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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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潮の風、夜月に停車

「おう、オマエらちょっと――、って、何やってんだ?」


 客室の扉を開けたバルダルが、不審げな表情で眉を顰めた。ジセイがふんぞり返っていて、全員がそれを眺めているこの状況は、確かに傍から見れば変かもしれない。


「面白え話を聞いとったんじゃ。バルダルさんも一緒に聞かんか?」


「なんだそりゃ? 言っとくがオレぁ仕事以外興味もねえもんでな」


 肩を竦めながら、彼は手ぬぐいで顔の汚れを拭った。バルダルの肌は、絵具のでも漬けたのではないかというほどに、黒く煤けている。拭いても拭いても一向に元の地肌が見えそうになかった。


「そういえばもう着いたの? 汽車? 止まってるみたいだけど」


「馬鹿言うな。こんなに早く着くわけねえだろうが。ここはボウチョウから出たばっかりの海沿いの仮拠点だ。諸々、運び込むもんがあるんでな。そのために止まっただけだ」


「馬鹿って……!」


 シャーミアが思わず反論しかけたが、バルダルはそんなことを気にした様子も見せない。彼は親指を背後に向けて、そしてその場全員に向かって、告げる。


「食っちゃべってねえで、働く時間だ。試走の乗員として来てるんだから、手伝ってもらわねえとな」



 バルダルに連れられて外に出ると、潮の香りが鼻をついた。見渡せば暗闇で、海の全貌は視界には映らない。しかし月が下ろす光が海を煌めかせ、波の音と匂いもまた、その存在を強く感じさせた。

 心地良い海風が吹いている。肌寒くもなく、不快な温さもない。穏やかな空気がその場には満ちていた。


「親方。積み荷の準備はできてますぜ」


「あとはここまでの道中での整備ですが、オレらも手伝います」


 バルダルと同じような容姿のドワーフたちが、汽車の停車場で待っていた。彼らはいそいそと忙しなく、何やら金槌やら目盛りやらで汽車の様子を確認し始める。まるで診察か何かのようだ。

 シャーミアたちがそれらを眺めていると、バルダルから声が掛かった。


「ぼーっと突っ立ってねえで、こっちを手伝ってくれ。積み荷を汽車に運ばなきゃなんねえんだ。結構量があるから、手早く終わらせるぞ」


「わかっとるって。わしらにできることならやるっちゅうのに……、ってバルダルさんの言う通り、意外と多いのう」


 バルダルが指し示した先に視線をやると、山積みになった木箱が目に入る。一つ一つの木箱は運べなくないサイズだが、それでも物量としては見たこともないほどの量だ。


「まさかこれ、全部運ぶの?」


「そうだ。この試走は、ヤマトへの荷物の運送も兼ねてるからな。荷物は全部空いている車両に詰めりゃあいい」


「……確認だけど、あたしたち一応護衛としてこの汽車に乗ってるのよね?」


「何今さら当たり前のこと確認してんだ? そうに決まってるだろうが。ただ、現状で誰かの邪魔が入る様子もねえし、手が空いてるもんは使わねえとな。ま、やりたくねえなら別にいいがよ」


 随分と厭味ったらしく言われたものだ。よほど反発してやろうかと思ったが、断ってこの場に置いて行かれでもしたら目も当てられない。というよりも、そうした不毛なやり取りが時間の無駄であることを学んでいた。


「どうせやらないと汽車が動かないんなら、やるわよちょうど体も動かしたかったところだし」


「わ、(わたくし)も微力ながらお手伝いいたしますわ。力仕事は、あまり得意ではございませんけど……」


 リリアもやる気満々な様子だ。その気持ちは嬉しいが、彼女に力仕事は似合わない。


「重いもんはわしらに任せとけばええ。リリアさんは、休んどけえ」


「そんなことできませんでしてよ!? (わたくし)だって何か……、そうですわ!」


 何かを閃いたらしきリリアは両手を合わせて、それからカバンから何かを取り出した。

 立派な装飾が施された筒だ。蓋を開けてみると、仄かにほろ苦くも良い香りが鼻腔をくすぐった。


「先ほどの町で購入させていただきました、お茶の素だそうですの! (わたくし)、皆様にこちらを振る舞わせていただきますわね!」


 そう言うが早いか足早にまた汽車へと戻っていってしまった。こちらもリリアのやる気に負けるわけにはいかない。


「それじゃあとっとと始めるわよ。……そういえば、アセビは?」


 辺りを見渡しても、その姿が見えない。まさかまたどこかで酒を呑んでいるのではないか。山積みになった荷物へと向かうルアトが、振り返りながら答えた。


「アセビさんなら眠いから休憩するって言って、まだ汽車にいるかと」


「……あのおじさん、ずっと休憩してない?」


「まあまあ。アセビさんのおかげでこうして汽車にも乗せてもらえているわけですし、これぐらいなら僕たちだけでも運び込めますよ」


「それはそうかもだけど……、まあ必要になったら叩き起こせばいいわね」


 嘆いたところでアセビにそれが伝わるはずもない。仕方なく息を吐いて、シャーミアとルアト、それからジセイは、目の前に積まれた大量の荷物を汽車へと運んでいく。

お読みいただきありがとうございました!


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