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【毎日0時更新】魔王の娘  作者: 秋草
第三章 廻槃福音のエニアグラム
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夜風を縫い、黒汽車は車輪を手繰る

 夜の気配に汽笛が走る。舗装された線路を駆ける黒鉄の猛牛は、風を切り裂きながら海岸沿いを進んでいた。


「ガハハハッ、次男坊は意外と飲める口だねェ!」


「アセビさんこそ、噂通りの酒の強さじゃ。さすが、クザクラ将軍のお抱えの武士。伊達じゃねえの」


 目的地へと向かう汽車の中。上機嫌に顔を赤らめる大人二人が、笑いながら酒を呷っている。他に乗客はいないので迷惑とかではないが、まるでその一角だけ宴の様相を呈している。隣で騒ぐ二人に、シャーミアは軽蔑を込めた視線を送っていた。


「この酔っ払いたち、本来の目的わかってるのかしら……」


「……まあ、たまにはいいのではございませんこと? こうして休息を取るのも大事ですし」


「リリアちゃんはまたそんな甘やかすから……。その理屈ならアセビなんてずっと休息してるじゃない」


 困ったように笑うリリアに、シャーミアもまた溜息で返した。

 とはいっても、リリアの言う通り休息のタイミングではある。シャーミアたちの当面の目的は先んじて京へと赴くこと。そこで連れ去られたアマビエという妖を、救出する必要が出てくるかもしれないのだ。シリウスが取り逃がすとは思えないが、万が一のためそういう手筈となっていた。

 それにしても限度がある。今はスズもおらず、介抱することになるのは勘弁願いたかった。


「大丈夫だって、シャーミアちゃん。俺ァ、酔っ払ってねェからよォ」

 ふらふらと、首も座っていない赤子のようにして、こちらへと顔を向けるアセビ。ジセイの興味もシャーミアたちへと注がれて、ある一点を見つめたまま彼の視線は止まった。


「そっちの童子は、初めて見るのお。なんじゃ、人形さんみてえじゃ」


「余の名はヌイだ! お主のことはシャーミアから聞いておる。目的地までの短い間となるが、よろしく頼む!」


 ヌイはリリアの膝に乗ったまま、そう溌溂と挨拶を交わした。微笑ましいものを見るように、顔を綻ばせるジセイに、アセビがニヤリと笑う。


「ヌイちゃんはそりゃあもう優秀なんだぜィ? っつゥよりも、その元の女の子が凄いって言った方がいいかもしれねェけどなァ」


「よせアセビ。そう褒めると照れるではないか」


 鼻息を鳴らして嬉しそうに胸を張る姿に、どこに照れがあるのか。調子に乗りそうなヌイにルアトも頷き同意を見せる。


「アセビさんも魅力を理解してきたみたいですね。彼の仰る通り、本当にお姿からその人格、前向きな姿勢、圧倒的な実力、全てひっくるめた何もかもが素晴らしく見習うべきお方なんですよ」


「へえ。ルアトやアセビさんがそこまで言うんじゃ、ホンマなんじゃろうな。じゃが、まあとてもじゃないが、そういう風には見えんがな」


 確かにヌイは見た目は人形みたい、というかほとんどぬいぐるみだ。少女というには小さすぎる容姿だが、不思議と受け入れられてしまう。ジセイが訝しむのも無理はないだろう。


「次男坊の気持ちもよおくわかるよォ。なんせ、見た目はただの可愛い女の子だからねィ。ただこのヌイちゃんは、いわば分身みたいなもんでさァ。本体がちゃんと別にいるんだ」


「分身術ってことなんか。若いのに大したもんじゃ」


「分身術だけじゃねェのさ。空も飛べりゃあ大地も操れる。見た目はただの童なのに、できねェことがねェんじゃねェかってぐらいには、何でもできちまう。それがヌイちゃんの本体、シリウスさんさ」


 アセビが意気揚々とそう語るにつれて、ヌイの鼻も伸びていくようだった。決してヌイの功績ではないはずだが、どうしてそこまでしたり顔ができるのだろうか。ルアトもまるで自分のことのように胸を張っている。

 そんなシリウスを謎に称賛する空間が形成されている中、両目を細めたジセイがじっと、シャーミアへ視線を注ぐ。


「……そんな大層なヤツが、何用で来たんじゃ?」


 酒に呑まれたような、ぼやけた声音ではない。こちらの意図を看破しようと、狙いを定める狩人に似た目だ。


「おどれら、異邦のモンじゃろ? ただの観光ならそれでいいんじゃが、どうにもそうじゃなさそうじゃ」


「それは――」


 本当のこと、例えば『珠の勇者』を倒すために訪れたと言えば、どうなるか。アセビやスズは納得してくれているが、全員がそうとは限らない。無駄な揉め事を起こさないためにどうするべきか、適当に言葉を発しようとしたシャーミアに代わって、アセビが応えた。


夜刀神(やとがみ)を討つ。そのために、シリウスさんたちに力を貸してもらってるのさァ」


「はあ? なんじゃそりゃあ! そんなことできるんか!?」


 汽笛にも負けない驚愕の声。目を丸くして、アセビに食いつくジセイ。それほどまでに興奮するようなことなのか。流れについていけないシャーミアたちは大人しく、その様子を見守っていた。


「生半可な実力じゃあ、そりゃあ無理だろうねィ。あれは神だ。神を殺すには、相応の力が必要だ」


「シリウスってヤツは、そこまで強いんか」


「敵うかどうかは、やってみるまでわかんねえなァ。ただ、俺たちァ賭けたのさ。あの堕ちた悪神、夜刀神(やとがみ)を、シリウスさんなら討ってくれるってなァ」


「……」


 ジセイは黙り込み、手近にあった酒を一気に呷った。そして、いきなり膝を打ったかと思うと勢い良く立ち上がる。


「あっぱれじゃ! その心意気や良し! 天地をひっくり返すその偉業、わしにも手伝わせてもらおう!」


 汽車の揺れをものともせず、ジセイは仁王立ちで腕を組む。それに対してアセビは笑って返した。


「次男坊はやることもあるじゃねェのかィ? サキガケ家がこれ以上の奔放を許すのかねェ?」


「じゃけえ、やることを終わらせてから協力するんじゃ!」


 何やら話がまとまりつつある。シャーミアとしてはジセイが協力しようがしまいがどちらでもよかった。寧ろ別のことが気に掛かり、尋ねる。


「ねえ、アンタもその夜刀神(やとがみ)ってヤツを倒したいの?」


「わしとしてはそれほど執着はありゃせん。倒されようが生きようが、どっちでもええ。わしの家系にゃ夜刀神(やとがみ)の呪いを受けたモンはおらんからの」


 どうしても許せない、というわけではないらしい。そんな軽い気持ちで挑むようなことではないのだが、ジセイは自信に満ちた様子だ。


「それに、神を下す機会なんざ生きとるウチに何回もありゃせんじゃろ」


「とんだ、罰当たりですね」


 ルアトの苦笑いに、ジセイは豪快に笑ってみせた。

 肝心の夜刀神(やとがみ)の力を知らないわけだが、戦力が多いことに越したことはないだろう。


「賑やかな旅だな」


「ええ。本当に、そうですわね」


 隣で紡がれる声は穏やかで、眩しそうだ。

 そうこうしていると気がつかない内に、汽車の揺れは収まっていた。

お読みいただきありがとうございました!


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