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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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VSフウマ=カザツグ

 カザツグを中心として、取り囲むように風が渦巻いている。木の葉や草が舞い上がり、風の動きを教えてくれる。しかし、見えない壁があるも同然。隙を伺いながら、短剣を構えた。

 段々と風が強くなってきている。動くなら早い方がいいだろう。


「来ないのなら、こっちから行くよ」


 彼が再び扇を振るう。その小さな扇を、横に優しく扇いだそれだけで、シャーミアへと突風が襲い掛かった。


「――っ!?」


 それは、まるで巨大な壁だった。あるいは岩か何かを投げられたかのようだった。巨大な質量の塊は、構えた短剣ごとその華奢な体を拭き飛ばす。


「く、マズ……っ」


 堪えきれずに宙に浮いた足は、最早踏ん張ることもできない。抵抗できないままに岩壁の向こう、口を開けて広がる黒い海にまで飛ばされそうになったが、咄嗟に一本の短剣を地面へと突き刺した。

 途端に、シャーミアの体は上空でピタリと静止。その後、思い出したかのようにその場へと着地した。


「へえ、面白い。飛ばないんだね」


「隙だらけじゃ、阿呆」


 二振りの刀を携え、眼前に躍り出るジセイ。そこは既に刀の間合い。突進する勢いのままに、ジセイが右腕を振り上げる。


「全然」


 刀が振り下ろされる直前、カザツグが扇を持つ手を軽く揺らした。

 それだけで、刀は弾かれる。


「風に隙なんてあるわけないだろ?」


「そのための二本目じゃ!」


 風による反撃は、ジセイにとって生温い。体勢を崩すことなく続けて、左腕を横に振るった。カザツグの胴を狙った一撃。風を切り裂き打ち込まれるその刀を見て、カザツグの表情は崩れない。


「懲りない人だ。何度やっても同じなのに」


 再度、扇を振るえばある程度の攻撃は薙ぎ払える。カザツグはその手に力を籠める――


「それなら三本目はどうでしょう?」


「――っ!?」


 突如、背後から飛んできた声にカザツグが振り向き、扇ぐ。作り出されたのは風斬る一太刀。風蠢く斬撃は間近に迫っていたルアトを切り裂き、彼の体をそのまま吹き飛ばしていった。


「ようやったルアトっ」


「なるほど」


 背後から届くのは、既に攻撃態勢に入っている男の声。

 咄嗟に放った一振りで、防御も到底間に合わない。勢い任せに薙がれた斬撃は、吹いていた風すら霧散させるほどの膂力で、カザツグに放たれた。


「……っ」


 鮮血が飛び散った。風に乗って辺りに紅い染みを作り上げたものの、その出血量は僅か。胸部にできた傷は、致命とまでは至ってないようだった。


「いいね。久しぶりに斬り甲斐のある相手だ。風も喜んでくれるだろうさ」


 そしてカザツグもまた、妖しい笑顔を残している。しかし警戒はそのままに、獲物を見るような鋭い目つきは、さらに険しく尖っていた。


「すまん。斬り損ねた」


「気にしないでください。風に乱されたんでしょう? 刀の流れは明らかに、直撃していましたから」


 斬撃を受けたはずのルアトが、胸元を抑えながらジセイの元へと近寄っていく。彼もまた深い傷ではないものの、血を流していた。加えて、ガラスのような破片が、歩く度に零れている。


「……じゃが、おどれも傷を――」


「心配は無用です。僕は人の体よりも数倍丈夫の、竜と人間との子ですから」


 言いながら、口元に着いた血跡を手で拭き取った。その言葉にジセイが目を丸くさせたが、すぐに景気よく笑い始める。


「そうか。竜神の加護がこっちについとる言うなら、負ける気がせんのお!」


「加護なんてものはありませんが、やる気になってくれたなら良かったです」


 士気は上がった。それはいい。だが、風は止まない。今なお強い陣風が木々をざわめかせている。


「ねえ、あたしも吹き飛ばされたんだけど?」


 平然とした様子で、戻ってくるシャーミアをルアトは一瞥。そしてニヤリと笑った。


「素晴らしい陽動でしたよ。もう一度お願いできますか?」


「嫌よ。次はアンタがやりなさいよね」


 揺れる髪を抑えながら、べっ、とシャーミアは舌を出す。とてもではないが、敵と相対している雰囲気ではない。戦闘中とは思えないその光景に、カザツグは訝しむように眉を顰めた。


「随分と余裕じゃないか。その理由はどこから来るんだい? あるいは、この状況を打開できる手立てでもあるのかな?」


「手立て? 別にそんなのないけど」


 涼しい顔でそう告げるシャーミアが、ルアトとジセイに確認の視線を向ける。二人とも何を言っているのかわからないといった表情で返して、肩を竦めた。


「なら、どうして――」


「簡単でしょ? 背中を預けられる仲間がいるからよ」


 カザツグが口を開いたまま固まった。そしてすぐに笑いだす。特段、変な言葉を発したつもりもないシャーミアが、今度は困惑する番だった。


「笑うところじゃないわよ」


「悪いね。ちょっと、真っ直ぐすぎてさ」


 くっくっと喉を鳴らして笑う彼は、歪めたその口元を隠すようにして、広げた扇を添える。


「少しだけ、君たちを見くびっていたようだ。これからは、全力で相手するよ」


 自由を喜ぶ風のように、玩具を見つけた子どものように、カザツグは一切の邪気もなく、そう声を漏らした。

お読みいただきありがとうございました!


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