当言わないで。アンタのその纏う風……、見たところあと五発残ってるそれ。全部使えば、誰か一人は仕留められたんじゃない?」


 言いながら、カザツグの周囲に飛び交う白い刃のような風を見やる。

 十あったはずのそれは、今や五本しか見えない。ルアトに向けて撃った最初の二発。そして先ほどそれぞれに撃った三発。合計すれば数が合う。あれは、カザツグの残り攻撃回数を表している。

 その飛び交う風を視認しながら問うシャーミアに、カザツグが眉を顰め、首を傾げた。


「それだとボクの防御手段がなくなるだろう? たった一人を討ち取るために、ボクが死んだら意味がない」


 そしてまた、彼は扇を構え直した。斬撃が、飛んでくる。

お読みいただきありがとうございました!


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